第27話 地獄で女神

地獄かあ~~~! ここは、この世の地獄かあ~~~!!


オレはこの時ほど、声を出せたならこう叫んでやりたかった。

いや、だってだね、イザナミが「ネット嫁クローディア以外も嫁宣言可能」と言い出しちまったからだあ~~~!!

確かにオレは、リアルではそんなにモテなかったが、今のこの状況はちょっと違うだるぉ~?


まああ確かに、クローディアもイザナミも、そしてシェラフィーヤも美形は美形だが、そもそもが日常でこんな状況美女に囲まれる経験がなかっただけに、今のオレの心臓は痛い程に“バクバク”と悲鳴を上げている!!



「カ……ハ―――ッ」

「アベル! アベルーーー!?」

「団長様?!!」

「あなたぁ~~!!」


「ちょいと失礼しますよーーーふむ、ふむ……」

「ノ、ノエル―――アベルどうしちゃったの?」


「ふむ、よしタヒ亡確認―――」


「「「―――えっ……」」」


「まあ冗談ですがね。  とまあ言うより、この状況は想定の範疇でした。」

「あなた―――わたくしの夫の妹でありながら、なんって悪趣味なッ!」


「別にクローディアは、このDTの嫁でもなんでもないでしょう、それでも主張いいはりますか。  それとイザナミ、あなたとうとうその胸に抱えているものを吐瀉ぶちまけましたね。」

「それは―――っ……」


「どう言う事なの? ノエル。」


「まあ簡単に説明をするとですね。  イザナミとイザナギの2人のリアルは、私の兄ちゃんが通う同じ高校の生徒なのですよ。

―――とは言え、リアルではそんなに接点がなかった私達でしたが、ある折にゲームの中で親しくなってしまいましてね、ならこの機会にと「オフ会」と言うのをやったんです。

で、そのオフ会で互いに顔を合わせた時、同じ高校に通う生徒だった―――て、そこで一応の「オチ」はついたんですがね……。

翌日のログイン時に、イザナミの方から『一つ今後とも同じ一党として組みませんか』と誘われましてね……。 それが『悪党』が出来たきっかけです。 当時はどうしてうちの風紀委員長殿が……と思っていましたが、イザナミ―――あんたあれでしょう? うちのクソDTに惚れたんでしょう? けど口に出し辛い……現にその事色恋沙汰のもつれが原因で潰れたところが幾つかありましたからねえ~だから広言出来なかった―――けれど、躊躇してる間にクローディアがやってきて、クソDT本人も知らないうちに『嫁だ』と主張するもんだから、イザナミの方でも告る機会失っちゃって……そしたら今度はクソDTがベタボレしてる「二次元彼女」、『魔王シェラフィーヤ様』のご登場参戦ですよ……。

けどそこでイザナミは考えた―――『この彼女を利用しない手はない』……と。

そこで出されたのが―――『魔王ザッハークうちのクソDTハーレム計画』……違いますか?」


「な……っ、ななななななななな何を根拠にそのような―――」



あ、図星だ、これ。


私にはなぜかこの時、その両の眼を塞いでいる眼帯の奥の眸が、活きのいい魚の様に泳ぎまくっている感じなのが見えるかのようだった。

そう思えたのも、常に冷静沈着であるはずのイザナミさんが吃音どもっていたからだ。


むう……これは思っていたよりも強敵の様ね―――



「それと……なのですが、うちのクソDTは恋愛耐性ゼロ―――ですからね。  だからこう言った状況に陥るのも想定の範疇だった……てわけです。」


「そ―――そん……なっ、バカな??」


「おや、不思議ですか? クローディア。  けれど今の状況が総てを物語っているではありませんか。  リアルでまともに異性に言い寄られたことのない男が、急にリアルではない世界で持て囃されて、挙げ句に自分がベタボレしてる二次元彼女からも『好きだ』と言われて、精神が耐えられなかったんですよ。」



あーーーー言われてみたらそうだったーーー。

そうね、アベルったら「幼女」な私には見向きもしなかったのに、満月の夜の「元の姿」の私には妙に落ち着きがなかったと言うか……

しかし、この情報は実に有益だわ、この情報のお陰で少しはアベルの事が判ってきたと言うもの。


それに、これで条件は全員同じ……対等な立場ってわけね。


それにしてもなぜノエルは、こんなにも有益な情報を―――……?


…………まさか、だけど、彼女そうなの??


え? だと言う事は、好敵手ライバルは2人ではなくて3人??


なぜ―――どうしてこんな事に??


         * * * * * * * * * *

フフフ……どうやらシェラフィーヤは気付いてしまったようですね。

何故私が兄の有益情報を漏洩させたのかを。

実は私は待っていたのですよ、あなたシェラフィーヤを……。

まあ私が待っていたのは特定的な個人である「シェラフィーヤ」と言うよりは、第三者的な「あなた」の方……そうつまり、うちの兄に惚れてしまったと言う気の毒なひとがもう一人増えれば、必ずやイザナミが「ハーレム事案」を発言するのは判っていましたからね。

そして予想通り、『そのチャンスは平等に、これから誰でも与えられる』そう言ったじゃありませんか♪

クローディアやイザナミは、私の事なんか眼中にはなかったようですが、なぜ一番近くにいる無視出来たんでしょうねえ?

DT兄にとっては、「最初の異性」である私を……。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ぐっはあっ―――!」


オ……オレ今夢見てなかったか? それもすっげえ悪い夢!!


オレが次に気が付いた時には、既にベッドの上だったもので、目覚める前に起こったことなど「夢を見ていた」ものだと思ってしまっていた。


思ってしまって……いた―――の、だった……が。



「おはやいます。  DT兄(笑)」

「どぉわれがドウテイじゃあ~!」


「いやはあ~そーれにしても、昨日は色々と大変でしたねー。  3人の美女から言い寄られて、そんでもって気ィ失って―――」

「おいコラ、ちょっと待て。  なんだそれは―――なぜお前が、オレが見た悪夢の事を知っている?」


「ああ、あれな。  “夢”じゃなくて、“現実”ってヤツ―――(笑)」

「…………まじですか。」


「マジです。」

「まじもまじ、ほんまもんのまぢもんですか??」


「ホント、ほんと、ほんまもんのまぢもん。 いやはあ~妹としては嬉しいですわ。 ヘタレ兄がいよいよDT卒業するとなると!!」(プププププ)


「あの…………サーセン、オレ、もっぺんタヒぬわ。」

「ごゆっくり~」(ニャハ☆)



オレが見ていたものと思っていた「夢」は、夢ではなく現実だった……。

その事をオレの妹の口から聞かされると、オレはもう一度冷静になるため深い眠りへと墜ちていった。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


明けて朝―――ひとまずは状況の整理をしようと思った。


しっ―――かし、なんでこうなっちまったもんだかなあ~。

そりゃああれだよ? 確かにオレはリアルではモテませんでしたよ?

それに友人もそんな多くはありませんでした、だから現実から逃避したゲームの世界に逃げた―――

ゲームっていう仮想の世界はいいもんでしたよ~だってほら、オレのリアルの名前じゃないし、何て言うの? 「匿名」? そんな感じのアベルを名乗るもんだから、「リアルのオレアベル」には辿り着かない。

まあ「リアルのオレアベル」の事を知っているのは、オフ会で会った事のあるイザナミ委員長キャライザナギ体育会系女の2人だけだ。

そう言えばあいつらも、初めて顔合わせた時驚いてたよなー、なんでこんなにも冴えない「リアルのオレ」が、あいつらを率いては常勝だった「アベル」を想像出来たろう。



「でもなー、オレはオレなんだよ……リアルだろうがゲームだろうが、そこは取り繕って生きてきたはずなんてないのになあー。  だったら何でリアルでモテなくて、ゲームじゃモテるんだよ。」


「あらそんなのは簡単じゃない―――」


「えっ。」 「えっ?」


「…………なんでお前がここにいんの? つか、いつからいたの??」

「いつから……って最初、アベルが目覚める前から。」



つーーーーーーかそれ、オレの寝顔を見つめていたってことでいいのかなあ~?

きゃーーーいゃあーーーはずかちーーーー!

なんでオレ、「乙女」のようなことをされんといかんの? これなにかの「罰ゲーム」なの??


と、オレが赤面してしまっている最中さなかでも―――



「確かに私は、リアルのアベルの事なんて知らない……けれど、あなたは本当に頼りになるんだもの。  それに私は、私の家臣達の謀反に遭い、魔王としての座位くらいの剥奪や「幼女化」の呪いまで貰っていた最悪の時期に、あなたと言う希望に巡り合えた……。  だから、これで頼りにならない―――なんて言い訳は通用しないわよ?」



えっ……なにこいつ―――この期になってオレにそんな優しい言葉をかけてくれるなんて……。

まるで女神様だ―――(いや、本当は魔王なんですが)。


オレはまさしく“魅了”されていた。

その幼女魔王が放つ独特の雰囲気に、疲れて果ててしまっているオレのココロの隙間を塞いでくれるかのような、その微笑みに。

「魔」なる王ではなく「神」にも似た神々しさに癒されていたのだ。


そしてオレと幼女魔王は、限りなく互いが近づき合った―――


        ねえ……アベル―――実は、私……


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