第20話 まおうは、さらに こんらんをしてしまっている!!

まだ―――依然状況としては変わってはおらず、更に悪化していた。

クローディアさんもイザナミさんも、どちらも殺る気マンマンで、いずれが“龍虎相克りゅうこあいうつ”の様子を呈している。

イザナミさんはかなり長身ながみの「太刀」と言う武器を既に抜き放ち、“にじりにじり”とクローディアさんに詰め寄っている。

片やクローディアさんも、例の「ムエタイ」なる格闘技の構えをし、イザナミさんからの攻撃に徹底抗戦するつもりのようだ。


しかし―――……これはもう、勝負にならないのでは?

いやだって、一方は武器を装備しているのに、一方は素手なんだもの……


―――と思っていた私の眼前では、まさに常識ではあり得ないことが展開されていた。


えええ~~~~っ? なんで?? どぉーしてそーーーうなるの???

いや、まじ有り得ないんですけれどぉ~~?


私は気を失いそうになった。

それと言うのも、素手のクローディアさんがイザナミさんからの攻撃を、総て叩き落としていたからである???

これを、非常識と言わないで何と言うのだろう!



「え~~っと……あの~? なんでクローディアさん平気なのかなあ?」

「えっ? ああ―――そう言えばあなたは初めてでしたか。   けど私らからしてみれば恒例行事みたいなものですよ。」


「こ……恒例行事ぃ? こんな事があ??」



現在私は、ノエルの救出作業によって彼女達から一定の距離を置いている。

それに今ノエルからの説明を受けるのに、中々理解し難い単語が彼女の口からいてなされたのである。


いや……と言うよりか、こんな殺伐としたのが“恒例行事”ですってえ~~?


彼女達の間では常識ではあっても、私(達)にしてみればちょっとした恐怖体験ホラーだ。

なにしろ互いに劣らぬ美女同士が、己の矜持をかけての血闘“的”な行為で自らの生命の削り合いをしているのだ。

「理解をしろ」―――と言う方が無理なのに……いや、無理だ。



「あっ、もしかして―――あの2人の行動原理に付いていけてません?」

「それは当然じゃない―――てか、当然でしょう? 一体なぜ2人は……」


「う~~~ん、これは私の口からもあまり言いたくない事なのですが―――……2人ともあのクソ兄に惚れてますから。」



………………にゃんですってええ~~?! て、言うよりかやっぱりなのね??

―――いや、と言うよりかこの愛情表現? て言っていいのかしら?? ちょっとおかしくなぁ~い???


私達魔族も、よくこうした「血闘行為」をすることがあるが、その発生原因はっしょうげんいんとしては「領土の取り合い」だとか「自身の名誉、誇りの為」だとかなのに……

この2人は意中の異性を巡っての争奪に、その生命を賭けてる……のですかあ~?

そんな理由で繰り広げられる事に、ちょっとした眩暈めまいを覚えながらも―――……



「ああ、あと一つ言っておいてあげますが、あの2人で“本気ガチ”じゃありませんからね。」

「ふえっ? あ……あれで?」


「ええ、ですがまあ、さすがにクローディアはを装備していますが……。」

「……えっ? クローディアさん素手じゃないの?」


「いやだって、イザナミは愛用の太刀「天之尾羽張あまのおはばり」を振るってるんですよ? あんなのを素手でさばいていたら、手がバラバラになりますよ。  それを証拠にクローディアの“拳”に何が装備ついているのか……見えます?」



ノエルにそう言われてクローディアさんの手の部分を良くてみると、確かに何か―――小さいながらも金属的な煌めきを放つえた。



「あれが彼女……クローディア本来の武器、武器の部類としては「ナックル・ガード」に分別されますが、彼女が装備しているのは彼女固有の特殊な扱いの武器なんです。  なにしろその材質は「オリハルコン」……それを4本ある指の第一関節まで嵌めはめ、拳闘士職では一番に傷つきやすい“拳”を保護する……それでいて攻撃対象に拳が当たるインパクトの瞬間には絶大なるダメージも約束されています。   だから、彼女が私達の中では一番の火力持ちなんですよ。」



…………どへええ~~? ナニソレ! この世界で希少な精製金属とされている「オリハルコン」をぉ? あの小さな武器に使用しているですってえぇえ~~??

デ……デ・カルチャーだわ……今私は軽……軽くはない文化の相違に、こんらんしちゃってるぅう~~!!

だってそうでしょう? そのオリハルコンの精製方法なんて、一部の錬金術師しか知らないし、世に出たって相当高額なのよ??

それこそ……『小国の国家予算に匹敵するとまで言われている』―――って、エレンから聞かされた事があるし……

そんな高価な武器で削り合いをしてるのおぉ~~?



「そんな彼女の装備武器こそ『カイザー・ナックル』! この武器で数多の敵を葬り去り、限りなく破壊し尽してきたからこそ、クローディアは『破界王ジャグワー・ノート』の二ツ名で呼ばれ、畏れられもしたんです。」



『カイザー・ナックル』ぅ? ……って、この世界創始以来から伝説として伝わっている『伝説の武器』の一つじゃないの!!

そ―――そんなのが、回復職の僧侶であるいち少女の基本装備だなんて!! デ……デ・カルチャーだわ―――……


しかし、あれから半刻経っても決着する陰すら見えず、益々混沌と化してきたのだが―――……



「おーーーい、もうそろそろその辺で止めとけよ。」

「団長様っ―――お言葉ではありますが……。」

「ええ……例え愛しいいとおしい夫であるあなたからの言葉でありましても、この夜叉女めには判らせる必要があるのです!」


「何ィ? この売女ビィィッチめが―――」


「お前の方こそっ―――!」



う~~~ん、どうしよう……全くこいつらは人の言う事など聞く気なんてないらしい。

それでなくても今オレ達が身を置いているのは「間借り」なのであり、これ以上おまいらの血闘に巻き込んで破壊が進むようなら、追い出されかねんぞ……。

とは言え、程度のガス抜きは必要だから、今まで看過してきたのだが、そろそろこの頃合だろうと“潜伏ハイディング”を解いて出てきたものの―――……



「……止めねーなら、お前ら2人を“切”ろうっかなあ~~」


「「!!」」



今の言葉はもちろん“騙りブラフ”だ―――今まで『悪党』に多大な貢献をしてきている2人を、“切る”なんてさらさら考えていない。

ただ、オレの口からこう言った方が効果的なのは、もう既に証明済みなのである。


        * * * * * * * * * *

アベルは私(達)を見捨ててなんかいなかった―――! も~~う、それにしてもなんて憎らしい演出なのかしら!?

絶体絶命的な状況の中何処いずこからより姿を現わせて、あの2人の行動を完全に止めちゃっているんだもの~~!

これで惚れないっていうのは女が廃るすたるわっ―――!



「まっ……まさかあなた―――わたくしと離縁をッッ??」

「うーん……これ以上オレからの言う事を聞けない―――って言うのなら、それはそれで“アリ”なのかもと、割と本気で考えている―――」


「ああっ……あ、あのね? こ、これは余興ですのよ―――そう、余興!! ……ですよね? イザナミさん。」



ほ・ほ・ほぅ~~―――飽くまでこいつはこいつでそう“余興”だと言い張るか……ならば、こちらはどうだあ?



「……え? ええ―――……」


「イザナミ……姉さまとオレとは長い付き合いだ。  だからオレが何を求めているのか、言わなくても判ってもらえると思っている。」

「(!)―――でっ、ですが……」



さきに言っておこう―――今から言う言葉は、オレ自身が「そうしたい」から言っているんじゃない。

ただもう……(自称)嫁クローディアからの「付き纏い行為ストーキング」にはウンザリしてるんだッ―――!

今回はまあ特殊なケースで、互いが離れた処にいたようだが、(オレにはないノエルのコンソールを利用しての)フレンド確認で(自称)嫁クローディアの事が確認された時、またあの地獄の日々が来るかと思うと、オレの精神が“ゴリゴリ”削られて逝くのが感覚として伝わって来るのだああ~~!


だからここは―――



「言っておくが、正直オレは“対決脳筋イザナギ置いておくつもりはない―――あいつは確かに戦力としては使い処はあるが、それ以外は“からっきし”だからな。  だから、オレの言う事が聞けない以上、2人ともオレの手元に置いておくつもりはないのだよ、イザナミくん。」


「(うっ……くうっ……)し、少々納得できない部分もありますけれど―――」

「あ、あ゛ぁ~ん? “少々”? “納得できない”の??」


「よ―――喜んでクローディアさんの参入、受け入れさせて頂きまぁ~すっ☆」



な……ッ―――何て事かしら! 私は今、「勇者」を……「英雄」の所業をこの目にしているのだわ!?

あの荒びすさび狂える野性の魔王2体を、その腕力で従えるのではなくきちんとした交渉で調伏ちょうぶくしてしまえるだなんて!!

あああ~~~……これ以上私をあなたの虜にしないで!

{*魔王は更に混乱の度合いが進み、自己陶酔の領域に足を踏み込んでしまったようだ}


         * * * * * * * * * *

まあ~ったく、何を恰好つけているんだか―――あのアフォ兄は。

あ、どーも妹のノエルです。

しかしまあ、実に「いいタイミング」だったのでしょうね。

もう半分以上も私達の一党の仲間入りをしていたようなものなのに、副団長であるイザナミが頑なかたくなに拒み続けるものだから、今まで「宙ぶらりん」な状態だったのですよねえ~クローディアって。

しかも彼女の経歴は、長くプレイをしていた連中にしてみれば“垂涎すいぜん”だったようでしてね、彼女曰く「引手数多ひくてあまた」だったらしいです。

それにの「僧侶」としてのスキルや性能も、熟練者ベテラン・プレイヤーと比べても遜色ないものだし、元々回復職がいなかった私達『悪党』にとっても、彼女の役割は非常に重かったんですよねえ……。

なので、今のアベルの言葉は、アベルの赤心を現わせているのじゃない―――と、当事者ではない私なら理解できるのですが……



はてさて―――(自称)嫁クローディアの参入によって、私達の環境がどう変わって行くのか……

兄ちゃん―――あんた……ここからが地獄ですよ~~?(笑)



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