第5話 龍二②運命の出逢い
「君はいったい、何者なんだ……」
金色の幾何学模様に三重螺旋。こんな遺伝子の人間、いまだかつて見たことがない。本当に同じ人類種なんだろうか。もしかすると異星人? だからこんなに美人なのか? 龍二は驚きを隠せないまま少女の遺伝子情報を一旦遮断する。
「あの、突然で申し訳ないんだけど——」
話しかけた途端、少女は龍二の横を走り抜けようとした。
「ちょっと待って!」
反射的に少女の手首を掴んだ瞬間、なにかが龍二の全身を駆け巡った。それは微弱な電流のような感覚で、なんとも言えない、不思議な気持ちを彷彿させるものだった。少女も同じようになにかを感じたらしく、怪訝な目はそのままに、動きがぴたりと止まっている。
「放してください。わたし、急いでるんです」
「あっ、ごめん——」
慌てて手を放す龍二。よく見ると少女の額に汗が浮かんでいた。会話のきっかけを探ってみたものの、額に汗をかいて急いでいると言われた手前、引き止める術はなかった。少女は手に持っていた小さなメモに目をやると、そのまま夜の住宅街に走り去ってしまった。
——なんだったんだ、あの子。
いけないと思いつつ、どうしても気になった龍二は、彼女の後を追うことにした。
✢✢✢✢✢
少女は息を切らしながら高級マンションの前で立ち止まった。上階をしばらく眺めたあと、エントランスに入っていく。龍二は外から様子を伺っていたが、彼女はなにをするでもなく、オートロックの前で呆然と立ち尽くしていた。龍二もエントランスに入り、思い切って声をかけてみることにした。
「あの——」
弾かれたように身を翻した少女は、強い警戒の眼差しで、
「なんなんですか、あなた」
「いや、あの、なんか困ってるみたいだから、手助けできないかなと思って……」
少女の表情は拒絶を示していた。見知らぬ男にあとをつけられ、二度も話しかけられたんだ。そりゃ怪しむのも当然だろう。なにやってんだ俺……。龍二が無礼を詫びようと口を開きかけたとき、予想外の言葉が返ってきた。
「このマンションの803号室に行きたいんです。中に入る方法ありませんか?」
唐突で驚いたが、それなら――
「そこの操作盤で部屋番号を押せば、家の人が開けてくれるんじゃないですか?」
「それじゃダメなんです!」
少女は「どうしよう……」と呟き、うなだれてしまった。龍二にしても、家主に開けてもらう以外で中に入る方法など思いつかなかった。
「管理会社に連絡するのは?」
「ダメ……」
「そんなに急ぎの用なの?」
少女は困惑した様子でうなずく。
なんて綺麗な瞳なんだろう。龍二が場違いな感想を抱いていたその時——
「ニャーン」
どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。
少女も気づいたようで、エントランスの入り口に目を向ける。
「えっ、ネコ?」
自動ドアの外に一匹の猫が鎮座していた。白をベースに、茶色と黒がまだらに重なった三毛猫。猫は龍二を見つめながら「ニャーン」と鳴いた。その鳴き声を合図に、
「ちょっとチャタロウ! あんた勝手に走りまわんないでよ!」
建物の陰からブレザーの制服を着た女の子とトレンチコートの中年男が現れた。二人とも息を切らしていて、どうやらこのチャタロウという名の猫を追いかけてきたらしい。しかも、ブレザーの女の子は目の前の美少女に引けを取らないほどの美貌の持ち主で、芸能人のような華やかな雰囲気をまとっている。少女と龍二は何が起きているのか理解できず、呆然と佇んでいた。
自動ドアが開き、三毛猫がとことこと中に入ってくる。その後ろに続く女の子と中年男。猫は少女と龍二の足元に鎮座すると、まるでなにかを語りかけるように「ニャーン」と鳴いた。
「嘘でしょ……」
ブレザーの女の子が、龍二たちを見ながら呟いた。
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