25話 私、揉まれちゃいました。

 僕は驚きのあまり、ちょっと固まっていた。覗いている二人は女の子だった。片方は日焼けしているような褐色肌で、もう一人は対象的に肌が白い。……その二人の顔はなんとなく見覚えがあった。でもどこで見かけたのかは思い出せない。少なくとも僕の友達や知り合いではない。


 仕切りの上の二人は僕が見ていることには気づいていないのか相変わらずにやついたままだ。どうやら琴音の方を見ているみたいだ。そして見られている琴音は……気づいてない。


「ほらほら、今ならなんとわたしのおっぱい揉み放題っすよ」でれでれと、僕の腕を抱きしめまくってくる。


「二時間たっぷり揉んでいいッスよ〜あ、ラストオーダは三十分前ッス」


「何かの食べ放題……? それより」僕は琴音の耳に顔を近づける。


「きっキスっすか!? 追加オプションですけど今なら無料に……」何を勘違いしてるのか琴音は顔を赤らめる。


「ちがうちがう。その、覗かれてて」僕は琴音の耳元で囁く。


「はえ?」


「ほら、正面の仕切りの上から二人……」


「急に怖いこと言い出さないで欲しいッス。そんなバカなことあるわけ………あ」顔を上げ仕切りの方を見上げた琴音はぽかん、と口を開けて表情が固まる。


「あ」「あ」仕切りの上の二人もぽかん、と口を開けて同じ反応をしていた。


 ……………………。


 少し、沈黙が流れる。三人とも表情は固まったままだった。気まずい。僕はゆっくりと琴音と二人を交互に見つめる。どうしようか……。


「な、な、にゃ、にゃんでえ!?」沈黙を破り、ことねが叫ぶ。


「やべっ」と二人は仕切りの上から顔を引っ込める。


 その後すぐに仕切りの向こう側から声が聞こえてくる。


「ばれた?」「目あったよね」「にゃんでとかいってたね」「かわいいね」二人で話し合ってるようだ。声のトーン的にひそひそ話っぽいけれど、肝心のボリュームが大きくて丸聞こえだった。


 覗かれていた琴音は……わなわなと震えていた。顔が火のように真っ赤っかになっている。


「えっと……今の知り合い?」と僕はたずねてみる。


「とっ、友達ッス……やべぇッス……」


「ああ、友達なのね」僕は少しほっとした。知らない人だったら怖いけれど、友達ならまあ……覗きたくなる気持ちもわからないではない。おっぱい触らないでよかった、とちょっとほっとした。


 以前琴音と校内ですれ違った時一緒にいた記憶があった。だから見覚えがあったのか、と合点がいく。


 再び仕切りの向こうから大きなひそひそ話が聞こえてくる。

「おっぱい揉み放題だってよ」「うらやましいね、私らも揉むか」「今揉みにいく?」「いや逃げようぜ、ことねのことだから私達ってバレてないっしょ」「たしかに? じゃあこっそり逃げるか」……流石に無理があるのでは。


「……いやバレてるに決まってるじゃないッスか」僕の気持ちも代弁するように琴音がつぶやく。


「ちょっとあいつらに文句言ってきます!」勢い良く立ち上がり個室から出ていった。


「おっおまえらっ……!」向かい側からことねの声が聞こえてくる。


「あ、見つかったわ」「ありゃま、よっことね」二人は呑気にあいさつを返している。


「勝手に覗くなんてっ……おこっスよ!!」言い方がなんか可愛い。恥ずかしさをごまかしたくて怒ってるみたいだ。


「ごめんごめん。今度から許可取って覗くね」「それ。ちゃんとSNSのニャインとかで聞いて返事なかったら肯定ととらえて覗くから」


「それなら……じゃなくて覗くなって言ってるんス!」

仕切り越しにもぷんすぷんす、となってる琴音が想像できた。


「まあまあ、かれぴの代わりにたくさんしてあげるからさぁ」


「いやまだ先輩は彼氏じゃ……あっ、ちょ何するっ」どたばた、と何か揉めてる音がする。


「んにゃぁあああっ」琴音はネコみたいな悲鳴を上げている。


「あばれんなって〜」「痛くしないからさぁ〜」対する二人のセリフも相まって、なんか少しいかがわしい雰囲気になってきた。もし、友達かつ同性同士じゃなければすぐに助けに行くべきかもしれない。


 少しして、琴音の声が聞こえてきた。

「あっ……だめっ……やめるッス……にゃっ……はっ……」


「いやーいつもよりいい声で鳴くねえ」


「だってぇ……いつもは軽く揉むだけじゃないッスか……こんながっつりなんてはじめてんにゃっ……だめっ……」


「ほれほれ〜」


「にぇへっ……私のからだなんか変になってきてるッス……もうやめっ、ふにゃあ……」どんどん声が色っぽくなってきてる。


 ……そろそろ止めないと。他の人や先生に見つかったら面倒くさいことになりそうだ。席を立ち、向かい側に回る。


 琴音は捕まっていた。片方の友達の膝の上に座らされ、お腹に両手を回され、動けないようにされている。ブレザーとその下のカーディガンの前が開け放たれ、白シャツが露わになっていた。胸の膨らみが見てとれて、そちらに少し目がいってしまう。


 琴音の正面に座っている友達はちょうど琴音の胸から手を離すところだった。満足げな表情をしていた。


「お、先輩ですっけ? はじめまして」「どうも〜」友達二人は僕に気づきあいさつしてきた。僕も「はじめまして」と返す。


「あ、先輩……わたし……汚されちゃいました……」琴音は死んだような目をしていた。そこから涙が一筋つうっと、流れる。


「そんな大げさな。……あえて聞くけど何をしていたの?」


「いやぁほっぺ揉んでただけだよねぇ」「そうそう、琴音の柔らかかったなぁ」と友達二人はうそぶきながら手をわきわきとうごかした。明らかに頬を揉む手つきじゃない。


「二人の嘘つき……さんざん私のおっぱい弄んだくせに」ひっくひっくと琴音は泣きながら言う。


「ほら揉まれたら成長するっていうじゃん? ことねっちの今後を思ってたくさん揉んどいてあげたんよ」琴音の正面に座ってる友達は言う。


「……君のほうが小さいんスから自分の揉んだほうがいいんじゃ」ボソリと琴音はつぶやく。たしかに琴音の言うとおり、正面の友達のサイズはかなり控えめ……スレンダーだった。


「いったな! こうしてやる」友達はむぎゅう、と琴音の胸をわしづかみにした。


「んにゃぁああ!?」琴音の悲鳴が図書室に響き渡る。

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