猫笛(ねこぶえ)

登場人物


園田そのた──どこにでもいる地味顔のモブリーマン。でも、ちょっとずれてる。


蒲瀬かませ先輩──面倒見のいい園田の先輩。先週はお腹を壊した。











カマセ「ふぅ……今日の仕事も無事終了。残業もなくてヨカッタネ、と。……よしっ、帰りに一杯やってくか! おい、園田! カツシカの串カツ食いに行こうぜ」


ソノタ「…………」


カマセ「ん? おい、なにやってんだ、園田?」


ソノタ「…………あっ、先輩、いたんですか?」


カマセ「いたんですかじゃねぇよ。いたよ。ずっといたよ。お前のすぐ目の前のデスクに」


ソノタ「すいません、集中してたんで気づきませんでした」


カマセ「……まあ、いいんだけどよ。で、なんだ、その手に持ってる棒みたいなの」


ソノタ「あ、コレですか? 猫笛ねこぶえです」


カマセ「…………猫笛?」


ソノタ「はい、猫笛です」


カマセ「猫笛っていうのは……あれか? もしかすると、犬笛みたいなもんか?」


ソノタ「ええ、そうですよ? 知らないんですか?」


カマセ「知らん。お前はなぜか、さも知ってて当たり前みたいに言うが、知らんものは知らん。聞いたこともない」


ソノタ「遅れてますねぇ……だめですよ、先輩。日本の伝統工芸でんとうこうげいなんだから、それぐらい知ってなきゃ」


カマセ「伝統工芸だっていうなら、『遅れてますねぇ』ってセリフはおかしくない?」


ソノタ「時代は巡るんですよ、先輩。今はこの猫笛がトレンドです」


カマセ「…………まあ、いいや。俺が時代に乗り遅れたのかどうかは別として、なんでお前はその猫笛をいじくり回してたんだ?」


ソノタ「うちは明治初期から続く犬笛職人の家なんですけど……」


カマセ「……犬笛職人?」


ソノタ「言ってませんでしたっけ?」


カマセ「聞いてねぇよ。ていうか、聞いてたらその時にもっと根掘り葉掘り聞いてるよ」


ソノタ「まあ、それで代々一子相伝の技を受け継いできたんですけど」


カマセ「よく途絶とだえなかったな」


ソノタ「でも僕の爺さんは大の猫好きで、猫とコミュニケーションを取りたいが為に50年かけてこの猫笛を開発したんです」


カマセ「……半世紀、か。……お前の爺さんの人柄は知らんが、とにかく執念を感じるな」


ソノタ「ええ、スゴイ人ですよ。だから僕も爺さんの技術を絶やすまいと、こうして暇を見ては猫笛作りに励んでるんです」


カマセ「いい話……なのか? ていうか、一子相伝の犬笛の技はどうなったんだよ」


ソノタ「ああ、爺さん犬が嫌いだったんで、教えてくれませんでした」


カマセ「途絶えてんじゃねぇか!」

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