第15話 “嫁”現れり
昨日、ノエルからの説明を受けた私は、翌朝目覚めると見事なまでに寝不足となっていた。
いや―――だって、女性が男性のフリをする……って、ありえないでしょう?
それにイザナギさんて、男性なのに私から見ても美形なのに……
尚更有り得ないでしょう―――??!
あれから寝ようとしても、その事ばかりが頭の中を“ぐるぐる”と巡り、とても寝付けられなかったのだ。
それとなのだが―――今回の一行の中には、この私よりも酷い顔をしていた人物が一人いた。
その人物とは説明するまでもなく―――……
「ふわ…ぁああ~~~あ!」
「おやおや、寝不足なようですが、何か心配事でもあったのですかあ? アベル。」
「うるっせえ……
「実の妹に当たりなさるとは、機嫌が悪いようですなあ~? アベルさんや。」(プププププ)
「イザナギ、手前ぇぇ~~……」
「ふわわ……あふあふ~……」
「シェラフィーヤ様も寝付けられなかったようね。 大丈夫?」
イザナミさんは―――一部の発言が気にはなるものの、基本的には優しくて頼り甲斐のある人だと思っている。
なにしろ個性の強いアベルを筆頭に、
それにイザナギさんも、ああ言った偏見でもなければ、もう少しお近づきをしてもいいと思ったのだが……前日ノエルより 『変に気遣ったりするのはナシですよ。』 とは言い含めさせられたものの、人の印象なんてそうそう変われるものではないし……
―――と、つまり……仲間の
そこで私は驚かされた―――
オーガと言えば魔族の中でもかなり気性が荒く、乱暴でしかないイメージしか抱いてこなかったのに……私達が訪れた時にはなぜか穏やかだったのである。
「これが……オーガ……なの?」
「そうです……私も数日前ここを偵察に訪れましたが、なんというか肩透かしを食らった感じでしたよ。」
「そのようね―――私達がプレイしていたゲーム内では、やはりオーガ等は野蛮で粗暴……そうした心象でしかなかったもの。」
「……だとすると―――要因は一つしか思い浮かばんな……。」
「えっ……要因―――?」
「この国には“彼女”もいる―――と言うのは、先日ノエルの情報でも判っていた事だ……。」
えっ―――……それってどういう事……?
まさかその“彼女”―――アベルのお嫁さんが……
するとその時、私が抱いていたイメージとは全く違った“声”が、
「あら、珍しいお客様だと思いましたら、あなた達でしたか。」
おおぅ―――聞き覚えのある声……確かにあいつだ……
くっそお~―――
オレ達の背後で、その鈴か転がる様な可愛いらしい声で出迎えた者こそ。
その“自称”をオレの「嫁」だと
「よ、よう……クローディア―――随分久しぶりだなあ?」
「はい―――御沙汰をしております。 旦那様……。」
「しかしこれでようやく回復役確保―――ですか。 クローディアさんがいるといないとでは、無茶の仕様が変わってきますからねぇ。」
「うむ、全くだ……クローディア殿の助力なくしては、我ら前線は
「あらあら、仕方のない人達ですね。 敵をよく見極めるよう―――と、イザナミさんが忠告なさってくれたでしょう? それに、無暗にわたくしの旦那様に迷惑をかけることは、このわたくしが許しておきませんよ?」
今となっちゃ、その“愛”が重た過ぎて迷惑でしかないのだが……
まあこいつはこいつで、戦力になるしなあ~~……
* * * * * * * * * *
……なんだか―――おかしいわ?
だって、とても淑やかで人当たりもいい人じゃない―――
なのになんでアベルは、この
けれどそれは、私が彼女とまだ会ったばかりで、彼女の事を知らなさ過ぎたからなのである。
それに―――この国に入ってから感じていた異和……
そう、妙にオーガたちが大人しいのである……
それにふと気が付いてみると、どことなく彼女と視線を合わせないように……している?
一体何故なんだろう―――……
そうこうしている内に、私達は今回の目的であるオーガの国の魔王……「シュテン」に会うために彼の城を訪れた。
「お邪魔をいたします―――オーガの魔王シュテン。」
「おおこれはクローディア殿。 そなたの回復の奇蹟、誠に感謝いたみ入る。」
「いえ、わたくしなどはほんのまだ駆け出し……あの程度で感謝をされるいわれなど―――」
「うむ……それより、そこに控えておるのは―――」
「はい……このわたくしめを出迎えにきてくれた頼もしき仲間達です。 そして彼らが来たと言う事は、名残惜しきながらも別れの
うっ……
それに、そうよねぇ―――彼女、アベルのお嫁さんなのだものねぇぇ……
一体どうすれば私はアベルの―――……
アベルの…………
アベルの?
あらヤダ私―――ったら、何不純な事を考えていたのかしらぁ??
いけないイケナイ、ここは頭を切り替えないと……
けれど私は、よくよく思い返してみれば、アベルの事ばかりを考えるようになってしまっていた。
それは自分でも気付かないくらいまでに―――
けれど今は、エルフの国の魔王としてオーガの国の魔王の前に立っているのだ。
ここは私がしっかりとしないと、こんな私の為に協力をしてくれている皆の為にもならない……そう思い、意を決して交渉に入った。
「初めまして、オーガの国の魔王シュテン。 私はエルフの国の魔王シェラフィーヤと申します。」
「ふむ……そなたが。 聞くところによると家臣たちの叛乱を許し、その
「それは本当の事です―――私も革新を急ぐあまり、
「我らオーガと、エルフの、のぅ……。」
「どうか―――ご一考を……。」
普通なら、この交渉はあり得ない―――なぜならエルフの国とオーガの国とは明らかに“格”と言うのが違うから……。
格下のエルフの国の方から、格上のオーガの国に国交を結びたいなんて、普通では有り得ない……こんなことをするのならば、もう少し時間をかけてやらなければならないし、なにより“貢物”などの対価を払わなければならない……
なので、この交渉は失敗に終わるものだろう―――と、そう……思っていた……のに。
「シュテン様……どうかお一つ、このわたくしめからもお願いを申し上げます。」
「クローディア殿がそこまで言い置かれるのなら……。」
意外な事に、アベルのお嫁さんであるクローディアさんからのお口添えによって、この交渉は成功したのである。
なんてことなの!!? 益々
一応今の私は、魔王に返り咲いた……とは言っても、まだまだ不完全だし。
オーガの魔王であるシュテンや、オーガの国の人民である皆さんとはそんなに親しくない……って言うのに。
それをクローディアさんは、魔王シュテンをも手懐けてる感じだしいぃ~~!?
嗚呼……完敗だわ―――……やはりアベルのお嫁さんには、
* * * * * * * * * *
少し前からシェラフィーヤの動静に注目しているが……
なんだかあいつ―――心折れてないか?
けれどおかしなものだ、あいつの理念ともいうべき『平和で争いごとの無い世界』にするために、オレ達が
なぜそこで「何かに敗けたか」のようなポーズを取る……?
……まさかとは思いたいが、
だとしたら
「それは違う!!」の、だ・と!!
そうなのだ、クローディアは一見して「虫も殺せない」様な
その
なにしろあ・い・つは……
「ねぇ……あなた? 今、不届きな事を考えたりしてはいませんよね?」
「は、はひぃ! そ、それはもちろん!!」
突如アベルが、クローディアさんに背後から声をかけられ、
その様子を見て私は思った―――不覚にも、そう思ってしまった……
あれ? これってもしかすると………………
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