図書館
俺は普通に他意なく勉強をしに図書館へ来た。
もうすぐあの忌まわしきテスト期間に突入する。
共通認識だと思うが、テストは辛いだろう。
けど辛い理由を聞かれたらすぐには思い浮かべられない。
数学で言う方程式のように、理由もなくテスト=辛いダルいという認識になってしまっているのだ。
そしてその理由もよく分からない辛いことに、俺たち学生は年に数回程度、死に物狂いで食らいつく。
「はーーー」
思わず疲れたと呟きそうになるが必死にこらえ、その代わりに出てきたため息。
「お向かい、いいですか?」
「いいですよ」
顔も見ずに俺は答え、その声の主(多分女の子)もそれ以上は何も言わずに座った気配がした。
図書館は喋るの禁止。
極力声や物音は出さないのがルールだ。
カリカリとシャーペンの音だけが響く。
喉乾いたな。
図書館は飲食禁止。だった気がする。
外に出て飲んでくるか。
向かいの人にちょっとだけ荷物見ていてもらおう。
「すみません。あの……………」
絶句した。そして息をめいいっぱい吐いた。
「はい?あっ」
相手も気づいたようだ。
「………………」
さっき使っていたノートにシャーペンを走らせる。
『"みりりん"?』
すると彼女もペンを走らせる。
『そうだよ。見ればわかるじゃん^ ^』
『なんでここに?』
『勉強をしに。一応大学生だし』
そう。"みりりん"は大学生である。
めっちゃ歳下みたいなのでタメ語を使ってしまうが、俺より歳上なのである。
だって俺は、高校生だから。
『なんか頼み事?さっき言いかけてたの』
言えるわけない。
自分の推しに自分の荷物を見ててくれなんて。
『なんでもないよ。』
『飲み物でも飲むなら、荷物見ててあげるけど』
どうしてこの子はわかったのだろうか。
もしかしてエスパー?エスパーなのか?
俺がシャーペンを走らせようとしたり止めたりと迷っていると、"みりりん"がノートを手に取り新たに何かを書き始める。
『いいよ。行きなよ。飲まないと死んじゃう』
死にはしないけど可愛い。
『じゃあ、すぐ戻ってくるのでお願いします』
すぐに俺は席を立ち、財布を持って図書館の外の自販機に行く。
「何にしよう」
ジュースやらお茶やら水やらがわんさかある。
「炭酸でいいかな」
"みりりん"は飲むだろうか。というか見ててくれてるんだから奢るのが筋ではないか。
というか推しに奢る世界線が存在するとは。ありがとうございます神様。
"みりりん"にはオレンジジュースを買って、その場を後にする。
『おかえり』
そう書かれたノートを指さす。
「はい」
小さい声でさっき買ったオレンジジュースを渡す。
『何?』
『荷物持ちありがとうございました』
『うれしい』
そして何やら数秒、"みりりん"は考えた後書いた。
『おしゃべりしながら勉強したい』
これに関しては突っ込ませてくれ。
ダメだろアイドル。
『君と私は友達。そうすれば、ただ友達同士が勉強しているだけ』
確かに理屈は通っているが。
『友達なの?』
『違うの?』
いや、友達でお願いします。
『わかった』
『じゃあ外出よう』
書いて直ぐに"みりりん"は出しかけていた勉強道具を全てしまって立ち上がる。
俺も急いで後に続いた。
2人揃って図書館を出て、すぐ横にあるなんか茂みみたいなところに入った。
「やっと喋れる」
第一声は"みりりん"だった。
「アイドルがこんなことして、い、いい、の?」
「…………だって、友達じゃん」
"みりりん"は顔を少し赤らめて言っ……。
あー死んできてもいいですか神様いいですよねうんうんだってだって推しと推しと友達!?
「あと、私の事名前で呼んで欲しい」
あーーーーーーえ?
「な、名前?」
「うん。"みりりん"は、アイドル以外だと恥ずかしいから、未莉って呼んで」
神様。
俺は今から推しの名前を呼び捨てにします。
推しに向かって。
いいですか?いいですよね?
わかりました。
「えーっと、未莉?」
すると未莉は顔を赤らめて、にへらと笑っt。
っっっっっっっっっっっっっ無理、じゃない。
「ど、どこで勉強する?ゆ、悠真」
待て待て待て待て待て待て待て。
アイドルどこ行った?
「えーっと、誰にもわからない場所、がいいよね」
これ見つかったら炎上ものだ。未莉だけではなく俺も。
なぜなら俺は周りのオタクたちに、常連すぎて顔も名前もTwitterアカウントも知り尽くされている。
「悠真の家、行ってみたい」
反則ですあーーーなんだろう。
あげたい気持ちとオタクたちに申し訳ないという気持ちがぐっちゃぐちゃ。
「いい?」
「いいです」
その笑顔は反則です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます