13話「ことねの食い倒れ道中記」前編
「さて、本日はこちら! 初詣で賑わっている浅草寺にやってまいりましたッス!」
「え、急に何……」僕は突然口調が変わった琴音に驚く。
「レポーター風に行こうかなって思ったッス。タイトルは『ことねの食い倒れ道中記』的な?」
「あーそういうことね? 完全に理解したわ」僕は腕組みをしながら返事をしたが、わかっていない。
「今日はなんと! ゲストのパイセンに来てもらいました!」
「続ける上に巻き込んでくのね……まいいや」
「最初の食いもんはこちら! あげまんじゅう!」ずびしっ、と琴音は一つのお店を指さす。
看板には「浅草九重」と名前が書かれていた。
「なんと日本定番のおやつ、まんじゅうを揚げちゃいましたっス!」
「そんなに定番かなぁ?」
「そこじゃなくて揚げたとこにツッコんでほしいスね……」
「あ、うん。揚げちゃったのね、まんじゅう」
「略してアゲマン! 食べた人は運気もアゲ↑アゲ↑になるとちまたで噂されているっス!」
「へぇ。お、揚げたてのいい匂いがしてきた……」
「食欲そそるッスよね! 早速品ぞろえを見てみましょう! 魅力的なラインナップはこちら!」ずびし、と陳列した商品を指さす。
「どれどれ。 こしあん、ゴマあん、抹茶、かぼちゃ、さつまいも、カスタード……え? もんじゃとカレー!?」
「そうなんすよ! 代わり種もおいてあるんス! さあ気になるのを選んでくださいっす! 」
「うーん王道のこしあんか……それとも変化球のもんじゃか……」
「迷うっスよね! 両方買って半分こします?」
「お、いいね」
「りょかいっス! じゃ私買ってきますね」琴音はレジに向かう。数分後、両手に揚まんじゅうを持って戻ってきた。
「じゃ半分食べてから交換しましょ! 先もんじゃのほうがいいっすよね?」
「うん、だけどことねはあんから先になっちゃうけど大丈夫?」
「まーへいきっす! 甘味も主食なんで!」ちょっと意味がわからなかったけれど、ここは甘える事にする。あんだけに。
早速たべてみる。あっすごい。ちゃんともんじゃもんじゃしている。
「どうすか?」
「これいいね。餡の食感なのにソース味だから不思議。でも全然ありだね、おいしい」
「でしょ! 私もいただくッス」琴音もぱくりとかじりつく。
「う〜んいつ食べてもうまいッスね〜」もぐもぐしながら満足気な表情をしている。
二口食べたら半分ほどになったのでお互いのを交換し、残りを食べる。
「あんこもおいしいね。揚げてるのに油っこく感じない。むしろ衣がサクサクで食べやすくなってる」僕は続けて感想を言う。
「そうなんすよ! さっくりさせるために揚げてるのので意外にさっぱりしてるんス! ぜひ、皆様も浅草に寄ったときに一度食べてみてくださいッス〜」どやり、と彼女は言う。
「え、皆様って誰……ああそういやレポーター風だったね……」
少し物足りなかったのでもう一個カスタードを頼み、二人で半分ずつにして食べる。こちらもおいしい。
「にへへ」何故か琴音は笑っていた。
「………どしたの、気味が悪い」
「気味悪い言うなっス! いやその、こうやって分け合って食べるのカップルみたいだなって」
「なるほど? 僕は仲の良い姉妹……じゃないや兄妹みたいだなって思ったな」昨日の藍とりんを思い出した。
「きょうだいッスか……」ちょっと琴音は肩を落とす。「じゃ私が姉っすね!」と何故かドヤる。
「んなわけ。年齢的にことねが妹でしょ、性格もそれっぽいし。こにくたらしい妹的な?」
「こにくたらしいってひどいッス……でもセンパイの妹……それもいいっスね……にぇへへ……」とまたにやつきはじめる。その表情が少し可愛いかったけれど、黙っておく。褒めるとドヤりそうだし。
「あ、そうだ僕の分のお金渡すよ」全部琴音が払っていたのを思い出し、財布を取り出す。
「あ〜計算めんどいんで私のおごりでいいッスよ。そんかわり次の店でおごってくださいッス」
「り」と僕は承諾する。
「じゃ次は高そうなお店いきやしょ!!」琴音はふふん、と小悪魔的な笑みを浮かべる。
「うん、いいよ」
「あ、いや冗談のつもりなんスけど……」とちょっと困惑している。
「妹のわがまま、少しぐらい聞いてあげるよ」と僕も冗談を返す。
「ふへっ!? 妹……妹って呼ばれた……にへへ」とまた顔がゆるむ。
ああ、やっぱりその笑顔かわいいな。またあとでちょこちょこ呼んであげるかな、とこっそり思う。
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