04 雅尭

 最新のゲーム。ひとつひとつ、開発の意図を汲みながら、クリアしていく。作り込みが深く、そのくせ直感的な操作を求められる良い仕組みだった。


「やるなあ」


 刈河かりかわ。彼もまた、開発の意図を汲みながら、プレイしているのだろう。ただ、あと一歩のところでいつもクリアを自分に譲る。


雅尭まさたか


「なんだい、刈河」


 雅尭。綺麗に画面をキャラクターが動いていく。無駄がなく、そして綺麗な半円形の軌道。


「いいのか、こんな小さな街に閉じこもって」


「何の話だよ」


「はぐらかすなよ」


 手元が、少し狂う。簡単にクリアしてしまった。まだ、開発の意図を読み込みきっていないのに。


「お前には完成された才能がある。そして器量も、度胸もある」


「いつになくほめるじゃないか」


「なのに、東の果てのこんな小さな街の、小さなショッピングモールのゲームセンターでゲームなんかしてる」


「そうだね。ゲームは楽しい」


「いいのか。それで」


 才能を持つと。器量や、人並外れた度量を持ってしまうと。普通の生きかたが、できなくなる。すべてが普通ではない。その中で普通を装い続ければ、心が悲鳴をあげて壊れていく。


「耐えるよ。しばらくは」


「つらくないのか」


「つらいよ。何がどうってわけじゃないけど、つらい」


 ゲーム画面の先。刈河は、たぶん、自分なんか霞んでしまうぐらい、つらい。


「でもまあ、今後のことは考えてある。自分なりに」


「ならいい」


「それにね」


 ゲーム。裏への道を発見した。


「ぼくはみんなと一緒にいたい。それだけだから」


 自分にとっての普通は、四人でいること。それだけ。


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