29話 スイは黒ギャルっすよ!
「私の話はいいッス! スイはほら、黒ギャル! 肌黒くて茶髪!」琴音は無理やり話題を戻す。ちょっと涙目だ。
「ばれたかー、ってちゃうわ。水泳部だからだって」スイもつっこむ。
「水泳部だとそうなるの?」僕は気になって訊ねる。
「プールの塩素で髪の色素抜けちゃって茶髪になっちゃうんですよ〜。あとほら、うちのプール屋根開くじゃないすか。だから夏場とか天気いいときは日光とりいれながら練習するんですよ。それで日焼けしちゃって」
「冬もあけるの?」この気候で屋根開いたら寒くないのかな。
「いや、開けないんすけどねぇ。夏の日焼けしたのがなかなか落ちないみたいで。あ、地肌はそんなに黒くないですよ、みます?」とスイは胸元のカーディガンとシャツのボタンを外し始めた。
「先輩見ちゃだめっス! 目に毒っス!」琴音は慌て僕の両目を手で塞ぐ。真っ暗だ。
「毒とはひどいなー。ほら、今下に水着来てるから大丈夫だって」
「ああなんだ……てか部活なかったんスね」ほっとしながら琴音は手を離す。確かにスイは水着を着ていた。スクール水着ではなく、競泳水着とか言うやつだ。
「そーそー。今日朝から水着着ててさー、部活ないって聞いてわざわざ脱ぐのめんどいからこのまま着てきちゃった」肩をすくめてスイは呟く。
「マネージャーの私も知らんくてさ、もし最初から知ってたらことねと別れず帰ってたんだけどもね」リコも言う。
「んでほれ、肌そこそこ白いっしょ」スイは水着の胸元を引っ張り、僕の方に見せてくる。水着の下の肌は見てわかる程度には白かった。……もう少しで見えてはいけない部分が見えそうになってる。
「わわわわ!! だめッス!!」また琴音が慌てて目を塞ぐ。さっきより力が強くて痛い。
「リコやことねみたいに大きいわけじゃないからヘーキじゃね? 谷間もほぼねーし、こんなぺったんを好きになる人なんてまれにしかいないよ」
「わたしは好きだけどなー」リコは呟く。
「うわまれにいたよ。奇跡の出会いか? とりま揉んどく?」
「揉んだら成長しちゃうかもだしえんりょするわ」
「そっか残念。んでことね、小さいからパイセンが見たところでヘーキっしょ。みじんも興奮しないって」
「……いやいや、大きい小さいの問題じゃないっス! 男の先輩に見せちゃだめだって!」琴音が珍しく正論で突っ込んでいた。
「そっかぁ……」スイは渋々納得しているようだ。
「肌が白いのはさっきちらっと見えたし、もう大丈夫だよ」と僕は言う。……本音としてはまだ見たかったけれども。琴音の手がはなれ、視界が戻る。スイは服をもとに戻すところだった。
「まーみせちゃいけないのはわかるけどさ、その男の先輩におっぱい押し付けてたのはだれだろなぁ」リコはにやにやしながら琴音に言う。
「うっ……それはその、魔が差したっていうか……久々に先輩に会えてテンションあがってて……」琴音はしどろもどろになる。
「ほらほら、今ならなんとわたしのおっぱい揉み放題っすよ〜」リコは琴音の声真似をしながら、スイのう腕を取り、自分の胸に押し付ける。巨乳のせいもあってか、視界のインパクトがすごい。むにゅう、という効果音が聞こえてきそうだ。
「ふぉ!?」押し付けられたスイはびっくりして顔を赤らめる。
「え、スイのってよ〜このままだと滑っちゃうじゃん」リコは少し口を尖らせる。
「あ、うん。パイセンなんて言ってたっけな?」スイは少し考え、「おっいいねぇ。キスはしてもいい?」とニヤけ面でリコに顔を近づける。いや僕はそんなこと言ってないしニヤけてもいない。
「なんか違くね……まあいいか、きっキスっすか!? 追加オプションですけど今なら無料に……」琴音のセリフの真似は完璧だ。声色もよく似ている。
「まじ? じゃあ遠慮なくべろちゅーを……」スイはそう返す。だから僕はそんなこと言ってない。スイはリコの唇に自分の唇をゆっくりと近づける。
……あれ、冗談ではなく本当にする勢いだ。スイの表情を見ると、真剣と書いてマジなようだった。リコの方も軽く口を開けそれを受け入れようとしているように見える。
不純異性交遊……いや、同性だから逆に純同性交遊……?いやいやこんなところでキスは同性でもだめでは、止めないと。
「こと……」ぼくは琴音に止めてもらおうとそちらを見る。彼女は顔を真っ赤にしてぷるぷると震えていた。真似されて恥ずかしいみたいだ……これでは止める余裕などなさそうだ。
二人の唇の距離はあと指一本の隙間もない。心なしか、二人とも頬が紅潮しているみたいだった。ああ、今から声をかけても間に合わない……。それに二人の間に男の僕が割って入ってはいけない気がする……。
そして、ついにリコとスイの唇が重なり合う、その瞬間……。
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