1-6 世話になった人
居間に戻ると、全員が私の顔を見てきた。
「あんなの、家に上げなくてもよかったのに」
彩香さんが不愉快そうに言った。
「なんでですか?」
「あれ、川中島の方で新興宗教やってた家の娘なのよ」
「え、そうだったんですか」
まったく知らなかった。
「上に天って書いて〈
「母親が病気で寝たきりになってるって言ってましたよ」
「じゃあそれが原因ね。運営できなくなったからやめちゃったと」
彩香さんは決めつけたように言った。
「桃山秋乃って名前、聞いたことありますか」
三人に問いかけてみる。
「あの子の母親らしいんですけど、親父が世話になったとか言ってて……」
「兄さんが言ったの?」
「そうです。なんか秋乃さんの名前を聞いた瞬間にびっくりしたような顔して」
「世話になった、ねえ? 世話してやったの間違いじゃない?」
彩香さんが鼻で笑うように言った。
「……あ、もしかして、よく誠次さんと一緒に猟に出てた家の?」
反応して言ったのは健作さんだ。
「そうよ忘れちゃったの? よくここに夫婦で来てたでしょ? 親戚の集まりにまで顔出しちゃって、厚顔無恥ってのはこいつらのような人間を言うのねって思ったくらいよ」
「そんな昔のこと、もう忘れちゃったよ」
「貴方は忘れっぽいものね」
「君が細かいことを覚えていすぎなだけだよ」
「で、『世話になった』に心当たりはないんですね?」
私は割って入る。
「ないわね。ここに来るたびに料理を食べさせてあげてたんだから、世話してやったが正しいのよ。あの子の父親に、兄さんが動物や銃器の知識とか教えてあげてるのを見た覚えがあるわ。その父親も早死にしちゃったし、恩返しもしてもらってない」
「猟の最中に誠次さんが世話になってたんじゃないかな」
「それだったらわかりっこないじゃない。もういいわ、こんな話はやめましょ。さすがに二度は来ないでしょ」
結局、明確に覚えている人はいないわけだ。
花乃が言った「二人の子供」については話さないでおこうと決めた。どうせ言っても悪口に発展するだけだろう。父のわずかな名誉にも傷をつけるし、見舞いに出かける時の言い訳も面倒になる。
私は彩香さんの質問に答えながら時間を潰した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます