第21話 “動く”「世界」

「ア~~ベル、ア~~~ベルッ♡」



のっけからだが、オレは今HPを徐々に削られてしまっている。

それと言うのも、いまだ「幼女化」の呪いが解けないこいつが、一体どう言う訳だかオレにしつこく付き纏うなどして、嫁と姉さまからの“プレッシャー”に曝されてさらされているからだ。


しかし、これが爆れつダイナマイツ・ボディの「魔王シェラフィーヤ」様なら、泣いて喜ぶほど嬉しいのだが、残念なことにオレにひっついて離れやしないのは、“ちんちくりん”の方である。


だいたい……それにしてもだなあ~オレには「幼女趣味ロリータ・コンプレックス」なんてないんだが―――……

だから不本意な形で絡まないでくれよ~~~ぅ……。



「おい……そろそろオレの腕にしがみつくの、止めにしてもらえませんか?」

「えっ、だってアベル、私の「おとうさん」だし~♡」


「うが~~~っ! やっかますぃーわ! いい加減離れろよッ―――こんちくしょうめい!」

「えっ? ひょっとしてアベル……私の事嫌いになっちゃったの?」


「嫌いだとか好きだとかじゃなぁ~いっ! お前もちっとは気付いてくれよ~! 2人からの重圧殺気を!!」

「(…………)あっ、どーもこんにちは~。」



!! 今会釈それはアカンだろ~う!

今の会釈それは、「宣戦布告」の意味だぞ~う??

なのにお前は……殺るヤル気なのか? そうなのか??


今オレが置かれている状況を簡単に説明をすると、間借りをしている一角でオレが寛いでくつろいでいる所に、いまだ“幼女”であるシェラフィーヤが擦り寄ってきて、オレの左腕にしがみついて離れないのである。

う~~ん、これが“幼女”ではない―――つまり本来の姿の『シェラフィーヤ様』なら、この後の絶対不可避の騒動血生臭い殺伐バトルで生命を落としたって「オレの生涯に一片の悔いもない!」のだが……

“ちんちくりん”ではなあ~~~……


しかも、この状況を虎視眈々と―――眼を爛々と光らせた魔獣が2匹……伺ってうかがっている。


それを知って尚―――こいつシェラフィーヤあいつらクローディアとイザナミと対抗しようってのか??

痩せても枯れても『魔王』―――の面目躍如とでも言いたいのかあ~?

それはそれで構わんが、オレを巻き込むな~~~!!!

と、言ってやりたい。


         * * * * * * * * * *

ん・むむむむ…………い、一応あの2人に対抗しよう―――と、肚を括ったはいいけれど……

予想していたよりも以上に、怖いわね……何だか身の危険すら感じるわ。

だけど―――もう私は心に決めたの!

それに、「宣戦布告」じゃなくて「参戦の意思表明」よ!!

さあ……私と、あなたたちと、どちらが相応しいか―――勝負よッ!




「ただいま―――今帰ったぞ。」

「ああ、お帰りなさい……イザナギ。」


「(ン?)なんだ―――あの一角は……少し異様ではないのか?」

「ああ―――ちょっと今、一触即発面白い事になろうとしていましてね~」


「(……)ノエル―――そう言った趣味はあまり関心せんぞ? それより何があったのだ。」



ここ最近一人で外に出て、自分の武を磨く……そうした自分のルーティーンを終わらせたイザナギが帰ってきた。

しかも今は一触即発になろうとしている只中―――どちらかに少しでも動きがあれば暴発することは間違いない……そうした事態に彼は戻ってきたのである。


―――このまま……

このまま事態の推移は見送られ、緊張した時間が継続するのみ―――……と、そう思われたのでしたが……


なんとここで、彼が割って入ってこようとはあ―――???



「取り込み中、ちょっといいか―――」

「何の用です……? 『覇王ウオー・ロード』……。」



うおおお~~! こいつ―――雰囲気くうき読まね~~と思っていたが、実にいいタイミングだぜ!!

よし、お陰で世界の崩壊はどうにか免れた―――!!

いや~~危ない、危ない―――一時はどうなる事かと思ったぜ……


この時オレは冷や汗を拭っていたものだが、イザナギが齎してもたらしてきた情報は、また別の意味でも深刻だったのだ。


         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「何ですって? オークとゴブリンが共闘を?」

「ああ、この国オーガの国の斥候が漏らしていたのを聞きつけてな。   なんでもこの国オーガの国に攻め入ってくるらしい。」

「中々に解せませんね―――オークにゴブリンと言えば、“共闘”“連合”したところでオーガに敵うかなうはずもありませんでしょう。」


「ところがクローディア殿、事情は少々違うようなのだ。」

「“少々”? 違う―――とは、またどのような……」


「“我ら”の事ですよ―――姉さま……。」

「ふむ……読めてきたぜえ~? だがその前に確認だ―――おいシェラフィーヤ、至急シュテンに取り次げ。」

「判ったわ―――事の真相を確認するのね。」


「そういう事だ……で、クローディアお前も一緒について行ってくれ。  だが、―――ただ黙ってこいつの側に立っていさえすればいい……。」

「了承しえました―――それで旦那様は?」


「オレは、特等席で拝ませてもらう―――そしてノエル……お前はそいつらに張り付け。  んで、この国の境から1km離れた地点まで近づいたら、足止めしとけ。」

「ええ~~っ、折角面白い出し物なのに―――“お預け”ですか?」(ニヤソニヤソ)


「駄々をこねるな―――……」(ニヤソ)

「はぁ~い、判りましたよ―――っ……と」


「それで……私達2人は―――?」

「姉さまは経路の結節点に網を張れ―――そしてイザナギ……お前にはとっておきのご褒美をやろうじゃないか?」

「フッ……そうでなくてはな―――」



私達が色恋の争奪を繰り広げようとしているとき、世間の事態は動こうとしていた。

そう……なんとオーガの国と隣接しているオークとゴブリンが共同戦線を張り、オーガの国に侵攻を開始しようと言うのである。

それにクローディアさんが言っていたように、オーガとオークとゴブリンとでは格が違う。

中堅どころのオークと弱小のゴブリンが手を結んだところで、オーガを揺るがしかねない事態とまでなるのは考えられない。

……となると、考えられるのは2つ―――


その“一つ”を潰すため、現在私とクローディアさん、そして“潜伏ハイディング”で身を隠したアベルとが、オーガの魔王シュテンと接見をしているのである……。



「どうしたのだ―――また……」

「オーガの魔王……『スサノオ』たるシュテン、度重なる非礼をお詫び申し上げます。  そして急な接見の要請も受けてくださり、感謝する次第でございます。」



彼の様子を見るに、どことなく焦っている。

だがこの焦りはどうやらイザナギさんが立ち聞きしてしまった斥候からの情報によるものだろう。

本来ならば、弱小であるエルフの魔王である私なんかを相手するよりも、かの連合軍に対抗する話し合いをすぐにでも始めたいはずだ―――

だが、彼には私からの要請を拒めない理由がたった一つだけある―――

その理由こそが、私の側にいるクローディアさんである。


話しを聞くところによると、どうやら彼女は傷ついたオーガ達を僧侶の回復魔法を用いて治したようで―――そんな彼女に対し、恩を仇で返しそうになった……

こうした弱味がある限り、交渉での主導権イニシアチブはこちらにある―――シュテンが拒みたいのに拒めないのはそうした事由が存在しているのだ。


ただ―――尤ももっとも……



「つきましては確認のほどを―――現在あなた方オーガの国は、オーク・ゴブリン連合軍によって侵攻せめられようとしていますね?」

「う……それをどうして―――」


「それは本当なのでしょうか?」

「ナニ? どう言う意味だ―――『イラストリアス』!」


「偶然か否か、この国にいるのです。  つまりあなたは、また私達を―――」

「それは有り得ん! この『スサノオ』、わが国民に忍び寄る脅威を―――」

「フッ……よく舌が回りますね―――」


「止めとけ―――クローディア。  わーるかったな、一瞬だが疑っちまった。  だが、以前まえに疑われる事をしたのはあんた達だ―――オレ達の仲間に危害を加えるんじゃないか……ってな。」

「(……)“振るい”に掛けたのか―――?」


「ああ―――そういう事だ。  だから……疑いをかけたのは正直済まないと思っている―――その詫びとしてオレ達がそいつらを撃退してやろう……。」



弱味を握られているから、私と接見しない選択はない―――しかし国境付近には弱小と中堅処の連合と言えど、オーガの国の領土を脅かそうとしている連中がいる……。

―――人はその本音を明かしやすい……。


全くだが、なぜアベルがこちらの世界ではないにしても、『魔王』と呼ばれていたのか、薄々ながら感じてきた。

そして思う―――彼が味方であって良かったと……。


          * * * * * * * * * *

全く―――ちょれぇもんだなあ~?w

まあ元々、オーガやオークやゴブリンなんてのは、そんなに知力が高くなくお頭おつむはてんてん―――と言う感じだったが、ここまでオレの思惑通りに進むとは……。


だがまあ、それが準備を怠る理由にしちゃあならない。

予めあらかじめノエルでせき止めしといて、機を見計らったところで解放―――そして三方からの軍勢が一纏まりになり易い三叉路ばしょに、「ネズミ捕り」を置いておいてやる―――そして全員動けなくなったところで、“殲滅親の総どり”だぁ……。


まあ―――そこに…………或いは魔王親玉がいてくれたら、「ここら一帯|」は制圧したも同然だ……。

だがまあ―――贅沢は言わんでおこう……いや寧ろ、いなかった方が後で強請れるゆすれるからなあ~~?(ギャーッハハハハ)

{*「ここら一帯」とは、「エルフ」「ダーク・エルフ」「オーガ」「オーク」「ゴブリン」の国の事。}


さて、お遊びはこれくらいにしといて―――久々だが「総力戦」と洒落込むか。

そして“善い”も“悪い”も、清濁併せ吞んで噂を流し込み、オレ達『悪党』の強さを世間に知らしめる―――まあこう言ったやり方はスマートじゃないが、この世界にいるのはとも限らん……。

この噂がこの世界の隅々まで伝播すれば、或いは「向こうの方から」―――と言う思惑もないわけではない……。

まあ尤ももっともと言う可能性も否定してはならないのだが―――……


まあ~それもこれも、この一件を早く終わらせて、その後考えるようにしようじゃないか!


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