15話 恋に落ちたくない。


 浅草寺に向かう道中、ぶらぶらとお店を見てまわる。


 少し風が吹き始めていた。快晴とはいえやはり1月、気温は10度あるかないかなので風自体は冷たく感じる。


「ちょっと寒くなってきたね」手をすり合わせる。


「たしかに……じゃ、じゃあ、手でもつなぎます? 私の手暖かいスから」おずおずと僕に向かって手を差し出す。


「………」


「だまって自分のポケットに手を入れるなっス! せめて遠慮するとか言ってくださいッスよ……嫌なら別にいいんスから……」がっくりと肩を落とす。ちょっとからかいすぎたかな。


「ごめん……じゃあこうする?」すっ、と僕は彼女のコートのポケットに手を差し込む。


「ぴえん!?」


「ほらことねもポケットに手を入れて」これなら手の甲も外気に触れないからすぐ暖かくなるだろう。


「あ……はいじゃあ失礼します」言われるままに琴音もポケットに手を入れる。……何故か僕のコートのポケットに。


「ま、まあこれも悪くないっスね……」と頬をかきながらことねは呟く。腕が交差し、お互いのポケットに手を入れあう間抜けな絵が出来上がった。なにこれ。


「違う、そうじゃない」


「ふぇ?」間抜けな表情でぼくを見つめてくる。


「こうしたかったんだよ」と僕は手を抜き、彼女と同じポケットに手を入れる。そして、握手する形で手を繋ぐ。


「おお………あっなるほど。これめっちゃ暖まりますねぇ」ぎゅ、と彼女も僕の手を握り返してくる。確かに僕の手より暖かい

 

「この繋ぎ方めっちゃカップルぽい……しかも先輩からしてくれた……にぇへへ……」


 そういってさらにぎゅっ、と僕の手を握った。

彼女の鼓動が手を通して伝わってくる、ような気がした。自分の鼓動も思わず早くなってしまう。


 ……これは少し失敗したな。僕は今、彼女の事を恋愛対象として意識しないようにしていた。気になりだしてしまったら想いは止まらなくなり、恋に落ちてしまいそうだったから。昨日振られた今の心持ちでは、それはもうコロっと。


 ……せめてことねを可愛い妹として認識して、自分の気持ちも誤魔化そうと思っていた。彼女に慕われるのは嬉しいし、無下にもしたくなかった。


 琴音が僕のポケットに手を入れているせいで自然と距離が近くなっていた。無意識なのかわからないけれど彼女は僕に頭を寄りかからせてきていた。


「センパイ、ひざまくらとかされたことあります?」


「ひざまくら? おぼえてないなぁ……昔母親にしてもらったかな……」


「まーそうっすよね……こんどされてみません?」


「ことねがするの?」


「そうッス、一度やってみたかったんスよ……センパイにならしたいなって」


「えーでも、いたずらしてくるでしょ」


「いやいやしないっすよ!」


「ペンで顔に落書きとかしてきそう」


「私はクソガキッスか!? ……でもほっぺつついたりとかはするかもっすけど」琴音は少し頬をふくらませる。


「してみたいならいいよ」


「あはは、流石に無理っす……えっいいんスカ? ほんとに?」彼女はため息をつきかけ、少し驚いたようにこちらを見る。


「うんマジ。一度されてみたいなって」


「やった! こんど家とかでやりますね……にぇへへ」

ぎゅうっ、と更に強く握ってくる。


「……ちょっといたい」

 

「ふぇ? ああごめんなさいッス! ついテンションあがっちゃって」慌てて緩めた。


 ……こんどで良かった。こんな場所やれるはずもないけど、もし今ひざまくらされたりしたら本当に恋に落ちてしまう。

 

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