第25話 再び巡り来た満月の夜
今回は……失敗だったわ、そこは素直に認めましょう。
本来ならアベル達がこなしてくれている事は、この私が率先して行わなければならないと言う事は、誰に言われるまでもなく私が一番に理解している。
だから今回、私には内緒で「どこかの国」と
「なーーーにをやってんだ、お前は……」
「えっ? 『なにを』って、私とアベル…………達はもう一蓮托生でしょう?」
やってしまったあぁぁーーーー!! なにゆっちゃってんのよぉぉ私ぃいーーー!
あの言葉と言葉の“間”、あんなに伸ばしちゃったら気付かれちゃうじゃない!!
{*どうやらご本人様は、気付かれていないものだと思ってしまっているようだ。}
まあ正直な気持ちを述べるとすると、私はもう片時も離れていたくはなかったのだ。
それにこうした気持ちが「いけない」ことだと判っている。
だって私は「エルフの魔王」なのだから……だから、個人的な
そ・の・は・ず! な・の・に!!
「ねえ―――アベル……これ、どう言う事なのかなあ?」
正直な事を言いましょう……私は、今回アベル達が目指している国の事なんか、これっぽっちも知らなかった……知りませんでした!
だから気付いた時に、どうーしてドゥヴェルグの国に来てるのか判らなかったのよおぉぉ~!
こいつらって見るからに汗まみれで臭そうだし、お金に汚そうだし、食べ物にも
{*総てシェラフィーヤ様個人の見解です}
そんなこんなで、私は少しばかり機嫌を損ね、周りにいたドゥヴェルグ達に噛みつきそうな表情をしていた―――らしい……
それを見かねた―――
「(シェラフィーヤ、我慢してください……何もアベルも、嫌がらせでここへと来たんじゃないんですから……。)」
アベルの妹―――ノエルから言われて「その通り」だと思わされた。
確かにアベルは、この私の事を信奉し崇め敬っていると言っていた。
最初の頃は眉唾ものだったが、これまで一緒に行動をしてきて、そうした彼の想いと言うものが嘘偽りではなかったことが判ってくると……
私の……気持ちが……傾いてしまっている事に気付かされたものだった。
だから今では
そうした私の気持ちに変化が訪れたのは、イザナミさんもそうなのだが、アベルの嫁を自称して止まない、女僧侶クローディアさんと出会ってからだ。
彼女は―――何というか、初対面からインパクトが強烈で、“自分”を売り込むことに関しては妥協を許さない……そうした鋼の意思が感じ取れる
そして、最初の頃は一党の長の為に尽くしているものと思われたイザナミさんも、まさか……―――だったとは。
だから私としては、本能的に彼女達の事を「
そんな時に―――……
「ひ、酷いッ! そんな事を言うだなんて!! シェラフィーヤ、わたくしあなたをそんな子に育てた覚えはありません! あなたなんてもう、うちの子じゃありませんわッ!」
えっ……そんなことを急に言われたって―――と言うか私、あなたに育てられた覚えないんですけど?
少し思うところがあり、割とキツめの事を口走ってしまった。
いやだってぇ……明らかにエルフ族じゃない人が、エルフである私の親って言うのもおかしい話だし、やはりきちんとすべき処はきちんとしとかないと……。
すると私からの一言が余程利いたものか、クローディアさんはあれ以来私を避けるようになった。
* * * * * * * * * * *
それはそれとして―――なのだが、今夜待望の日が巡ってきた。
そう、満月だ!!
この日ばかりは魔力の弱まった私でさえも魔力が回復し、封印された権能も戻ってくる。
前回の時は色々な妨害があって本懐は遂げられなかったけれど、今回は同じ轍は踏まない……「細工は流々仕上げを御覧じろ」というヤツだ。
「ねえアベルぅー、私今日ちょっと不安だから一緒に寝てくれない?」
「なにぃ? ………………まあいいか、本当にしようがない奴だなあ。」
フ・フ―――よし! 誘い出す事には成功したわ。
あとは……ばっちり
フ・フ・フ―――満月の間だけだけれども、権能を取り戻した私はすごいわよ~~う? あまり私の事を舐めない事ね! 小娘たち。
{*一応シェラフィーヤ様はエルフですので、現在の
こうして陽は傾き、落ち、やがて就寝の時刻を迎えた……
月の魔力が満ち、失われた私の身体に魔力が注がれ、私は元の姿を取り戻していた。
そして私の待ち人、アベルが私の部屋に来たのである。
「ようこそ―――アベル……」
「……あの、すいませんどちら様でしょう?」
最初ッからかい―――! てかこの人、私を信奉し崇め敬ってくれているのよねえ? それに、この姿以前も披露したと言うのに……なんでぇ?
「『どちら様でしょう』はないと思うんだけど……?」
「ふぅ~ん、つまりシェラフィーヤは、うちの
「うえっ?」
「『うえっ?』じゃありませんよ? うちの
・・・・。
うええぇ~~~っ? なんでよおぉぉっ??
今私の目の前にいるの、アベルじゃないのお?
顔もアベルだし、声も喋り方もアベルなのに、ノエルなのぉお??
とどのつまりそう言う事なのだ。
今回の私の誘いがあまりにも不自然だったため怪しまれてしまい、自分の“
さすがに私が惚れ込んだ男だわね。
{*ちなみにではあるが、この時使用されたノエルの忍術は『影遁:面転写』だったと言う}
それはいいのだけれど―――……
「またシェラフィーヤはどうしてこんな事をしようと? それにまた元の姿に戻っているようですが。」
「ち……ちょっと日頃のお礼に―――と……。」
「その『日頃のお礼』が、『私自身を貰って頂戴』ですか。 完っっん全に「エロフ」ですね―――あなた。」
「だってぇ、私一人出遅れちゃってるんだものぉお! それより何よ! 『エロフ』って!!」
「『出遅れてる』って何の理屈ですか……それに、ただ添い寝するだけで、やけに扇情的な薄寝間着じゃないですか。 色々とギリッギリで
「だってえ……だってえ………………」
「焦る気持ちは判らないではないですが、あまり事を急いてしまうと仕損じますよ。 それに先ほどシェラフィーヤは『出遅れてる』と言いましたけれども、うちの兄ちゃんはあなたの事が好きで好きで、ネットでも結構酷い事言われながらもあなたに会う事ばかりを夢見て、止めなかった大馬鹿野郎なんですから。」
その時、彼の妹さんは、口では結構酷い悪態を吐きながらも、その気持ちだけは私達とそう変わらないのだと、初めて知った―――知って……しまった―――
そう、ここで私は認識を改めなければならなかった、競争相手は2人なのではなく、3人なのだと。
しかもノエルには色々と世話になりっぱなしだし、私としてはどうにか彼女との関係は良好でいたい。
「判った…………」
「あとそれから、あまり彼女達を甘く見ない方がいいですよ、特に出し抜いたりしたと判れば、後で何が起こるやら知れたもんじゃないですから。」
そう言われてしまうと“ぐぅ”の音も出ない……今日と言うチャンスをふいにしてしまったが、満月となるのは今日だけとは限らない。
またいずれの機会が訪れる時まで、地道に行動をしなければ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明けて翌朝―――アベル達は今後の展開を睨んでか、ドゥヴェルグ達と何やら話し込んでいる。
私達エルフにとって気に食わない連中ではあるが、アベル達には有益なのだろう……と思い、そちらに関してはあまり干渉しないでおくことにした。
そして次なる目標の為にと準備している間、私は“ある変化”に気付く事となった。
「―――……あれ? 僅かだけど……魔力が戻っている?」
それは少しずつながら、私の権能が戻ってきていると言う証でもあった。
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