22話 センパイ、大好きッス!
僕達はしばらく抱き合っていた。空をぼんやりと見上げる。太陽に照らされた雲が茜色に染まり、夜の訪れを予感させていた。幸せだなぁ、と実感する。……あとは、僕の気持ちが整理できていれば最高だったけれど。
ふと気づくと、琴音はぷるぷると震えていた。僕の胸に顔を埋めたまま。
「どうしたの?」少し心配になり、声を掛ける。寒いのだろうか。
「……ぷはぁ!! 怖かったッス!」顔を上げたことねの目からはポロポロと涙がこぼれていた。その表情は、いつもの小憎らしくて、可愛い琴音だった。
「そんな、泣かなくても。なんか振ったみたいじゃん……」
「だってだってぇ、告白して嫌われたりしたらどうしようかと思ってたんス……」えぐえぐ、と琴音は泣き続ける。
「ううん、絶対にそれはない。こんな健気なことねを、嫌いになんてなれないよ」そっと、頭を撫でながら僕は告げる。
「よかった〜! 先輩大好きっス〜!」笑顔になり、ぎゅっ、と涙に濡れた顔を僕の胸に押しつける。
「ちょ、僕の服で涙拭くなって……まあいいか、濡れても乾くし……」
鼓動はだいぶ収まってきていた。抱きしめているからか、まだとくん、とくんと跳ねてはいるけれど。
「でも、真面目になったことね、初めて見たな」
「ふふ、そうッスね。真面目にするのすんごい緊張したッス」えへへ、とことねは照れ笑いを浮かべた。
「ただ、いつもみたいにノリで告白するのは違う気がしたッス。本気でセンパイに想いを伝えたくて」
「なるほど、たしかにいつもの感じで告白されたら冗談に思っちゃうかも」
「それなら真面目になってよかったっス」にこっ、と微笑む。その笑顔には少し真面目なことねが
「でも、真面目なことねは大人びてて色気があるけれど、緊張しちゃうなぁ。いつものアホことねの方が可愛いし好きかも」
「アホって言うなッス! でも好きならいいか……にぇへへ……」口元を緩ませ、だらしない笑顔を覗かせる。
「そうだ! いつものアホな私でも告白していいッスか?」と琴音は謎な提案をしてくる。
「いいよ。でも答えることは……」
「答えなくっていいッス! 先輩は私の告白というわがままを聞いてくれるだけで幸せッスから!」ぎゅー、と更に抱きついてくる。僕の心がまた跳ね上がってしまう。
「じゃあ、改めて」琴音はそう言い、くっついていた身体を離し、一歩下がる。
琴音はそっと僕の両手をとる。きゅ、と包み込む様に握り締める。
ことねは僕を真っ直ぐ見つめ、にっこりと笑いかける。今まで見た中で最高の笑顔だった。
「センパイ、大好きッス!」
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