センパイ、学校でもぼっち……じゃないッスね!

23話 センパイ、傘忘れたんスか?

 始業式があった放課後。僕は昇降口で雨が降っているのに気づく。大雨では全然ないけれど、小雨というには結構降っていた。


「まじか……傘持ってきてないな」と鞄の中を漁り、僕はつぶやく。


 一月中旬。この時期の雨は時期もあってかなり冷たい。小雨ならば濡れて帰るのも悪くないけれど、この雨で濡れたら風邪は免れなさそうだ。


「あ、先輩」そう声をかけられて振り向くと琴音が立っていた。


「おはよーッス」いつもの調子で話しかけてきた。


「おはよ……ではなくない? もう放課後だし」


「たしかに? 今日初めてあったからおはようの気分だったっスね。それに久しぶりですし」


 たしかに久しぶりだった。琴音とは浅草寺の初詣以来、一度も会っていなかった。バイトのシフトも日にちがたまたまずれていて一緒にならなかった。


 ……遊びやご飯に誘おうかなと思ったけれど、ことねに告白の返事を期待させてしまいそうで誘えなかった。


「ちょうど帰るところッス?」


「うん、でも雨がね。傘忘れちゃって」


「あ、じゃあ私の傘使います?」琴音は自分の鞄から折りたたみ傘を取り出した。コンパクトでかなり小さい。


「え、いいの?」


「いいッスよ〜。あ! でもそのかわり……」


「そのかわり?」


「わっ、私を抱きしめて、ほっ欲しいっス……」顔を赤くさせ、少しどもりながら琴音はいう。


「………」僕は下駄箱から靴を取り出す。


「にゃんで!? なんで黙って帰ろうとするッスか!? 半分冗談ですからまって!」慌てたように琴音は僕の腕を掴んで止めてくる。


 ……流石にこんな人目が付くところで琴音を抱きしめるのは気が引けた。

 先生に見つかったら注意されるし、もし知り合いに見つかっても噂の種になってしまう。


「というか、予備の傘持ってるのね」


「いや、一本だけッスよ?」


「えっ、それ貸したらことねは濡れて帰ることにならない?」


「たしかに? まー私は濡れてもヘーキっすよ! 水も滴るいい女ってやつ?」あっけからんと言い放つ。


「いやいや、風邪ひくでしょ」よくわからないボケはおいておいて冷静につっこむ。


「うーん一本しかないなら遠慮しとくよ」後輩の傘を奪って自分だけ帰るなんて、僕はそんなゲス野郎ではない。


「なら相合傘します? かっぷるみたいに?」


「……ちょっと貸して」僕は傘を受け取り、広げる。思ったとおり、コンパクトなだけあってかなり小さい。もし僕一人で使っても肩あたりは濡れてしまいそうだ。少し小さい琴音ならぎり大丈夫そうだけれど。


「これで相合傘したらお互い濡れちゃうかなぁ。やめとくよ」傘を閉じて返す。


「そっすか……残念ッス……」琴音はしょぼんとなった。


「でもありがとう、その優しい気持ちだけ受け取っとくよ」僕は上履きに履き替える。


「先輩はどうするんです?」


「止むまでまつか、売店で傘を買って来ることにするよ。またね」そう返し、昇降口を後にした。

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