第26話 なぜか始まってしまった争奪戦、景品はオレ!

「おい―――ちょっとお前こっち来い。」

「あっ、アベルちょっと私の話を聞いて。」



ドゥヴェルグ達との話し合いが終わり、ようやく解放されたアベルは、私を見つけるなり手を拱いこまねいた。


丁度良かったわ、私もあなたに話すことがあるの、これまではアベル達の力を借りなければならなかったけれども、これからは私も力を―――


と、言おうとしたところ、いきなりアベルから拳骨を貰ってしまった。



「痛ったあ~~い! なんで、どうして殴るのよぉ!」

「お前―――昨日の晩、“オレ”を誘惑しようとしたそうじゃないか。」


「えっ、あっ。  うえっ?」


「『うえっ』じゃねえぞ、既にネタは上がってるんだ。  第一お前はどういうつもりなんだ! そんなことが知れて見ろ、あの“クローディア”に“姉さまイザナミ”が……」


「団長様、お呼びになりましたか?」

「いいえ、わたくしの夫は最愛の妻であるわたくしを呼んだのです!」


「ああ~らあらあら、あなたったら妄想癖が大爆発起こして、とち狂ったんじゃありませ~ん?」

「お前こそっ―――目に続いて耳まで腐りましたんですの゛っ!?」



一体どこから現れたのだか―――と言うかまるで兎人並みの聴力ね……。

まあ彼女達のお陰で、一旦私への追及の手は中止とめられた、そこは感謝しなくてはならないだろう。

それにしても……だ、どうやら昨晩の私の企み事たくらみごとは、ばっちりノエルがアベルに流していたようである。


それに、そもそもあの時ノエルがアベルの身代わりをこなしたのも、アベルが私の企みを感知しての行動に他ならない。

しかしなぜ私が満月を利用して、アベルと個人的に会おうとしていたかの動機までは、どうやら知られてはいない……

だから―――こそ……



「あいつらの闖入ちんにゅう所為せいで危うくすっぽかすところだったぜ―――おい、それよりどうしてなんだ。」


「(……)言わなきゃ―――ダメ?」

「だぁめ。」


「(……)どうしても―――?」

「そんな「上目遣い」で媚びた言動しても、ダメなもんはだぁめ!」


「(…………)アベルの事、…になっちゃったから。」

「あんっ? 何だって? 肝心なところが小さくて聞こえないんだが!!」


「アベルの事! 好きになっちゃったから! に決まってるでしょ!!」



……は? 言うに事欠いて―――こいつ……何を口走ったりしてんだ?

いまだこの場にはクローディアもイザナミもいるんだぞ??

それを……ッ、こいつ堂々とぉおお―――?!


アレなのか? ひょっとして勇者って呼ばれたいのか?

いいやそれとも……バカだね! こいつはとんでもなく雰囲気くうき読まねーバカだわ!!


お、お、お、オレは知らんぞ―――こいつの(今の)発言まで責任持てんぞぉお!



「あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛? 今なんて言ったんですの゛っ! シェラフィーヤ! アベルさんの美しきふつくしき妻であるこのわたくしを差し置いてっ!!

あなたなんてっ、もうわたくしたちの娘でもなんでもありませんっ!!」



うん、知ってる―――て言うか、そのやり取りこの前もやったわよねえ?

確かに鬼気迫るものは感じられるものの、私は自分の気持ちにいつまでも嘘を吐いているつもりはない。


だから―――こそ。



「好きになっちゃったものはしょうがないじゃい! この気持ちをいつまでも偽っていられないわ!!」



う~~~ん―――嬉しいんだか、嬉しくないんだか、とても微妙な気持ちだ。

こうしたオレを巡っての争奪戦はリアルで開催してもらいたかったものだ。

そうなれば、オレも日がな一日ゲームばかりをプレイして引きこもってなどいなかっただろう。

だが今は、オレ達のリアルとは違うが、オレ達がプレイをしていたゲームの世界観によく似た空間に迷い込み、オレが唯一愛した『魔王シェラフィーヤ様』から愛の告白にも似たセリフを聞くことになろうとは!!


……もう、これはこれで現実として受け止めていいんじゃないか?

そして本来の「エンディング」ではないが、『魔王シェラフィーヤ様と結婚エンディング』を迎えてしまってもいいと思ってしまっているオレがいる!!


だが困ったことに、ここに「ネット嫁」であるクローディアがいる。

こいつは危険だ―――いや、こいつ危険なのだ!!

何しろ回復職の僧侶のくせに、その攻撃力がオレ達の……いや、全プレイヤー中ピカ一の攻撃力を誇っている……なんて、それってどういう「反則行為チート」なのぉ? と言ってってやりたいくらいだ。


おっと、それより現実は見つめ直さなければならない……要は、この妄想爆発系のクローディアを、いかに宥めるなだめるか……だ。


周りに(そんなに)被害を出させないようにすのるに、一番手っ取り早い方法としては、“嫁”だと主張するいいはるクローディアを「認める」しかないだろう。(もつろん現状維持と言う意味で……)



「クローディア……オレもあれから色々考えたんだが、そろそろお前の事を認めようと思っている―――」



……えっ? アベル―――? アベル……さん? あなた正気なの? あなた何を言っているのか判っているのぉお?!


そのアベルの言葉は私にしてみれば相当ショックだった。

だって、アベル本人やノエルからも『あいつクローディアの言っていることは、言うだけ言わせておいてやれ。』だったんだもの……

それを、ここにきて(妻だと)認めちゃったのぉお~!?

{*そんな事は、ただの一言一句たりとも言っていません。}


ああぁぁ…………私、フラれちゃったのぉぉ~~―――?



「フム、それは案外良い提案かもしれませんわね。」



えっ? オレ、ただの現状維持のつもりで言ったんだが?

どこをどう間違えば「新たな提案」になるんだ?


一つだけ言っておこう、クローディアとイザナミは、はっきり言って『犬猿の仲』だ。

どちらかが妥協をしたところで、永遠に接点など訪れない―――そうした類のものだ。

そんな“姉さまイザナミ”があ? 「クローディアの事を認める」発言を肯定するなんてアリエナァ~~イ!

第一、今の状況に収めさせるのも相当苦労したんだぞ? なのに……そんなハズが―――


しかし、そう……やはり「そんなハズ」の裏側は存在していた。

それを証明するイザナミのセリフが―――……



「考えても見てください、団長様……。  この世に君臨すべき真の魔王たる『人中の魔王』であるあなた様の伴侶が、この頭のイカれた妄想癖女ただ一人である事はおかしくありませんか?」


「なぁ~にぃぃ~~をぉぉお~? わたくしの事を、『頭のイカれた妄想癖女』だとぉ~?!」


「聞け―――クローディア、このままではいつまでも平行線……あなたの想いも、私の想いも、そしてシェラフィーヤ様の想いも! 所詮一方通行ではいつ想いが交わるかなど分かったものではありません。」


「む……ううう―――た、確かに。  このわたくしも、わたくしだけを認識して欲しくて、敢えて言い続けてきましたが……」


「ええ―――そう言う事です……。  そのチャンスは平等に! これから誰でも与えられる!! そこで白黒をつけようじゃありませんか。」


「フッフッフ―――なるほど……読めましたわ? お前の思考が。  いいでしょう! 少し気に食わない部分がありますが、敢えてお前の策に乗り、本格的にわたくしの愛しのダーリンにしてみせますわっ!」



えっ……? ナニコレ―――ナイト・メア悪夢

何か知らんが、オレ……突如としてナニカの景品にされちゃったぽいぞ??

しかも幼女魔王シェラフィーヤの方を向いて見ると、なんだか鼻息荒くしてません??

えっ―――? これでオレ、DT卒業すんの?? や、やったあぁぁ~~……。(絶望のオーラ)


        * * * * * * * * * * *


あ~~あ、とうとうこう言う事になっちゃいましたか。

あ、どーもノエルです。

少し前から今回の状況の推移を見守っております~。


したらまあ―――予想以上に混沌としてきましたねえ?(ケラケラ)

元々はクローディアとイザナミさんとは、お互いに口利かない程仲悪かったんです。

しかしそれで一応の均衡を保てていた……そんなところに!

DT兄がリアルで惚れてた「二次元の彼女」、『魔王シェラフィーヤ様』がこの二人の恋愛戦争に割り込んでしまったために、こうなることは既に予測してたことなのですよ。


えっ? だって私言っていましたよね?

『兄ちゃん―――あんた……ここからが地獄ですよ~~?』

って。(ゲーラゲラゲラ)


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