第16話 いつの間にかフラグが立っちゃっていました

“その反応”は、本来有り得ないものだった―――

それは、不意に背後うしろから声をかけられたにしても、驚く必要性はない―――

そこで私は、一つの仮説に行き着いた。


あれ? これってもしかすると……違うんじゃないかしら?

何が“違う”って……そうよ! クローディアさんは、もしかするとアベルのお嫁さんじゃない?!!

クローディアさんはアベルの事を、「旦那様」だとか「あなた」だとか言っているけれど、それは彼女から……事であってぇ??

だから! 私にもワン・チャンスあるのよ―――!


『ワン・チャンス……あるのよ』?


ハッ! わ、私ったらまた何を―――?!


なんだか私ったら、最近こんな事ばかりだ……

それもこれも、アベルへの好意に気付き始めてしまったから……

けれど―――……本当にそうなのだろうかクローディアさんが本当の嫁ではない件


あああ~~だからと言って、直接ご本人には訊けないし……

一体私はどうしたら―――……


          * * * * * * * * * *

「(しかしどうやら、無事合流は果たせたようですな。)」

「(ええ……まあ―――と言うか、さすがでしたね。  見事にオーガを手懐けていましたよ。)」

「(うむ……まあ、クローディア殿が姿をお見せした時点から、私達への不穏な視線は収まりましたからな……。)」


「(それよりも……今ちょっとおもろかしい展開になっているようですよ。)」

「(シェラフィーヤ殿の事か? あの御仁、私の事が苦手なのではないのかな……。)」

「(そんな事はありませんでしょう。 むしろその逆じゃないですか?)」

「(いや……しかし~それにしてはだなあ? 少し何というか……距離を置かれているように感じてならないのだが?)」

「(ああそれたぶん、“あの事”話しちゃったからでしょう。)」


「……はああ?! ちょっ―――それ……」


             ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。


「(気を付けてください、いきなり大声出すなど……。)」

「(い……いや、それにしてもだなあ? 私が本来の性別ではないと言う事を―――……)」

「(それ、私から話したんじゃないですよ。  くまで彼女から訊かれたから答えたまでです。)」

「(そ―――そうなのか……)」



今私が話しているのは、兄から「ネナベ」などと不名誉な呼ばれ方をしているイザナギである。

彼……と言うか彼女は、本来は禁欲ストイックないち女子高生でしかない。

しかも以前言った事の有るように結構な美人さんで、しかもこの上さある高校の女子剣道部のエースとくれば、なぜそうストイックなのかは分かってくるだろう。

しかも……男子生徒はもとより、一部の女子生徒からは「お姉さま」などと呼ばれてかなりモテているらしい……。

そんな感じだから、現実とは違うゲームの世界が程よく性に合ったようなのだ。

なにしろゲームの世界こちらでは、『リアル割れ』をしない限りは、匿名性の高い“誰かさん”なわけなのだから、他人に対して気兼ねすることなく振舞えるわけだし……。


そんな彼(彼女)―――イザナギでさえも、幼女と成ってしまっているシェラフィーヤの事は気にしているみたい……で?


―――って、あれ……

これって、もしかして、イザナギ……シェラフィーヤの事を……?



「(いやぁ~~しかし、可愛いものだなあ? あのくらいの年齢が一番可愛い~~)」

「(あのっ? ちょっと一旦待ちましょう……イザナギ? あなたまさかですけど―――……)」


「(丁度……私達姉妹にも“姪”が居てだなあ~それがまた、コロコロして、ふにふにしてて……ああ~もう可愛くてタマラン!)」

「(あっ……でしたか―――それは失礼。)」


「(? まさかノエル……そなた??)」

「(いや、ホントごめんなさい―――取り違えました……)」



勘違いでしたか―――いやはやそれにしても、何が他人の琴線に触れるか、判らないものですよねえ~。


それよりも今私は、あらぬ疑いをかけられ、”プルプル”と震えるイザナギを宥めなだめながらも、この会話の主旨を語ったのである。



「(まあ~それよりもですね、どうやらシェラフィーヤが気付き始めたようなのですよ。)」

「(気付き始めた? 何に……)」

「(私の兄ちゃんへの好意恋心。)」


「―――なにっ?! それは本当か!!?」


             ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。


「(……落ち着いてください―――本当にあなたって人は、内緒話が出来ないタイプですよねえ?)」

「(も……申し訳次第もない―――それより……彼女はこの世界では、いちNPCでしかないのだろう? そんな存在が、私達を懸想うおもうなどと……)」


「(私もね、最初はそう思ったんですよ……『そんなことはあり得ない』―――って。  ですがね、あの反応を見させられていくうちに、こうも考えたんです。   『もしかするとこの世界は、ゲームの世界じゃない。』……。)」

「(バカな? そんな事が有り得る……)」

「(はずがない―――と言い切れます? まあ尤ももっとも、私の仮説もさすがに“そう”だとは言い切れませんがね……。)」



そう―――この世界が、今私達が置かれている状況が、私たちの現実世界で割とよく人気を博している『異世界転移転生モノの小説』や『アニメ』の類だとすると、魔王シェラフィーヤや魔王エレン、魔王シュテンなどはそうした作品に出てくるいちNPCキャラクターにすぎない。

それにまた、そうした存在が現実世界の私達に傾ける懸想おもいも、結末としては悲劇しか生まない……。


けれど、ここがもし―――私が仮説するように、……と、したなら?


それに―――その仮説が本当だとしたなら……


もっと面白い事に―――♪


         * * * * * * * * * *

それにしても、意外な組み合わせだなあ―――あのイザナギとノエルが、“コソコソ”となにやら話し込んでるの……って。


先ほどから、ちょくちょく大声出したりして周りから不審がられてるバカがいる。

まあ……誰とも言いたくはないが、イザナギの奴である。


こいつは、剣の腕は確かだし、事実オレ達『悪党』の火力三本柱の一人だから、割と重宝しているわけなのだが……


今―――ノエルのヤツから強めの注意を受けてるな……。


とまあ、そう言った事で、中々お頭おつむが回らないタイプだと言う事がすぐに判ってくるモロバレなのだ


そーれに、ノエルのヤツ―――見かけ通りで悪戯好きいたずらずきだもんなあ~。

今も、イザナギと話し込む傍らかたわら悪戯好き特有の笑み浮かべてやがるしニヤついてやがるし……。


それに……クローディアのヤツも、姉さまも、相変わらず平常運転だしなあ~。


それに―――もうここでは、やれることだけのことはやったことだし、そろそろ帰………………



「旦那様? 少しよろしいでしょうか。」



一旦エルフの国へと引き上げようとするオレの意思を、オレの嫁が押し留めた―――

しかし、このタイミングでそんな行為をするなど、もう危険な香りが“プンプン”臭ってくるのだがフラグが立つ予感しかしないのだが~?



「一体……何の用かなあ~?」

「実は、オーガの国からダーク・エルフの国へと連なる街道筋に、他人様の財産や荷物などを掠奪かすめとろうとしている不届き者が横行しているとの事らしいのです。」

「あっ、それエレンも言っていたわ。」



まぢか……あのダーク・エルフにゃ今回ちょっとばかしゴリ押しして、エルフの国の留守番押し付けちまったからなあ……。

仕方ねえ、ちょいとここらで点数稼いどくか。



「……っったく、しょうがねえなあ~! おいお前ら、行くぞ―――」

「フッ……全く、素直ではない奴だな。」

「まあ、ダーク・エルフのお姉さんには、今回少しばかり無理を押し付けてしまいましたからねぇ……あのデレツンさんなりの、好意の示し方なんでしょう。」

「では、隊列フォーメーションはCで参りましょうか……。」



急遽オレ達は、半分身内と言っていい“嫁”からの提案で、このオークの国からダーク・エルフの国を結ぶ街道沿いに出没をするという“賊”の討伐を引き受けることになってしまった。


ただこれが、普通の討伐系のクエストなら、何ら問題はないのではあるが……

提案をしてきたのが、クローディア……ってところが、“何か”を予感させずにはいられない。


そしてやはり、その「裏」は存在していた。

オーガの国を出発して程ない頃合いに、最初の遭遇があったのである。

それに大方の予想通り、賊の正体とは―――



「ゴブリン―――……っ!」

「ま、定番―――つか、在り来たりだよな。」

「しかし、油断こそは大敵―――参る!」


〖信じ奉れる至高にして救世の主よ、どうかわたくしどもに祝福を―――祝福ブレス

〖信じ奉れる至高にして救世の主よ、か弱きわたくしどもをお護りください―――防御向上ディフェンス・アナライズ



これは―――! 僧侶の使う能力向上系の魔法……!

彼女は……対外においての交渉もさながらにしてこなせられるのに、戦闘までも優秀だなんて!!


まるで非の打ち所がない……欠点をいくら探そうとしても見つからない―――見つけられるはずもない……

それに引き換え、なんと私の無力な事か。

私は魔王だが、決して強い魔王ではない、今でさえもイザナミさんに護衛をしてもらわなければいけない立場なのだ―――


そうした卑屈な思いが頭を擡げもたげながらも、戦局が徐々に移り変わろうとしていた。


そう……この賊は、単なる賊ではなかったのだ。



「ふ~ん……これは少しまずいですね―――」

「どうかなさいましたか、ノエルさん。」


「いえねえ……この賊さんたちの中に、明らかにゴブリンじゃないのが混ざってるんですよ。」

「ふむ……ふむ。  「ホブ・ゴブリン」や「ゴブリン・チャンピオン」などは判るが……「オーガ・チャンピオン」がいるな。」


「ねえ~え? クローディア……あなた、オーガをどう言った風に手懐けたんです?」

「別に……? いつもと同じ―――いつも通りですが……何か?」

「ふぅぅ~~ん、なんだ―――やっぱりか……。」



私はその……彼女たちのやり取りに、少し違和を感じていた。

なぜかやたらと『いつも通り』を連呼しているのである。


それにしても不思議だ……彼女たちが言う『いつも通り』とはどんな感じなのだろう?


しかしそうした疑問も疑念も、そして疑惑も……次の瞬間意味をなさなくなってしまった。



「じゃあ……そろそろおっぱじめましょうか―――闘争を。」


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