第17話 グラウンド・ゼロ

今回のクローディアからの依頼は、相手が「賊」―――だからとの事でしたが……

やはりその裏は存在してたようです。


なぜなら、そのゴブリンの集団の中に、オーガ・チャンピオンなるが混ざっていたのですから。


それに―――私の兄の嫁だと公言はばからない、あのクローディアってひと……

あのひとが言っていた『いつも通り』……

今でこそ、あのひとの事は判りましたが、あまり知らない人達からすると、油断してしまうんですよねえ~。


そうした勘違いを起こすのも、無理もないと思うんです。

だって彼女……外見みためそのままだと、ひ弱で貧弱軟弱後衛職魔法使いやら僧侶やら……見えますからねえ~。



「では……そろそろおっぱじめるとしましょうか―――闘争を。」


           忍法―――≪陰遁;六道の一“修羅道”≫


「今日この日、私達に出会ったことを不運と思うがいい!」


             ≪墨   焔≫



私は―――目を見張るしかなかった……。

それまでの彼女達の戦い方は一通り目にしてきたつもりだったが。

それも「つもり」でしかなかった……。


彼女達にはまだ、隠していた“手”があったのだ。

しかも、こうした数での有利を一掃出来て一気に覆してしまいそうなだけの技術を……。


アベルの妹さんであるノエルは、一気呵成に前に突っ込んでいくと、その姿を突然消し、また目にした時には多くのゴブリン達の後頭部に小さな刃が突き立っていた。

一体いつの間に―――?

そうした疑問を呈するのは、もはや愚問と言うしか外はない。

あの一瞬、姿を消した……いや、認識されなくなった時にそうしたとしか言う外はないのだ。


それにイザナギさんは、あの例の刀身まで黒い剣が、次々とゴブリン達を……そしてホブ・ゴブリン達を斬り伏せていく。

しかも、ゴブリンやホブ・ゴブリン達が身を護るためにと、防御の構えをしてるにも拘らず……。

そう……まるで、斬り伏せる対象を阻むものなど、最初ハナからなかったかのように……!



「へへ―――相変わらずトバしてやがんなあ~ノエルもイザナギも。」

「えっ……それって―――?」


「ここんとこ、正直燃えるついアツくなる展開にならなかったことだしなあ~? それを、ここにきて燃えるついアツくなる展開になりそうだ。  だから、あいつらもついハシャぎたくなる……ってなもんさ。」

「ふぅん……そうなんだ。  それじゃあアベルは?」


「オレかあ? オレの出番は……まだなさそうだな―――」



……と言うか、も絶対仕組まれたもんなんだよなあ~。

まあ、だとしても―――だ、こうしたオイシイ展開でもなけりゃ、やってられないと言うところだ。


今回、オレの(“自称”)嫁であるクローディアの発案により、オーガの国からダーク・エルフの国へと繋がる街道に出没する「賊」なる者を討伐するために出向いたのだが、立ち待ち状況は暗転―――一気に様相は遭遇戦をていしてきた。


しかもゴブリン共の中には、明らかに先ほどまでいたオーガの国の、魔王に次ぐ将軍位に就いているとされる、オーガ・チャンピオンまでいる始末だ。


まあ……これも大体、予想はつくのだが―――……



「……ねえ―――クローディア。  一つ聞いていいかしら?」

「……お断りしておきます。」



えっ……? なんっ―――なの? 今のこの“ピリピリ”とした、張り詰めた雰囲気くうきは……。


私は何やら不安を覚えてしまった。

その原因を分かり易く説明しろ―――と言われても、出来るモノじゃない……。

けれど、なぜ―――イザナミさんがクローディアさんに対し、ああも殺気を籠らせて質問と言う名の言葉のやり取りキャッチ・ボールをするのか、私が聞きたいくらいだ。



「あなた……オーガの国のオーガ共を、手懐けた……みたいでしたけど。  その際、確かあなたは『いつも通り』……だと?」

「その質問にお答えする権利の、拒否権を発動させたいと思います。」


「あら、あなたにそんな権利なんてないわ。」

「いえ、あります。  だってわたくしは、お前達の一党ではないのですから。」



……はい? 言っていることの意味が判らない―――だってクローディアさんは、アベルのお嫁さんであって……だから当然、アベルの一党―――じゃないの??!


えっ? 余計判らないわ? 私をこれ以上混乱させないで??


第一クローディアさんは、戦局をて判断し、適切な回復系や補助系の魔法を……


すると彼女は―――僧侶の武器である錫杖を……地に墜とした……



「どうやらお前とは、一度徹底的に話し合った方がよろしいみたいですわね。」

「あら、奇遇ね……私もよ―――」



これはアカンぞう~~?!



「おい!ノエル!イザナギ! 一旦中止だ~!!」

「なにぃ? 折角これからノってきたところ…………ヲ?」

「えっっ……と? あの―――……」

「どうしたの? アベル……」


「どうしたもこうしたもあるかあ~! いいか―――よく見ろシェラフィーヤ……が……があいつの本性なんだ!!」

「えっっ? 何なの? 一体何が言いたいの??」

「要するにですね……今からここら一帯は、なにもかもなくなる消失するって言っているんです……。」



どうして―――なんでこうなったああ~~??

へへへ……オイオイ何かの冗談だろ? オレ達がプレイしてたゲームの世界で、キレさせたらヤヴァイ女の上位二人が、フェイス・オフで睨み合っているぜ……こいつはまるで爆心地グラウンド・ゼロに立っているみたいだ―――


そしてオレは、クローディアと再会するにあたり、次の事を言っていた。


『それに……クローディアのヤツも、姉さまも、相変わらず平常運転だしなあ~。』


そう……『相変わらず平常運転』だと。


とにかくこの2人は、何が気に入らないのかお互いに口を利かないのである。

ただ、たまにお互いに口を利いたりすると、ご覧のあり様……

しかもクローディアのヤツ、錫杖から手を離してやがるしい~~……


えっ? なんでに注目するのかだって?

そりゃ勿論…………



「だってあいつ、元々は拳闘士グラップラーだしい~?」

「えっ? グラップラー? ……って、確か素手で戦う……あの?」

「ああ……そこは間違いない―――が……まさかこのタイミングでおあずけを喰らわされるとはなあ~~」

「ですが、命あっての物種です。  まあ……あのゴブリンやオーガ共には、さすがに気の毒としか言いようがありませんが、これもまた自業自得……因果応報というヤツですよね。」



そう、元々クローディアは前職が拳闘士グラップラーなのだ。

それなのに、オレに付き纏いたくて転職し、オレ達の一党にはいなかった回復職ヒーラーを選択したのだ。

ただ……なぜかこちらもセンスの良さを発揮し、今では熟練の回復役ベテラン・ヒーラー並みの働きをしてくれている。

だから……無下にも追い払うわけにもいかなくなっているのだが―――……


しかしそんなクローディアを、なぜか頑なに拒んでいるのが“姉さま”ことイザナミなのであり、だから今以てもってなおクローディアはオレ達一党の一員ではないのだ。

一員ではないのだ……が…………こうして離れられないところを見ると、これもオレに課せられた「試練」というしか外はないのか……


フッ―――……モテる男はツラいぜ。


……と、オレがバカな妄想を働かせている内にも、どんどんと状況は確実に悪くなっているワケであり。



「ねえ……ちょっと、アベル? あのクローディアさんの構え、なんだかおかしいわよ?」



あ~~そこに気付いたか―――気づいちゃったんだ~~

そう確かにオレは先程、クローディアの前職は拳闘士グラップラーとは言ったが、それは広義での意味である。

もう少し突き詰めると、あいつのプレイヤー・スキルはそんなもんじゃ一括りに出来ない。

なにしろ、あいつのリアルこそは―――……



「お覚悟候えそうらえ―――そして、死ね。」

「誰に物を言っているのです? わたくしはアベルさんの嫁ですよ?」


「そんな戯れ言を―――よくも……口が穢れるからそのまま閉じろ。」

「そのセリフ―――そっくりそのまま、熨斗をつけて返して差し上げますわ……!!」



その瞬間―――私は凄絶を目の前まのあたりにした……。


イザナミさんが振るう剣の切っ先も視えないのに、それを苦も無く躱すクローディアさん……。

それにクローディアさんの方も攻め込まれるだけでなく、イザナミさんの隙を伺っては繰り出されている、“拳”に―――“脚”?

……って、あれ―――? 確か拳闘術には、脚は使ってはダメだった……はず?

けれど、今見させられているのをそのまま伝えると、確かにクローディアさんは“脚”を使用している……。


ただ―――私達はその彼女達の凄絶な戦いぶりをみて、魅させられていた感は否めなくはなかった。

そう、今私達は被害が及ばぬよう遠間から見ているのだが、まだゴブリンやオーガ達は……



「―――少々お待ちを……先ほどから視界を“チョロチョロ”と、ウザったくなるようなのが数匹目について、集中が出来ないのですわ……。」

「そうやって負けた時の言い訳を? ですが、その煩わしさは私も感じていたところです。」


             ≪回転式ヒジ打ち≫


           ≪一閃≫――≪厄払;剪定≫



「あの―――……今のナニ? あれ……」


「あれはのう~~わしらの世界では、『立ち技最強』とまで言われておる、「ムエタイ」なのじゃよ……。」


「へっ? 一体どうしたの? アベル……その口調なんか変よ?」


「それにのぉー、あれ出ちゃったらわしらにおこぼれなんてないのじゃよおぉ~」


「え? ノエルまで……変よ? おかしいわ?」


「おかしいと言われてもなああ~~ねーさまも殺る気まんまんじゃし……あたしらはもうふけこむしかないのじゃよ……。」


「イザナギさんまでえ~~? 何が……一体、どうなっちゃのか、教えてよお~~!!」



その日、私の叫び声は、空しくただ虚しく響くのだった―――


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