16話 センパイ、お参りの作法知らないんスか?
浅草寺が近づいてきた。
「ふ〜んふふ〜ん♪」琴音はとてもご機嫌なようで鼻歌交じりに歩いていた。もちろん、手を繋いだままだ。
手は充分に暖まり、僕の手は少し汗をかいてきていた。ちょっと手を離したかったけれど、琴音の満面の笑みをみると気が引けた。
「そういや、お参りするときに作法あったよね、確か二礼二拍手一礼……だったっけ?」
「ちゃうっス、それは神社っス。お寺は合掌一礼っスね!」
「へーそうだったの! よく知ってるね」僕は素直に感心する。
「えへへへ」照れドヤりながら笑う。
「おっと、手を清めましょ!」ことねは僕を脇の手水舎に連れていく。すっ、と繋いでいた手を彼女は離す。僕は少しホッとした。
「あ、このお手洗いの順番は神社と一緒っすね! センパイ覚えてます?」
「えーと落ち着いて、左手、右手、口の順番で洗って最後にひしゃくをゆすぐ、であってる?」
「せいかい! さすが先輩!」ぱちぱち、と小さく琴音は拍手する。
僕達は手水を行い、賽銭箱の前に向かう。
「お金ってどれぐらい?」
「自由っスね。一応、語呂合わせでご縁の五円とか五重の縁の五十円とかがいいとかありますけど」
「ことねはどのぐらい入れるの?」
「私? 百円以下の小銭あるだけ入れよかなって……」と小銭入れを取り出す。じゃらじゃらと音がする。
「けっこうためてるね……」
「私小銭ためがちなんス……買い物するとき計算めんどくさくて……」へへ、と少し恥ずかしそうにうつむく。
「バイトでレジしてるのに?」
「あれお金いれたら自動でお釣り出てくるじゃないッスか」
「あーそうだね」便利だけど計算力は身につかないのか、と思う。
……そういや、数字を数えなきゃいけない仕事の時に
琴音はよく手間どっていて手伝ってあげた記憶がある。
自身の財布をみる。小銭は五百円玉一枚しかはいってなかった。「ね、ことねの小銭いくつかとこの五百円と交換しよ」と僕は提案する。
「へ? 五百円も多分ないっすよ」
「別にいいよ。さっき言ってた五円とか五十円が欲しいから。余った金額はあげるよ」
「それなら……」と、琴音は小銭入れを漁り、五円玉枚と、五十円玉四枚を渡してきた。
「ありがと」とお礼を言いながら頭をぽんぽんと撫でる。
「にぇへ!? いえこちらこそありがとうございます! はげみになります!」とにやつきながら頭を下げる。
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