　――僕は黙ったまま、ことねを見つめ返していた。

自分の心がどくん、どくんと跳ね回っているのがわかる。

「僕もことねのこと、好きだよ」と返したかった。「付き合いたい」と言いたかった。喉までその言葉はでかかっていた。でも……でもまだ言えない。振られたとはいえまだ藍のことを諦められてはいなかった。

　ゆっくりと、ことねが口を開く。「聞いてくれて、ありがとうございます」

「……うん」としか僕は返せない。

「それに、先輩が複雑な気持ちのときに告白しちゃってごめんなさい」ことねは少し伏し目がちになる。

「……いや、」そんなことないよ、と言おうとしだけれど、また喉でつっかえて出てこない。

「……今日、告白するつもりはなかったんです。振られた先輩の寂しい気持ちを私が恋人っぽくじゃれつくことで紛らわせるかなって思ったんです」きゅ、と僕の手を握る力が強くなる。

「でも、恋人ごっこをしているうちに私の想いが止まらなくなってしまって……どんどん、先輩を好きになってしまって……つい」えへへ、と照れ笑いをする。そんな笑顔を見せられると思わず抱きしめたくなってしまう。

「勢いで、告白してくれたのね」元々、琴音は思ってることを隠せるタイプではなかった。

「そうです……だから今別に返事が欲しいんじゃないんです。先輩はこの、私の告白に答えなくていいです。私の好きだよ……っていうわがままを聞いてほしかっただけです」

「……ありがとう」心から、僕はその言葉を述べる。

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