14話「ことねの食い倒れ道中記」後編

「さてゲスパイ! 次はどこの店寄りましょっか?」


「げ、ゲスパイ?」急についたあだ名に困惑する。


「ゲストのパイセン、略してゲスパイっス」


「いやそれだと僕ゲスいみたいになるやん」


「こまけーこたぁいいッスよ! ゲスいのもありッスよ。センパイにゲスい事される……うぇへへ……」また可愛くにやついて、暴走しかけてる。


 ぴ、と軽くほっぺを引っ張り正気にもどさせる。


「いて。あ、それでなんか食べたいものあるッスか?」


「さっき油物だったから、さっぱりしたもの食べたいかな」


「ふむ、ならアイスとかどうッス?」


「いいね……いや、この時期に外でアイスは辛くない?」今日は快晴もあって比較的暖かったけれど、流石に肌寒い。


「私はヘーキっスけど、たしかに寒いかもっすね……あ! お店のなかで食べるならどうっスか?」


「ああそれなら大丈夫かな」


「決まりッスね! こっちっす」琴音は僕の手を掴み引っ張っていく。


「さて、お次のお店はこちら! 抹茶ジェラートのお店!」ずばし、と指差した先には暖簾がかかっているお店があった。暖簾には「壽々喜園」とかいてある……よめない。


「これなんてよむの?」


「えっと、ききくき、のいのいき……」彼女も知らないようでのれんを凝視しながら考え始めた。


 僕もスマホで読みを調べようとする。……「壽」ってどうやったら出るんだろう?


「あ、すずきえんッスね!」急にふふん、と琴音はどやる。


 ……よくのれんを見てみると左端にローマ字で「SUZUKIEN」とかいてある。それを見つけたようだ。


「良く知ってるね、さすがことね」と半分棒読みでほめておく。


「どやぁ、もっと褒めてくださいッス」ついにどやぁを口に出して言いはじめた。


「えらいえらい、よーしよしよし」と頭を髪型が崩れない程度に優しく撫でておく。ペットに飼い主がよくやる褒め方だ。ペット飼ったことないけど。


「ふぇふ!? ……うにぇへへへ」と撫でられたことに驚き、すぐに顔がにやける。


 お店に入る。入った途端にお茶の香りが漂ってきた。


「そういや抹茶大丈夫ッス?」


「いや平気だよ、でも本物の抹茶って飲んだことないかも。抹茶ラテとかは飲んだことあるけど」


「私もないかもッス。まあ苦手じゃないならいけるしょ! ジェラートですし!」そう言ってジェラートコーナに僕を引っ張っていく。



「さて、すずきえん名物の抹茶ジェラートはこちら!」すばし、と琴音はジェラートのショーケースを指差す。


「おお、下の段全部抹茶ジェラートなんだ」ショーケースは二段あり、手前側七列は全て抹茶だった。


「そうなんすよ! しかもこれNo.1〜No.7の種類まであって全部濃さが違うんす! 数字が上がるほど抹茶が濃くなるッスよ!」


「ほんとだ、よく見ると色が左にかけて少しずつ濃くなってる」


「さて、どれ食べましょっか? 別に抹茶じゃなくてもイイっすよ! 上段のほうじ茶とか玄米茶ジェラートでも!」


「他のお茶ジェラート、そういうのもあるのか! でもここはせっかくだから抹茶ジェラートかな。ことねはどれ食べたことあるの?」


「確か、No4あたりだったッス。それでも結構濃くてまっちゃまっちゃしてるッスね」


「ふむ……よし一番濃いの行ってみよう!」僕は決心する。


「おお、男気っすね! じゃあ私はNo2ぐらいにするッス。んで食べ比べしてみましょ」


「お、いいね」


 僕がまとめて購入し、イートインコーナに

琴音は先に席を取ってくれていた。


「カップでよかったよね?」


「へーきっす!ゆっくり食べれるからむしろありよりのありっすね、」


 自分が頼んだNo.7と琴音のNo.2を比べると色の違いが分かりやすかった。とても深い緑と薄緑色。


 早速スプーンで一口分、すくってみる。重い感触を感じる。ジェラートなのに抹茶の香りがしっかりしてくる。口に入れる。


「おお、濃い……本物の抹茶ってこんな味なんだ……。たしかに苦い、けれどなんだろう、上品な苦さだ……。この苦さなら全然食べれるね」と僕はレポートしてみる。


「ほー結構気に入ったんスね。私も一口貰っていいっすか?」


「いいよ、はい」僕は自分のジェラートをスプーンですくい、琴音に差し出す。


「えっこれ……いわゆるあーんってやつッス?」少し顔を赤らめながら琴音は戸惑う。


「あ、ごめん嫌だった? 自分で食べる?」


「いや食べます食べます! ちょいとびっくりしただけッス!」真っ赤になって口を開ける。


「あーん、んにゅ」ことねはゆっくりジェラートを食べて味わっている。


「すごいねっとり……うわまっちゃ……まっちゃまっちゃ……にがにが……」なんか可愛い感想を言ってるけれど、レポーターとしては失格だ。


「ことねのももらっていい?」


「あ、はいッス。わ、私もあーんしましょうか」


「いや、いいや」


「にゃんでえ!? あーんさせてくださいッス!!」

とことねは涙目になる。


「そこまでいうならいいよ」ちょっとからかってみたら予想以上に面白い反応をしてくすっときた。


「は、はいあ、あーんっす」おずおずとジェラートをすくい、僕の方に差し出す。少しうつむいて恥ずかしそうにしている。そんなふうにされるとこっちまで恥ずかしくなってしまう。


「あーん」と僕は表情を変えずにそれを食べる。


「センパイにあーんできた……にぇへへへ……」とにやつくことねを尻目に僕はジェラートを味わう。


「あ~こっちはまろやかだ、ミルク感強くて食べやすいね」


「ですね、たくさん食べるならこっちスね! センパイの奴は一口で満足感すごいっすよね〜口の中まっちゃまっちゃになっちゃうッス」


「僕は好きだけども、甘さはあんまりないから人を選ぶのかも」


 そうして僕達はゆっくりジェラートを堪能した。


「というわけで皆様もぜひ色んなまっちゃを試してみてください!」と締め括った。……なんか前より雑に締めてる気がする。飽きたのかもしれない。


 食べ終わり、おいてあるナプキンで口元を拭く。


「ことねも……」と僕は言いかけ、彼女のあごの下に緑色のジェラートの残りがついているのに気づく。しかも溶けて垂れそうになっている。服に落ちたらシミになるだろう。


「ちょっと動かないで」と僕は急いで彼女の反対側のほっぺを包み、ジェラートを拭く。


「ふにぁう!? ななななんすかぁ!?」ことねはすっとんきょうな声をあける。


「ごめんごめん、垂れそうだったから」と僕はナプキンを見せる。


「ふぁーびっくりしました。てっきりこんなところでキスでもす……げふん、いや拭いてくれてありがとうッス」素直に琴音はお礼を言う。


「てかそろそろお参りいかないと」


「はっ、そうッスね! 忘れてました!」


「じゃ浅草寺に向かおっか」


 店員さんにお礼を告げ、僕達はお店をあとにした。

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