第11話 上手くいかない世界

山口の妹、リコちゃんが来てから。

1日が経過。

今日は山口は忙しくて来れないそうなので俺は7時30分。


つまり早めに家を出ようと準備していた。

これには理由がある。

そう、ユウキと一緒に登校しようと思っているのだ。

俺はユウキと登校するのも楽しいと.....思っているから、だ。


そして美空が用意してくれた朝食を食べてから。

俺は準備を即座にして、通学鞄を持ってから美空に先に行くな、と挨拶してから美空の笑顔を見てそのまま家を出た。

そして急いで登校していると.....目の前にランドセルを背負った女の子が居.....え。


「お兄ちゃん」


「.....お前.....リコ!?どうしたんだ」


「まだ諦められないです。お姉ちゃんと結婚して下さい」


「.....いや、だから.....俺は結婚とか出来ない年齢だし.....」


「でも付き合うことは出来ますよね」


う、うーん。

リコは目を輝かせながら俺を見てくる。

こんな待つとかしているぐらい俺に付き合ってほしい理由は何なのだろうか。

俺は膝を曲げてリコに向く。

リコ何でお前はそんなにお兄ちゃんに拘るんだ?、と。


「私の家は.....とっても複雑です。私、お姉ちゃんって言ってるけど本当は香織お姉ちゃんは血は繋がって無いです。でも香織お姉ちゃんの事が大好きです。だから恋を応援したいんです。だから.....付き合ってほしいんです」


「.....香織.....アイツお前と血が繋がって無いのか?」


「私の家庭は母以外は放置家庭でした。父親は私を育児放棄したんです」


「.....!」


「でもお姉ちゃんがそんな事すらも忘れさせる様にずっと私を可愛がってくれました。だから恩返しがしたいんです。ついこの前、香織お姉ちゃんが恋をしている事を知りました。だからお願いをしに行ったんです」


そんな複雑な家庭なんだな.....。

俺は少しだけ複雑な目をしてからリコを見る。

リコは泣きそうになっていた。

俺は見開く。


「香織お姉ちゃんは貴方が好きです。ずっと好きです。お兄ちゃんと付き合ってほしいんです」


「.....気持ちは凄く良く分かる。だけどな。俺.....山口もそうだけど.....誰とも付き合う気は無いんだ」


「.....え?何でですか.....」


「.....俺な。実は昔.....ゲームのオフ会って言ってな。人が集まる場所に行ったんだ。そしたらそこの人に散々、キモイとか馬鹿にされてな。俺、発達障害が有るんだよ。それで言葉が出なくてな。その姿がキモイとか馬鹿にされた。女も男もみんな、だ。だから人間不信になったんだよな」


「.....お兄ちゃん.....」


だから俺は.....付き合えないんだ。

他の女の子に目移りする事もあるけどな。

でも嫌なんだ。


昔の事を思い出すのは、とリコに説得した。

リコは、そうなんですね、と頷いてくる。

物分かりが良いなこの子。


「山口は好きだ。勿論お前もな。でも恋をするのはまだ嫌なんだ。俺は」


「.....お兄ちゃん.....分かりました。今は手を引きます」


「.....ああ。ごめんな。気持ちは良く分かるんだ。本当に。心から嬉しい。でも.....御免な」


「.....そんな理由があるとは思いませんでした。.....不甲斐ない私を許して下さい」


「恨んでないよ。.....ただごめんってだけだよ」


じゃあせめてもの。

お兄ちゃん。もし良かったら私と買い物に行ってくれませんか。

とリコが提案してきた。


俺は首を傾げてリコを見る。

リコは.....香織お姉ちゃんに恩返しがしたいんです。

と笑顔を見せる。


「.....お前はお姉ちゃん思いなんだな。本当に。羨ましい」


「.....私は香織お姉ちゃんが大好きです」


「その思いは大切にしろよ。絶対に大切に、だ。.....俺みたいになるなよ」


「え?」


そう。

俺の親父と俺の様に、だ。

そうなってほしくは無いんだ。

俺は思いながら、首を振る。

それからリコの頭に手を添えて立ち上がった。


「学校行こうか。お前何処の学校だ?」


「あっちです」


「.....そうか。別方向になるな。じゃあまた今度一緒に行こうな。買い物」


「はい!宜しくお願いします!」


そしてリコは、じゃあ失礼します!、と笑顔で駆け出して行った。

俺はその姿に手を振りながら居ると。

背後から、貴方も何時も通りね、と声がした。

俺は驚愕して振り返る。

そこに秋田が居た。


「.....ど、何処から聞いてた?」


「.....最初の方からだけどね。.....貴方も大変ね。カズキ」


「.....俺は相変わらずだ。でも.....山口の妹の方が大変だよ」


「.....貴方のそういう所が好きよ。他人の心配をするってところが。自分をじゃなくて他人をずっと」


「.....そうか。有難うな。ユウキ」


ええ、と頷く秋田。

じゃあ行きましょうか、と柔和な笑みを浮かべる秋田。

俺は、ああ、と返事して歩き出す。

それから登校し始めた。

髪の毛が揺れて秋田の良い香りがする。


「.....シャンプー変えたか?秋田」


「.....へ!?そ、そうね。気が付くの?」


「当たり前だろ。これだけ一緒だとな」


「.....そ、そう。有難う。そうよ。柑橘系からミント系に変えたわ」


「.....そうか」


そうして登校していると。

すれ違った人達が俺を見た。

そして、あれ?山彦じゃね?、と言う。


俺は、その声に心臓が高鳴って.....冷や汗が出た。

この声は.....遠藤。

金髪の男だ。

つまり.....イジメっ子の奴らだ。


「.....何だお前?お前のような身分で彼女持ちかよ」


「.....そ、そう.....じゃないけど」


「あ?聞こえねぇよ」


「.....」


圧迫してくる男。

言葉が詰まって声が出ない。

完全に動きがキモイと思われているだろう。

思いながら俯いていると。

ちょっと、と声がした。


「.....山彦君が嫌がっているでしょう」


「は?嫌がっている?いや、ただのふれあいなんだけど」


「私から見たら威圧しているとしか思えないから」


「.....何だお前。コイツの味方するのか?動きもキモいのに」


「.....」


秋田は不愉快そうに眉を顰める。

その姿を見て胃痛がするのだが.....俺は秋田の手を取った。

それから秋田と共に歩き出す。

秋田が、ちょ。ちょっと、と制止するが。


「.....秋田。もう良い。アイツは理解者じゃない。.....お前の身も心配だから」


その様に小さく呟いて。

遠藤の呼び掛けも無視で歩き出した。

秋田が俺の手を握る。

それから人込みをかき分けてそのまま高校へ向かった。


「私の身を心配してくれたのね。有難う。.....嬉しい」


「.....お前は大切な仲間だから」


「.....貴方は大丈夫.....?」


「.....胃痛もするし吐き気もする。でも.....お前が心配だった」


「.....」


悔しいわ。

貴方の良さが分かって無い人間が居る事に。

と歯を食いしばる秋田。

俺はそんな秋田を見ながら、まあそうだな、と声を発した。

でも仕方が無いんだよ、とも、だ。


「.....この世界は上手く出来ないから。ゲームじゃ無いから」


「.....そうね」


「.....秋田。でも有難うな。歯向かってくれて」


「.....私は貴方が心配だったから。だから歯向かったの。ああ本当に今でも怒りがこみ上げるわ」


「.....」


秋田はプンプンと怒る。

その姿を見ながら.....俺は嬉しいと思いつつ。

胃痛を収める為に隠れながら薬を飲んだ。

嫌なものを見てしまったな。

朝から、だ。

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