推しと繋がっちゃう話

鼠鞠

初めての遭遇

「今日も最高だったな」

「な!!」


友人の問いに全力で答える。


「やっぱり"みりりん"は裏切らないっ」



俺は地下アイドルのオタク。

今日は友人と二人でライブに行ってきた帰り。

オタクをやっているのは年単位だが、やはりライブは楽しいし飽きない。


「ほんとに"みりりん"好きだよな、悠真(ゆうま)は。初めて好きになった芸能人が"みりりん"だっけ?」

「そうなんだよ。まじで"みりりん"語ったら止まらない」


大声で笑い合う。周りに迷惑なほど。


「もうさあ、俺と悠真で、ラップバトルみたいに、"みりりん"と"せとな"について語るかっ?」

「おお?負けねーぞっっ」


というようにライブ終わりは毎回騒いでいる。

語ることは楽しいし幸せ。


だって本当に尊い。やばい。やばい。

もうなんなんだろうこの気持ち。

あーーって感じ。


「んじゃ、俺はここで。また一緒に行こうな」

「うぃっす〜」


まるで酔った状態のように俺と友人はハイタッチをして別々の道を辿る。


「っあーー、余韻半端ない」


1人で背伸びをしてそのままゆっくり歩く。


みりりんこと大橋未莉(おおはし みり)を応援し始めたのは、3年前くらい。

今まで芸能人、有名人などにハマらなかった俺が、まさかの地下アイドルにハマり始めたことにより物語は動き始めた。

ちなみに俺の友人の推しは、"せとな"こと瀬戸結愛奈(せと ゆあな)。


「なんかツイートしてるかな」


おもむろにTwitterを開いて通知を確認する。

するとちょうど本当にたった今、"みりりん"がツイートした。


「うおっ」


反射神経でいいねを押すと、1番。


「1いいねゲット」


静かに喜び、早速ツイート内容を見る。


『今日は来てくれてありがとう。また来てね』


うっ、尊い。

"みりりん"が打ったという事実だけで最高に尊い。


『あ、写真忘れた』


続いてまたツイートが来る。

忘れちゃうとか可愛い。

ほっこりしながらそのツイートもいいねする。


その時、後ろから軽くぶつかる感触がした。


「す、すみません……!」


ん?


「全然いいですよ」


振り返った。うん。振り返ったよ。


「…………え、"みりりん"?」

「…………え、悠真くん?」


ほぼ同時だった。

俺はまだ今よりも売れてない頃からほぼ毎回ライブに参戦していたので(要は古参)、新規の人よりかは認知を貰っていた。だからちゃんと覚えてくれていたのだろう。


「な………」


え、めっちゃちっちゃい。これ私服だよね。え?無理なんだけど。ストリート系女子じゃん。尊い。可愛い。あーーー尊い。


「えっと、悠真くん?」

「きょ、今日はありがとう」

「あ、うん。こちらこそ」


いつものキャピかわ系ではなく、普通に返事をされたので一瞬戸惑ったが。

それも良い。


そして両方立ち尽くす。


「い、いつも好きです」

「あ、はい。ありがとう」


いつもみたいにニコッとするのではなく、淡々とした口調で答えられる。


「ごめん。……迷惑、だよね」

「ううん。そんなことない。いや、さ」


すると"みりりん"は顔を少しだけ赤らめて言った。


「別に、悠真くんなら、初期から知ってるし良いかなって」


あーーーーーーーーーーーー尊い。

え、わかります?一旦マウント取りますね。

古参だから素を出していいらしいです。


確かに昔の"みりりん"はキャピかわ系ではなかった。普通に自然体で、あまりニコッとしないけど神対応な感じがファンから人気だった。

けれど途中から運営の方針なのかキャピかわ系に変わってしまった。そこで大体の人が推し変してしまったり他界してしまった。

だが俺はどんな"みりりん"でも、"みりりん"という人間が好きだったのでずっと今もこれからも推しているし推す。


「ずっと好きです」

「ありがとう。また、来てね?」


あーーーーーー絶対に行きます。無理です行きます(矛盾)。

もう俺には行くという選択肢しかありません。

例え学校があっても用事があっても死にそうになっても!!(笑)


「必ず」

「すきい」


にへら、と笑う。

あーーーその笑顔が好きなんですいや全て好きですけどその崩れた感じがたまらないわかります?ええ古参の皆さんならわかると思います。今の新規さんはこれを知らないの、マジで人生損してますほんとに。


「じゃあ、またどこかで会えたらいいね」


そう言い残して"みりりん"は帰ってしまった。



うん、尊い。

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