第28話 幼女魔王は『魅了』を使った! しかし何も起こらなかった……

「はい、制限時間DEATHしゅう~りょお~!」

「うええっ?! ちょ、ちょっと待ちなさいよ! まだあと50秒残っているじゃない!」


「と言うよりシェラフィーヤ、あなた今何をしようとしてましたか?」

「うえっ? ちょ、ちょっと……重要な話を~~」


「重要な話をするのに、顔を必要以上に接近させることがありますか?」

「…………ないでしゅ。」


「ですよねえ? なので、不純性交友行き過ぎが認められたため、持ち時間剥奪です。」

「そ、そんなあ~~! あのっ、ねえ? ノエル―――私とあなたの仲じゃない、ここは大目に見て……」


「なりません―――ここは平等であるべきと、ちゃんと誓約して宣誓までしたではありませんか。」



折角いい雰囲気だったところを、気の利かない妹に邪魔され、オレは相当気が立っていたのだが……

今のこいつらの話しの流れを見ていくと、なんだ?これは……『誓約して宣誓までした』だ、と?

オレの知らぬところで何かよからぬ謀議が企てられているみたいだな……



「おい、お前ら2人して盛り上がっている前に、ちゃんとオレに判るように説明をしてもらおうか?」

「“鶴の一声要はイザナミのあの一言”によって、あなたの嫁はクローディアだけではなくなった……と、言うわけですよ。」


「言ってる意味が判らん? そもそもあいつは、ただ「オレの嫁だ」と主張いいはってるだけじゃないか。」

「ですが、あのゲームにはシステム的にも「結婚」と言うのはありませんでしたし、まあ『言った者勝ち』的な雰囲気はありましたからね。   そこをイザナミは逆手を取り、クローディア、イザナミ、シェラフィーヤ、そして私……と、4者を交えて『誰が正妻の座を勝ち取るかバトル』までに発展したのですよ。」



こいつの言ってる意味が判らん―――

え? オレに選択の自由とかないの? それになんで妹のお前まで参戦してんの?? まあ~~確かにこいつとは一時期“イケナイ想像”を掻き立たせる仲にまでなったことはあったが……

まさか今回、その時の復讐リベンジを果たすつもりじゃなかろうなあ?


―――と、言うか……だな、まさかこの幼女……。



「オイ、幼女……まさかお前、オレを『魅了』しようとしなかったか。」

「あ・う……そ、その事―――なんだけどね? 私から大事な話が……」

「何を言っているんですか? シェラフィーヤ、あなたの持ち時間は無くなったのです!!」



おい―――何をやっている、マイ・シスター!

オレの聞きたい肝心な質問コトが、聞けんじゃないかあ~!


しかしそんなオレの思惑とは裏腹に、幼女魔王はクローディアとイザナミに強制連行されてしまった。


むうう……それにしても気になる―――あいつは一体、オレに『魅了』を掛けて、何をしようとしていたんだ?


         * * * * * * * * * *

ああああ~~~っ! バカバカバカバカ、私のバカぁ~~っ!

何でいつも肝心な時に、大事な事が言えないの!

しかもアベルには誤解されちゃってるみたいだし!

それに今あなた達に見放されでもしたら、本当に私は……


これはまだ彼らには知られてはいない事なのだが、現在の私には僅かながら魔力が戻りつつあるみたいなのだ。

その証拠が、先ほどアベルに仕掛けた私のオリジナルのスキル『魅了』である。


実はこのほど例の4人の競合によって、1人5分の制限時間が設けられ、時間内に自分を売り込むアピールするチャンスを与えられたのだ。

その最初の権利を与えられた私は、5分と言う限られた時間で、「私に魔力が戻りつつある」と言う事実を知らせるために、敢えて『魅了』を使ったのだが……。

そのお陰でどうやら誤解を招いてしまったみたいなのだ。


どうしよう―――とは言え、「魔力が戻った」事の経緯を説明するにしても、なぜ戻ったかの原因も掴めないでいる今となっては、実際に魔力を使用している所を見せたほうが手っ取り早いと思ったのだけど……。


そして翌日、どうやら昨晩の私の行き過ぎた行動の所為でアベルに非常に強い警戒心が芽生え、その後の3人の売り込みアピールはどうやら失敗に終わったようである。

そこで私はまた―――



「おい、まだオレになんか用があるのか。」



う゛~~~気付いてもらう為だとは言え、『魅了』を使っちゃったのは失敗だったかなあ……けれど今の段階で使えるのはコレだけだし、それに『魅了』と言ったって、まだ段階の低いうちじゃあ「こちらに気を向かせる」程度の効力くらいしか発揮しないし―――


それに家臣達の叛乱に遭い、魔王の座位くらいの剥奪と同時に、私が魔王だった時の能力―――「魔法」や「スキル」等はその多くが封印された。

その中でも今回取り戻せたモノの一つが『魅了』なのではあるが、私がまだ魔王だった時はこういう呼び名が付いていた―――『全種族対応魅了スピーシーズ・チャーム』、私の数少ない≪常時発動型技能パッシヴ・スキル≫である。


           * * * * * * * * * *

全く―――油断も隙もあったもんじゃねえな……

オレ達の一党の中では常識のある方だと思っていたイザナミが、まさかオレに気があったとか……。

リアルの校内じゃお難いおかたいイメージの「委員長」キャラだった人が、あのクローディアと同じ「肉食系」だったなんて……いや、今まで表に出さなかった猫を被っていた分「裏草食系」てヤツになるのか?


まあ今はそんな事はどうでもいい、それよりもあの幼女だ。

すんでの処でお茶を濁されちまったが、確かにあの時オレはあいつのこと以外頭が回らなくなってしまった。

その効果は軽微ながらも『魅了』のそれだ。

あのスキルはレベルが低かった頃は相当手を焼かされたよなあ―――今となっては“いい思い出”というヤツだが。


……ふぅむ―――しかし待てよ?

あいつそう言やあ、「幼女化」の呪い貰った時、スキルや魔力を封じられたって話してなかったか?

じゃあそもそも、あいつなんで『魅了』が使えたんだ?


もしかするとだが―――あいつが言いたかった事って……。



「アベル―――」

「なんか用か。」


「私、大事な話があるの―――怒らないで聞いて!」

「内容によりけりだな。」


「なにをやっているんですの、そこで……」

「抜け駆けは許しませんよ。」

「シェラフィーヤ、必死なのは判りますが、決められたことはきちんと―――」


「皆も、いい機会だから聞いて。  私に、まだ僅かだけれど魔力が戻っている兆候があるの。」

「なにぃ?! なぜそう言う肝心な事を早く言わんのだ!」


「言おうとしたわよ! 言おうとしたんだけど、“間”と言うのが悪くて……そのぅ、何て言うか―――」



こいつは、本当に―――……最初こいつが家臣から謀反を受けて魔王の座位くらいを剥奪された……と、尤ももっともらしい事を言っていたが、こんな調子なもんだから家臣達の方も限界来ちゃって、ついに叛乱―――て、筋書きじゃないだろうなあ?


オレは呆れた、さながらに呆れた!

確かにオレの愛した「魔王シェラフィーヤ様」は、顔が可愛くてスタイル良くて……と、世の“キモオタ”と呼ばれる連中が挙ってこぞってベタボレぞっこん”となる要素がてんこ盛りだったけれど、“外身みため”と“内身せいかく”がこうも違うんじゃ愛想も尽きて来るってもんだ。


だがなあ―――……必要以上に深入りしすぎちまったって言うか……

今更こいつを見捨てる―――って話もないだろうしなぁ……

選択肢間違っちまったかなあ―――……

少し、考える時間が欲しいかなあ―――……


オレはさながらに呆れもしたが、もう既に退くに退かれぬところもあっただけに、幼女魔王から、計画の変更を練り直し始めた。


さあ~てこれからどうしよう……あいつの証言する限りだと、あいつ自身の魔力が戻ってきている原因とやらは掴めてない感じだったなあ……。

しかし―――可能性を考えるとするなら、あの満月の夜だ……。

現に満月の夜になると、あいつら魔族は魔力が漲るみなぎるらしいし……

それで―――この先、満月の夜になるたびごとに魔力が戻ってくる……って言う寸法でいいのか? だったらいずれは、あの最初の満月の夜の時みたいな、完全体の「魔王シェラフィーヤ様」がご光臨するのかなあ~?


おっと……イカン、思い出したら鼻血が出そうになっちまったぞ。


それに確か―――「魔王シェラフィーヤ」って言えば、『魅了』の中でも特に凶悪とされている『全種族対応魅了スピーシーズ・チャーム』を得意としていて、しかもそいつは≪常時発動パッシヴ≫って言う、極悪さをも兼ね備えていたよな? それにあと一つ……なんだっけか―――あの凶悪すぎる状態異常発生スキルより、まだ凶悪なスキル……


オレはこの時、相当悩みに悩んだ挙句、あいつの知られた一面をようやく思い出すまでに至った。

しかもそれはあいつの二ツ名―――『イラストリアス』に係ることでもあった。


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