26話 スイとリコ
僕達四人は校内の食堂兼カフェに移動した。図書室でこれ以上騒ぐのは流石にまずいと思って、僕が移動を提案した。
「ほい、センパイの分」ことり、と僕の前に缶コーヒーが置かれる。琴音の友達の一人、褐色肌の友達が買ってきてくれた。
「ありがとう。いくらだった?」と僕は財布を取り出しながらたずねる。
「あ、いいですいいです。おごらせてくださいよ」
「えっ」
「いいもの見させてもらっ……勝手に覗いたお詫びってことでここはひとつ」軽く両手を合わせながら褐色肌の友達は言う。
「そういうなら、ありがたく受け取っておくよ。覗いた件についてはびっくりしただけだし」
「あざます! あ、自己紹介がまだでした。私はスイ。月詠スイっていいます」
「月詠さんね」と僕は自分の名前も伝える。
「なるほど。ことねも先輩って言ってるし、私も先輩……いやパイセンって呼ぼうかな」
「いいよ。呼び方は何でも」僕自身はなんと呼ばれようが別にこだわりはなかった。
「覗いたのはごめんって。機嫌直してよ〜」と琴音に缶ジュースを差し出しながらもう一人の友達は頭を下げる。スイと対象的に肌の色は白かった。
対して謝られている琴音はむす〜とほっぺを膨らませて黙っていた。でも缶ジュースは受け取って飲み始めた、こくこくと。
「あ、こっちはリコ、星見リコっていいます」スイが紹介してくれた。呼ばれたリコは「どうも、先輩……いやパイセン」とあいさつする。
「私もごめんね。ことねが可愛くてさ、つい揉み過ぎちゃった」スイも琴音に頭をさげる。
「かわいい……」少し琴音の頬がゆるむ。「いやいや、ほめた程度じゃ許さないっスよ……先輩の前ではずかしめられた罪は三日は消えないっスよ……」ぷー、と頬をふくらませる。まあ、僕が来た時はちょうど事後だったのではずかしめられたも何もないんだけれど。
「ね、スイこうしない?」とリコはこしょこしょとスイ耳元で
「お、それはいいね。」それを聞いたスイは頷き、琴音の手を握る。「ことね、今度あまあまパラダイスおごるよ!」その名前はたしかスイーツ食べ放題のお店だったはず。
「え、いいの?」ぱあっ、と琴音の表情が明るくなる。
「いいよ、しかもプレミアムたべほおごるよ」
「マジ!? ………にぇへへ」さっきの怒っていた表情とは一変して、だらしない笑顔をのぞかせる。「じゃあ、許しちゃおうっかなぁ」
「よっしゃ! それで手打ちね!」スイも笑顔を返す。
「ことねっちって……ちょろいっすよね」リコは僕にだけ聞こえるように囁いてくる。
「それね。そこがまたかわいいんだけども」僕も同意する。
「ふふふ。かわいいですよねぇ〜」リコは自分がほめられたかのように満足げな笑顔を見せた。
「あ、ついでに先輩にもおごりましょっか?」スイは
軽い調子で僕にも聞いてくる。
「えっ? いやいやいいよ。揉まれたわけでもないし……この缶コーヒーで充分すぎるよ」
「そっすか。まーでも一緒にあまパラ行きません?」軽い調子でスイは誘ってくる。「先輩行きやしょ!」機嫌を取り戻した琴音も誘ってくる。
「えっと……うん、いいよ」断る理由は別になかった。少し戸惑ったけれど。
「「よっしゃ!」」スイとことねの声がハモる。リコもうんうん、と頷いていた。
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