近所のスーパー

スーパーに来た。

ひとり暮らしをしている俺は、自炊やその他諸々全てひとりでやるようであり、それに買い出しも含まれる。


「今日は………うーん、麻婆豆腐でいいかな」


作るのは大体麻婆豆腐。それかパスタ。まあとにかく簡単なもの中心。

料理を作るのは嫌いでないが好きでもない。


「ん?」


ふと、お肉のコーナーに立っている女の子を見る。

どこかで見たような雰囲気だった。

そして、俺の心が騒ぎ出す。


「………いやいやさすがに」


だって今までこの場所では会ってこなかったんだぜ?



「…………まーないよなあ」


こんな短期間でもう一度会えるとか普通ありえない。

けど似ている。よく見れば見るほど見ている。

小柄でちっちゃくて、セミロングより少しだけ長いロング。

更に、俺にだけ見えるオーラが滲み出てる(気がする)。


「………試しに」


これで間違っていたら大恥だ。

大恥どころじゃない。2度とここのスーパーは使わないくらいには、大惨事。


「すみません。大橋未莉さんですか?」


ここで"みりりん"って呼んで間違ったら最悪でしかない。

多分笑われるし羞恥心で死ぬ。


「はい」


待って振り向かないで嘘振り向いて。


「私が大橋未莉です、が…………」


"みりりん"はきょとんとする。


「すみませんこの前ぶりです悠真です」

「あはは。悠真くん、また会ったね」


にっと。笑、う。

っっっっっっっっっっっっっ。

俺の心臓は砕け散った。


「な、なんで、こん、なところ、に」

「普通に買い出しだよ」

「え、え、住んでるの、この辺、なの?」

「まーまあーーまあまあーー」


誤魔化し方が下手すぎる可愛い。


「お、俺もこの辺なんだ、けど」

「ほんとに!?」


途端に"みりりん"は何故か嬉しそうに軽くジャンプをする。


「なんで、そんなに……」

「嬉しいよ〜。ファンと近くって。けど、気をつけなきゃね」


着ていた大きめのパーカーのフードを被る。


「普通、怖いんじゃないの?特定されたりして」


多分悩むアイドルも多いだろう。

表にこそ出さないが、被害をくらっている人も居るんじゃないか。


「うん。けど、悠真くんならいいや」



あーーーーーーーー好きです。

というかどうしてこんなに俺を特別視して信用してくれているのだろうか。

他のファンの目線になると、マジで腸が煮え繰りかえりそう。


「ばらさないでしょ、そういうの」


確かにばらさない。

俺的に1番悪いのはアンチではなく、そうやって情報を流して推しに迷惑をかける人だと思ってる。

だから俺は"みりりん"に迷惑はかけたくない。


「そういや、悠真くんは何にするの?夕飯」

「ま、麻婆豆腐かな」


推しに夕飯を聞かれる世界線は存在したんですねありがとうございます神様。


「美味しそう。私もそれにしようかな」

「………よ、良かったら」


一緒にと思ったけどダメだ。

今は距離が近くても、相手はアイドル。さすがに遭遇するのは良いとしてもプライベートには踏み込んではいけない(もう踏み込んでいる気がするが)。


「あ、じゃあそろそろ行くねっ」


何かを察したように急にアイドルモードに切り替えてどこかに走っていく。

いや切り替えられていないというか今度?


「あ、マネージャーか」


"みりりん"が走った先にはマネージャーらしき人がいた。

そしてマネージャーと2人並んで消えていく。


ちなみにそのマネージャーも可愛い。


「………最近、めっちゃ遭遇するなあ」


こっちとしては嬉しい限りだけど、もし"みりりん"に、またこいつかよというマイナスな方で認識し始められたらちょっと泣く。

というかこれ以上遭遇したらストーカーだと思われそう。


「今度は自重しようかな」


無理なことはわかっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る