第23話 『悪党』―――その由来

何という事だろうか、アベルはもうここまでの事を描いた上で、オーガの魔王シュテンから自主的に防衛線を買って出たのだ。

そして今回も私の名を借り、瞬くの間にオークとゴブリンの魔王を従えさせた……


ただ、一つ判らないことが強く疑問として浮かんできてしまった。


なぜアベルは―――私のためにこうまで尽くしてくれるのだろう……

それにそんな彼の一党が、どうして『悪党』などと、聞けば印象の悪くなるような名称を使っているのだろう……。



「ねえ―――ノエル、一つ教えて……」

「はい―――どうかしましたか?」


「あなた達どうして『悪党』なんて言う名称を使っているの?」

「ああ―――その事ですか……確かに耳障り悪いですよねえ~? ところでシェラフィーヤ、本来の「悪」の意味って知ってます?」


「本来の「悪」の意味? でもそれって―――……」


「そう……『善』の反対の意味である『悪』―――ですが、その本来の言葉の成り立ちはちょっと違うんです。

『悪』その本来の意味―――それは『とてつもない強さ』と言う意味を持つんです。

常識では測れないほどの強さをさを持つ存在は、やがて周りをも不安に陥れます、それゆえ大昔には『命令や規則に従わないもの』に対する価値評価になったとさえ言われています。

それとですが、この『悪党』なる名称、私達が最初ではないんですよ。

私達の世界の歴史で、楠木正成なにがしが当時の政治機関に対抗していた時、政府側がどうしても彼らに勝てなかった―――ここで『悪党』と呼ばれたのが顕著な例と言われていますね。

そして私達も同じ……『人中の魔王』として畏れられている兄ちゃんを始め、『覇王ウオー・ロード』『静御前』『破界王ジャグワー・ノート』そして『加藤段蔵』……と、一癖も二癖もある私達がどこの勢力にもくみせず、ある意味自由気ままにいられたのは、それを証明してると言ってもいいでしょうねえ。」



その事を彼の妹であるノエルから聞き、少し私の胸の奥が“チクリ”と痛んだ。

アベルは本当はこんなことが嫌いではないのか―――だとすると今まで積極に私の事を助けてくれるのは何でだろう……。

取り敢えず彼らの一党の名称がどう言った理由で名付けられたられたかは分かったものの、またそうした疑問に出くわしてしまったのだ……



「ねえ……アベル―――アベルはどうして私に協力してくれるの?」

「あぁ~ん? そんなのオレがそうしたいからに決まってるだろ。」



アベルからの答えは至極単純であり、そして意外でもあった。

それもこれも、彼が“元”の私の事を信奉崇拝してくれているからかもしれないが……

ただ、彼には申し訳ないけれど、今の私にはそうした魅力もなければ、魔王としての権能も取り戻せてはいない。(辛うじてその座位くらいまでは取り戻せたのだが……。)



「お前―――またノエルのヤツに変な事吹き込まれやがったな? 全くあいつときたら……よし今度見つけたらとっ捕まえて、“お仕置き”じゃあ~!」



何と言うか―――まあ、これが彼の平常運転なのだろう。

私はせめてもの願いとして、妹さんが兄に捕まらない事を祈るばかりだった。


       ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


“17”もある魔王の内、「エルフ」「ダーク・エルフ」「オーガ」「オーク」「ゴブリン」の5種族に関してはオレ達の傘下に入れる事が出来た。

それはいいのだが、元々戦闘好きで略奪行為が好きな魔族に、これから「仲良しこよしでやって行きましょうね」……なんて到底分かり合えるはずもない理屈だ。

無論すんなり受け入れてもらえるなんて思ってはいない、だからこそ少々強引な手を使わなくてはならないのは、非常に心苦しいものがあるが、まあむを得ないだろう。(笑)



「なあ―――姉さま、シェラフィーヤが言ってたことなんだが……」

「『この世界を平穏に』でしたか、浸透させれば……ですが、まあ無理でしょうね。」

「呆れた―――よくそんな見切り発車で事に及べたものですわね。」

「だが……全種族を支配下に置けば、無理にでも従えさせることは出来る……。」


「“独裁”かあ……まあ悪くない手段だが、もうちっとオレとしてはだね、穏便に事を進めさせたいのだよ―――諸君。」



現在、オレ達の話し合いの場には、ダーク・エルフの魔王エレン、オーガの魔王シュテン、オークの魔王『ハウル』のシュヴァイン、ゴブリンの魔王『アストラ』のドゥーリンの4人がいる。

なぜ彼らがオレ達の話し合いの場にいるのかと言うのは、ここでこいつらの意思の確認を取るためだ、もちろん“強制”ではない―――もしそう思われたのなら、甚だはなはだ心外な話ではある。

だーかーらー言いたいことは、はっきりと言うべきなのだよ? 別に強制的ではないけど。



「全く―――食えない男だねえ……「穏便に」とは口にはしちゃあいるが、全くその気はないのにさ。」



彼女―――エレンは、最初にオレ達の傘下に入った魔王だ。

だからこのオレ(達)のやりそうなことは判っているだろうし、そうであってもらわないと困ると言うものだ。



「ん~~実に的確なアドバイスだ―――ありがとう、エレン君。  さて、他に言いたいことのある者はいるかね? この際だから色々と発表しようぶちまけようじゃないか。」


「そなたはどう思っているのだ―――『人中の魔王』。」

「おおっと、まさかオレに矢が飛んでくるものとは思わなかったぜ。 だがこの際だ―――はっきりしておいてやろう……。

オレはな、既に在る制度とか言うのは大嫌いなんだ―――規則や法律、制度なんかで縛られるなんて真っ平ご免だ。

だからなにもかもをブチ壊してやりたいのさ―――あんたら魔族が戦闘好きの戦争好きで? 勝てるヤツが総取り―――なんてのはよくザラにある話だ。

そう言うのをな、一度ご破算にして最初っからやり直しをさせたいのさ。」


「むウウウ―――く、狂ってる……その昔から連綿と伝えられている伝統を無くすなどと? お前は一体何がしたいと言うのだ。」


「意見―――ありがとう、大変参考になったよ……だが黙れブタ。  敗けたお前らが悪いんだ、オレにつべこべ言われたくなかったら勝ってからモノを言え。」


「フン……我らを従えさせただけで世界を獲ったものと思うなよ? 事実この世界には―――」


「外にも『エンジェル』『ドゥヴェルク』『ドライアド』『ミノタウロス』『バフォメット』『アラクネ』『ライカンスロープ』『デーモン』『ヴァンパイア』『ジャイアント』『アンデッド』そして『ドラゴン』ですか……中々手折り甲斐のある者達が揃っていますことね。」


「かなりな強敵が混ざってますね―――大丈夫なんですか?」


「チ・チ・チ―――そこは違うよ、心配をするところじゃないノエル君。

要は“殺る”か“殺らないか”だよ。 反対するからには徹底的にボコり潰す。

あんたら運が良かったなあ~? 早い段階でオレ達についてて正解だったと思うようになるぜえ~? なにせここからは、例え倒れ伏して泣いて許しを乞おうが、容赦なく蹂躙すふみつぶすからなあ?」



まあこう言ったところがワル兄のワル乗り―――曳いては『魔王』と呼ばれる所以ゆえんなんですよねえ~。

悪く言えば『はみ出し者』なんです―――昔から校則も守らないし、ゲーム内でも禁止事項と言ったものを次々と破るし……全く、組織と言うか国家と言うか、そんなのに従うのを嫌がるんですよね。

ですが―――そうした事が出来る実力が兄にはある……その辺に魅力を求めて集まってきたんですよね、この『悪党』も。


それに、それだけの強さを持っているなら、一国を落とす事だってできる……なのにそうしない―――って言うのは、ある意味では分かっているんでしょうね、所詮自分には「統治者」の素質なんて備わっていないって。

だから今回も、対内の事はシェラフィーヤに任せて統治者させていますし、対外の事は私達に任させてもらい、“荒事”になるようなら本腰を入れて相手をする―――(まあ、理想的には“荒事”にならないようにするのが、ベターにしてベストですがね……)

そして最終的には、『世界征服』―――つまり統一した暁には、これまでの風習ではない新しい風習として『平穏で平和に』をモットーとする。

これがあの時イザナミが語っていた真相―――なのだと私は思っています。

(ま、その『平穏で平和に』もワル兄が飽いでしまったら、またひと騒動あるんでしょうけれどね。)


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