第24話 誰も得をしない不毛な争い

今回オレは、敢えてオレ達の話し合いの場に「ダーク・エルフ」「オーガ」「オーク」「ゴブリン」の魔王達を呼び寄せ、今後の方針について話し合っていた釘を差しておいた

まあこの時点で既にお察しの事とは思うが―――シェラフィーヤの「エルフ」は、この場には参加させていない。

それと言うのも……と言うのもなんだが、この世界を平穏、平和にするのに際し、なるべく争わない―――と言う事を標榜する者にとっては、これから話し合う事は最も嫌悪する事だろうからだ。


まあ……あいつは、あいつ自身が望んでいることが、どんなにか険しい道程みちのりだか判っているのか判らないが、オレに言わせてみればこうした「血生臭い道」は避けて通れないと思っている。


だから―――こそ、「エルフあいつ」を外させたのだが……。



「なーーーにをやってんだ、お前は……」

「えっ? 『なにを』って、私とアベル…………達はもう一蓮托生でしょう?」



なんだ、今の長い間は―――などと、ツッコミたいことはあるのだが、まあこれはこの際心の片隅にでもしまっておくことにしよう……


それはいいとしてなのだが、今現在オレ達はオレ自身の考えもあって、少しすこぉ~しばかり厄介な事に着手しようとしている。

まあこれは以前にも少し述べたことだとは思うのだが、こうしたファンタジーな世界での“お約束”として、エルフとは絶望的に関係が悪い2種族がある。

それが「ダーク・エルフ」であり、もう一つが「ドゥヴェルグ」だ。

まあ、ダーク・エルフのエレンとこいつとが仲が良いのは、元が「エルフ族」だと言う故事付けでどうにか納得は出来るのだが、もう一つのドゥヴェルグまで仲が好い―――と言うのは、さすがに高望みのし過ぎと言うものだろう。


そんな処へ―――これから向かう処の事情さえ知らないこいつが付いてくると言うのは、一抹の不安が過りよぎりまくるのだが……



「ねえ―――アベル……これ、どう言う事なのかなあ?」



うん……知ってた―――やはり今回に限っては、設定通りアウトぉ~!だったようだ。


いやしかし、こいつがあからさまなまでに“嫌悪”の感情を露わにするだなんて珍しいな。

まあ、そのことの証明が、エルフとドゥヴェルグとでは反りが合わないとなっているのだが……



「少々物をお訪ねします―――ここにドゥヴェルグの魔王『オプシダン』たるヨーゼフ様はご在所でしょうか。」



こう言った対外交渉事での“挨拶”は、これからの付き合い上最も大切な「第一印象」ともなるため、こう言った事が得意な人間に任せるのが一番だ。

その点“姉さま”であるイザナミは、こうした事に長けたけているので安心していられると言うものだ。


ただ―――……


周りドゥヴェルグ達の目線が総てシェラフィーヤに集中している……

う~~ん……やはりはさすがにまずかったか?

こっちはなるべく穏便に物事を進めようとしているのに、なぜか知らん間についてきちまってるんだもんなあ……

しかもオーガの国から結構離れてからついてきている事が発覚するし―――

そこから「帰れ」って言うのも酷な話だしなあ……


つまりオレは、“情”と言う洪水に押し流されて、こいつに同伴させる事を許可してしまったわけなのだが……。

果て? 待てよ?? こいつら―――とっくに気付いてたんじゃなかったのか?

それに……そういえば、やけにノエルのヤツは“ニヤニヤ”してたと思ってたが―――

あ・の悪戯猫~!(黒豹です) 気付いててわざと言わなかったなあ?

クソッ! あいつには後でキツぅ~イお仕置きして、誰が主か―――って事をしつけてやる!!


……と、そこまでは良かったのだが―――



「うええぇ~~ん―――おとうさあぁん! あのクソドゥヴェルグ共が、私の悪口言う~~!」



おい―――今すぐその「おとうさん」と言うのを止めろ!

さもないと、ここに一体残っている「大魔神」様が覚醒めめざめてしまう!!


まあ大方の予測通り、ドゥヴェルグ達の陰口に耐え兼ね、幼女と成ってしまっているシェラフィーヤが泣いてしまったのである。

そこは判らなくもないのだが、あまり大っぴらにオレの事を「おとうさん」等と呼んで欲しくないのである。


だってぇ…………ここにはもう一体、「大魔神」様がおられるのですから……。



「シェ~ラ~フィーヤ~~? あなたわたくしの夫に、そんなベタベタベタベタ引っ付くんじゃありませんわよぉ~? わたくしの夫が迷惑してるじゃなあ~~い。   それにあなた……わたくし達の本当の子供じゃありませんのにぃぃぃ!」



ほら、おいでなすった。

てか“嫁”よ、その理屈で言ったらおまいも違うからな?



「あら、でもそう言うクローディアさんも、! アベルのお嫁さんではないのでしょう! 私知ってるんだから……あなたが「ネット嫁」だってことくらい!」



おい、これは一体何の冗談なんだ??

オレ一人を巡っての奪い合い―――なんだか今オレ、世のリア充の野郎共の苦労の一部が伺えた気分だぜ!

{*総て個人の見解です。  しかも多分に間違っています。}


いや―――しかし……手負いの獅子を煽るのだけはイカンぞう~?

だって、ほら―――……



「お゛お゛お゛ん? その事実、どうして、どこで知った! いや、知ったところでわたくしがアベル様の“嫁”であることは覆らぬ事実!」



ああ~~~もお~~~止めてくれえぇぇ~~~い!

なんだかそこはかとなくオレがダメージ(精神的)受けてる気分だあ~~~!

大体この不毛な争い、“誰得”てやつじゃないか、とばっちり受けるオレの身にもなって見ろぉ~~~い


……と、オレがこの2人の不毛な争いによって身悶えている頃、ドゥヴェルグ達との折衝を終えたイザナミとイザナギか戻り……



「今、不届きな事実が聞こえたと思ったのですが? 第一クローディアは、まあぁぁだそんな寝惚けたことを言ってるんですか!」


「このわたくしの言っていることの、どこが寝惚けているのだと? わたくしがアベルさんの妻! 嫁! 奥さん! であることは“公”にして認められている事実ですわ!」


「え~~それ絶対怪しい~~~! なら、本当だと言うんだったら証拠と言うものを見せてご覧なさいよ。  『結婚証明書』とか『婚姻届』とか。」



うおっ!あいつがようやくまともな事を言ったと思ったら……残念ながらそんなのないぞ。

だって、オレ達がプレイしてたゲーム内でも、『結婚』というシステムは実装されていなかったからだ。

そうつまり、だからクローディアのヤツが言っていることが“自称”だと言うのは、こう言う事が起因していたからなのである。


……の、だが―――



「ひ、酷いッ! そんな事を言うだなんて!! シェラフィーヤ、わたくしあなたをそんな子に育てた覚えはありません! あなたなんてもう、うちの子じゃありませんわッ!」



う~~~ん、唐突に何を面白おかしい事をのたまわっているんだろうか、この“嫁”は。

それにシェラフィーヤのヤツも『育ててもらってないんですけど……。』と思っている事だろう。


とまあ、クローディアが現実と(己の)妄想の狭間で右往左往してる最中に―――また今度は姉さまが……



「フフンッ……ようやく目が覚めましたか、所詮あなたは私達の団長様と結ばれる運命には―――」

「黙れ、お前にだけは言われたくありませんわッ!」



あのなあ……お前達―――ここ、オレ達の根拠ホームじゃないんダヨ?

なのに何なの……余所の家でドンパチやらかそうての?

そんなことしたら普段温厚なオレでも怒っちゃうよ??

しかも……この喧騒をドゥヴェルグ達も見てるし、オレ達の現実じゃない世界でまさかの「晒し」に遭うだなんて……聞いてないよ???


この後、まあ小一時間ほどたっぷりと不毛な争いは続いたわけだが、ドゥヴェルグの魔王『オプシダン』たるヨーゼフも目の当たりにしていてさすがに気の毒に感じたのか、わりとすんなりこちらの要求に応じてくれた。


今更ながら言うまでもないのだが、ドゥヴェルグ達と手を結ぶ価値は重々にしてあるのだ。

なにしろこいつらは技術・開発力に関しては優秀だし、銭勘定に関しても他の魔族連中と比べても抜きんでた才覚を持っている。

だからこそこうした連合を組むときは是非とも加えておきたい候補の一つだ。


ただ……気がかりとしていたのは、エルフとは伝統的に仲か悪いと言う事である。

それはどうしてなのか―――と問われても、知らないものは知らないので何とも言いようがないのである。

しかもそんな奴らに、今回こちらのみっともないところを見せてしまった。

オレがやらかした失態ならいくらでも言いようがあるものだが、今回はオレの身内が壮大にして派手にやらかしてくれたことなので、弁解の仕様がない……まあそんなことだから、ヨーゼフ達と一杯ってた時に言われてしまったのだ……。



あんちゃんも、若い内から苦労しとるなあ。」

「はは……は、わかりますぅ?」


「ワシらドゥヴェルグの女も気の強えぇヤツばかりでな、ワシらも弱えぇとこ握られっぱなしなもんさ!」(ガハハハ)

「は~~そんなもんなんスかねえ……。」



酒の上でのリップ・サービスであろうことは判るのだが、お互いどこの世界でも男は女の尻に敷かれると言う事がよぅく分かっただけでも、収穫というものだ。


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