ゲーセン

「何する?」


学校帰り。久々に、友人こと玲翔(れいと)と一緒にゲーセンに来た。


「玲翔のやりたいやつでいいよ」

「んじゃまあ〜、音ゲーにしよっか」


玲翔は音ゲーマニアである。

ゲーセン来る度に必ずやるし、スマホでもやっている。上手さはガチ勢の下の下くらい。


「何にする?」

「やっぱあれかな」


指さすのを見ると、やはりいつものやつ。

なんか上からめっちゃ流れてきてそれを叩くという。玲翔曰く、レーンがあり常に一定で流れてくるから神らしい。


「さてと、なんの曲にしようかな」

「俺もやろうかな」

「お、ついに悠真も音ゲーに」

「そんなガチじゃないよ」


前に何度かやったけど、せいぜいHARDが普通にできるレベルだ。


「ローカルにしよう」


隣同士の2台を繋げて、さっそくゲームスタート。

流れてくるノーツをしっかり打っていく。

なんか余裕が出来たので隣を見てみると、玲翔は物凄い表情でめっちゃ早く手を動かしていた。


「すご」

「ちょ、話しかけんな」

「話しかけてませんわよ」


言い方をふざけてから俺も自分の譜面と向き合う。

そして数分後。


「あーーーー疲れた手首痛い」

「まああれだけ動かしてればなあ。凄かったよ」

「あ、あの…………」

「おっと、すみません」


2人で話していると、か細い声で申し訳なさそうに話しかけてくる女の子がいた。

多分次を待っているのだと思い、玲翔がすぐに謝り、俺もどこうと振り返る。


「「ん?」」

「…………あれ」


デジャヴと言われるほどデジャヴでは無いが、とにかく似たような場面を過去にも経験したことがある。


「え、"せとな"と"みりりん"?」


玲翔が言葉に出す。

そして俺は思わず目を擦る。

だって3回目なんて普通にありえないじゃないか。


「あ、どうも〜。"せとな"だよ〜」


"せとな"はちょっとサバサバというか、そういう感じ(語彙力皆無)の女の子。


「悠真くん?」

「…………マタアッタネ」

「またってどういう事だお前!おい!」


カタコトの俺の言葉に気づいた玲翔は、俺の胸ぐらを掴んで責め立ててくる。


「実は…"みりりん"とは……前にも会ったことあって」

「すげーなお前!今日合わせて2回も推しと遭遇するとかっ」

「あ、いや………」


玲翔は掴む手を少しゆるめて背中を叩いてくる。

ちなみにこれで3回目とか言えない。


「私、悠真くんと会ったの3回目だよ」

「まっ…………」

「おいてめなんだごら」


また俺の胸ぐらを掴む手を強める。


「仲良しさんだねえ〜、みんな」

「"せとな"ちゃん、俺の事わかります?」


俺の事を投げ捨てるように離した後、食い気味に"せとな"に聞く玲翔。


「顔はわかる!けどごめんね、名前が出てこないの。忘れっぽくて」

「玲翔です。けど、そんなところも好きだから大丈夫です」


完全認知はまだだったらしい。

可哀想に。なんとなく傷ついているのが背中越しにわかる。

まあでも"せとな"のド忘れさはもはや公式だし、今更どうこう言う必要は無いと思っている。


「2人とも〜?ファンの方と遭遇するのはいいけど、偏っちゃダメだよ?」

「わかってるよ。マネちゃん」


よく見たら、後ろにはしっかりとマネージャーさんもいた。

やはり可愛い。


「あ、じゃあ俺たち行きます」


本当は行きたくないけど。

多分2人が無理言ってここに来たんだと思う。そしてマネ付きならOKということになったんじゃないか。

だって普通アイドルはゲーセンとか行かなそう危ないし。


「またね〜、れいと、ね。覚えた!」

「ありがとうございます〜」


歩きながら玲翔は泣いていた。

だが彼も気づいていると思う。多分そのうち忘れられることに。


「悠真くんもまたね」

「あーーーーー好きありがとうバイバイまたねありがとうございました」

「おまそれは引く」


思いついた言葉を連呼したら玲翔に軽く引かれる。



「なんとなく、また会いそう」


そして"みりりん"が後ろで呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。

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