第22話 それぞれの本領発揮

今回、オーガの国を侵そうとしている『オーク』と『ゴブリン』のそれぞれの思惑としては、概ねおおむね次の通りだろう―――


オーガは早い時期から“彼ら|”との接触があり、偶然にも勢力内に取り込めていたようだったが……そこに私達が接触を図ったことでシュテンの目算が狂い、現在の事態に至っている……。

{*この“彼ら”とは「イザナギ」「イザナミ」「クローディア」の3名であるが、「イザナギ」「イザナミ」の2名に関しては行動が一緒だったものの、「クローディア」に関しては場所が離れていたため、この3名の中では自分たちが同勢力内にいる事は情報の共有が出来ていなかったものと思われる。}


ただ、これはオーガ側の視点であり、オークやゴブリンの視点とは少々違う。

恐らくオークやゴブリン達からしてみれば、強いオーガが弱いエルフ如きに屈してしまった……そういう見方しか出来なかったのだろう。


だからこそ、今お互いに連合・共闘の体制を作り、勢力としては弱まったオーガを一気に叩く―――そうすれば、この世界でも有数な強兵を配下に置くことができ、いずれは自分たちか世界の覇権をその手に収められる―――そう思ってしまったのだろう……。


だが―――そこには大きな誤算があったのである……

そう、オークはまあどうかとして、ゴブリンは確実に“彼ら”の事は知っているはず―――なのに、そこを考慮に入れていないとしたら、先ほどアベルも言っていたように、知力の方は相当低いと見ていい……。


そして―――総力を結集した戦闘が開始される……。

私も幾度か彼女達の戦いぶりは目にはしてきたが、その今までもが“小手先”だとしか言いようがない事を、この時改めて思い知らされたのである。



「おお―――どうやら言う通りに動いてるみたいだな……。  よし、それじゃ―――」


「はい。  それではこのたびの方針をお伝えいたします―――『見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ』、我が愛しの『人中の魔王』様に刃向かいし愚行、慈悲なく分からせて差し上げるのです!」



いや―――あのね、まあ確かにそうなんだけど……『見敵必殺見えてる敵全部殺し』しちゃったら、この後の交渉とか一体どうするんだよ―――一体誰が責任持つの? オレ?? いやさすがにやり過ぎちゃったらこっちの言う事、耳傾けてくれないかもよ???

とは言え、一応戦闘の指揮は後衛の回復職であるクローディアに一任してしまっている。

それに……この作戦『見敵必殺』って、元々はPvPでの話しなんだよな~~

そこへ行くと、今回の相手はプレイヤーじゃないし……

頼むから“ほどほど”で止めといてくれよ―――?


そうした中、『加藤段蔵ノエル』の忍法≪水遁:無幻陣≫によって方向感覚を惑わされ、まさに五里霧中を彷徨さまよわされたブタと餓鬼どもが、機を見計らって術を解かれ一斉にこちらへと向かってくる……。


だが―――三方から押し寄せてくる軍団は、やがてみちの“結節点”たる交叉点に差し掛かるのだが……そこにはすでに、≪神域≫で網を張っている『静御前イザナミ』が待ち受けているのである。


当然のことながら、先行し過ぎた部隊はその悉くことごとくが罠にかかり、身動ぎみじろぎ一つ出来ないでいる。


そしてまだ更に―――



         忍法―――≪陰遁:六道の一“人間道じんかんどう”≫

「フフフ……人間とは斯くかく脆いもろいもの―――ゆうべには信じてもあしたには信じ切れないでいる……さあ~あなた達は何が見えているのです? そこにはそう―――今回討つべき憎い私達しか見えていないはず……。」



そんな……?! 今回に限り連合・共闘を約束したはずの彼らオークとゴブリン達が―――互いを傷つけ、殺し合っている??

何という恐ろしい術―――今の彼らの目には、本来討つべき幻の私達が映っているんだわ?


その最初に、二ツ名の由来を「幻術の王」として知られている『加藤段蔵』であるノエルが口火を切った。

その彼女の二ツ名の由来に恥じることなく幻の私達を演出して見せ、同士討ちをさせる―――これが幻覚の耐性を持っている者達や知力の高い者達には効果が薄いとされているものの、今の“彼ら”にはそうしたものが一切ない―――

しかし、これは裏を返せば、今回の戦闘は私達は一切手出しすることなく…………?


しかし、その考えは甘かった―――そう、今幻術にかかっている者達は、まだ先行部隊でしかなかったのである。

そう……この先行部隊達より後れておくれて現れた「後詰め」―――そこには以前見たことのある「ゴブリン・チャンピオン」や「ゴブリン・ガーダー」「ゴブリン・ナイト」がいたのである。


そして、更なる脅威として―――



「あれは……「オーク・ジェネラル」!?」

「なるほど……が今回の総指揮官でしたか―――」


「フン……フフン―――なるほどね、弱小のエルフの言うなりになり、配下にしたものと思われたオレ達に見限られた……だから、お山の大将は出てこなかったってわけだ。  だが……哀しいかなあ~? そっちの方が、オレ達に取っちゃ好都合―――って事がよ。」


「『覇王ウオー・ロード』出番です……派手に食い散らかしなさい。  とは言っても交渉の材料とするため、なるべくあのブタは半殺しにして差し上げるのです。」



オークの魔王……『ハウル』である「シュヴァイン」、その右腕と目されているジェネラル―――『ランペイジ』である「ガルガノフ」、その彼がこの戦場に姿を現わせたのである。


ガルガノフの事は私もよく知っている。

この世界でも数少ない、10万を超える軍勢を指揮統率できる者……その内の一体が今回の戦闘に顔を出している―――その認識を、私達は誤ってはならない……

誤っては、ならない―――のだが……

後詰めである彼らよりまだ後に参上してきた者を見て、私は息を呑んだ―――



は……は一体何―――?

あれは“鬼”……人の皮を被った“鬼”だ―――!!



普段日頃では、アベルより揶揄われてからかわれてばかりいる印象が強い『覇王イザナギ』……その彼が佇むたたずむその異様さは、まさしくの“鬼”そのものであった―――



「そこのゴブリン共―――貴君らには用はない……大人しく去れ。  去って逃げれば、この私とて追ってまで害しようとは思わぬ……が、やはりそうか―――貴君らも武人の端くれなら判るものだったな……。  よかろう―――この『覇王』がせめてもの手向けとして、そなたたちを冥府へと旅立たせてやる!」

            ≪墨     焔≫



それから一切―――彼は情け容赦はなかった……。

20名は下らないであろう、通常のゴブリンより上位種であるはずの「チャンピオン」「ガーダー」「ナイト」達を、またあの墨のような黒い炎を宿らせた漆黒の剣『バルムンク』で撫で斬りにしていく―――突けば盾もろとも身を貫き、斬れば骨もろとも肉を裂き、打てばもろとも骨をも砕く……それがイザナギさんが持っている技の有り方だった。


そして最後に対峙したのは―――



「ふむン―――フフフ……中々骨の有りそうな奴が出てきたというものだ。」

「そなたが指揮官か―――少々不本意ではあるが、私達に降れくだれ……さすれば怪我を負わなくて済む。」


「おのれ―――言葉でワシを弄りなぶりおるか!」


「そうではない……確かにそなたは、そなたの種族や此度こたびの連合の中では腕が達つたつのだろう―――だが……それしきでは私には敵わんよ。  してや、この私の生涯に於いて一度敗北を味わわせた事のある、あの男の前には足元にすら及ばん!!」


「そうか……ならば二度目の敗北、篤と味わうがいい―――!」



そこで私は衝撃の光景を目の前まのあたりにする―――

何故なのだろう―――常にガルガノフの間合いにいるはずのイザナギが、まるでどこか遠くにいる様なのである―――……

“当たらない”―――“掠りさえもしない”……ガルガノフの剣は、虚しく空しくを切るばかり―――……


だがそのカラクリを―――……



「あ~れま、随分とまた遊んじゃってえ~。(笑)」

「―――ノエル……でもそれって……。」


「でもこう言うのって、デモンストレーション効果があるんですよね。」

「『デモンストレーション』?」


「いわゆる”観せることで効果を発揮させる”……『いくらお前達が必死になって攻撃しようとも、無駄ですよ掠りもしませんよ。』って言う……ね。  そして疲れ果ててきたところで「えいやっ」と一刺し―――これで今回はオ・ワ・リ……です。」



まさに……事実としてそうなっていた―――

一撃で仕留めようとする為につい力を込めての大振りとなり、それが一度や二度三度ではなく、しかも呼吸も荒々しくなり肩で息をしている……そうした頃合いを見計らい、イザナギさんがガルガノフの左足の太腿を貫く―――……


こうして今回の戦闘は終わったのだが、実際に戦闘行為を繰り広げていたのは、ノエルとイザナギさんだけでしかなかった。

そう……たったのこの2人によって、オーガの国は侵略者達を撃退できたのである。


だが……戦闘での活躍はここまで―――ここから先はまさにアベルの本領発揮と言えた……。


        * * * * * * * * * *

さあ~て―――”お遊び”はここまでかあ……。

まあ正直、あの程度レベルの奴らに本気を出したって、「弱い者いじめ」にしかならないもんなあ。

それよりも―――だ……今回のオーク・ゴブリン連合軍の中に、こいつらの事実上のトップである『魔王』は顔を見せていなかった……。

まあ大方、弱体化したオーガなんざ、所詮「ジェネラル」辺りブッ込んどきゃどうとでもなるのだろう―――と多寡を括っているに違いない。


だがねえ~~命取りなのだよ―――明智君(笑)


本来であれば、侵略軍撃退したことを報告するため、オーガの魔王であるシュテンに報告するのが筋というものだろう。

だが敢えてオレはそうしなかった―――傷ついたオーク・ジェネラルをクローディアに治させ(まあ~最初は拒んでいた嫌がっていたが……)、その足でゴブリンの魔王もいるであろうとされるオークの国へと運んでいたのだ。


当然こいつらにしてみれば、帰還した時には意気揚々とした姿を拝められるものとばかり思っていたようだが―――

まるで罪人たちの群れの様に連なって捕縛されている姿など、誰が想像しただろう……



「こ……これは? 一体どうしたと言うのだ―――」



う~~ん、イイネ―――イイネ~~~お定まりの定型文。

自分達の想像を超えた出来事の前には、必ずと言っていいほどこのセリフをよく口にする―――

そ~し~て~~~……



「『一体どうしたと言うのだ』―――その問いに答えてやろう。  お前達が満を持して繰り出した軍隊が、オレ達によって敗れ北ったやぶれさったのだよ―――本来なら殲滅してやっても良かったのだが……生憎オレの召喚主である魔王シェラフィーヤ様からのご下知により、格別に生かしたままここに連れ来たまで。   感謝するがよい……魔王シェラフィーヤ様のご慈悲になあ?」



オレからの衝撃的な告白により、両者揃って項垂れうなだれてしまうオークとゴブリンの魔王。

自分たちご自慢の軍隊が、ただ強いオレ達―――だけではなく、そのオレ達が弱小として認識されているエルフの魔王の配下と知った時の奴らの顔……傑作中の傑作だったな。(笑)

まあそれはともかくとして、これでオークとゴブリンも制圧……なのだが―――


うん―――と言うかだね、殲滅しちゃったらの事出来なかったからね?

だから心底冷や冷やしたものだ、嫁のクローディアは『見敵必殺サーチ・アンド・デストロイ』発しやがるし、イザナギの奴もオレが言わなければ屍山血河築いていただろうしなあ~~

いやホント全く―――『オレが説明するまでもなく理解してくれよ!』と言いたいところだが、まあ今回は”まあるく”収まったことだし、いいか―――


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