第13話 世界征服の為の第一歩

しまったあああ―――!

何やってんのよ、私ぃぃ―――!

折角得られた千載一遇のチャンスを、フィにしてしまうだなんてええ―――!


何という事でしょう、私はこの兄妹の面白掛け合いに気を捉われるあまりに、本来なら「月の魔力」の作用でやっておかなければならなかったことを、すっぽかしちゃってしまったのである。


今や月は地平線の彼方へと沈み、「月の魔力」の作用も尽き、私は幼女へと戻ってしまい、自分の愚かさ加減をただひたすら噛み締めていたのです。



「こんなはずじゃなかったのにぃぃ……うええええ~ん。」

「(……)なーかした、なーかした。」

「よし、お前今からお仕置きじゃああ!」



疲れて眠っていたオレに、一体何を仕掛けようとしていたのか判らずじまいだったが、突如幼女に戻ってしまい泣き喚く魔王に、オレに対して煽りまくり囃し立てる性悪な妹。

一体何でこんな事になってしまったのだか皆目見当すらつかないのだが、この日の早朝にオレ達の一党、『悪党』を仕切ってくれるイザナミから、ある提案が出されたのである。


―――と、その前に。



「何やら今朝方騒がしかったが、何ぞかあったのか。」

「実はこのDT野郎が、幼女に対してセク・ハラ行為を……。」


「それは違うだろうがあ!? お前もあの時、最初から一部始終を見てたって言ってたじゃねえか! それにオレはド●テイじゃねええ~~!!」

「な、に? お前●゛ウテイじゃないとすれば、その操はどこぞの女に捧げたというのだ!」


「う、うるせえ! 大体“嘘男”のお前に、何でそこまで喋らんといかんのじゃあ!」

「う……“嘘”……だ、と?」

「『嘘』……って、どう言う事なの?」


「だってそうだろうがよ、お前は今でこそ男性キャラで“クリエイション”してるから、“男”そういう感じに見られがちだけど、リアルじゃ女じゃねえか!!」

「き―――聞き捨てならんぞ! 貴ッ様ぁあ~! ここには私達以外誰もいないと思って、「リアル割れバラシ」をするんじゃないわぁ!」


「あの~~ちょっと待って? 「クリエイション」て何? 「リアルじゃ女」って何? 「リアル割れバラシ」って何のことなの??」

「えっ? ああ……そう言うのは元々「ゲーム用語」でな、オレ達がプレイしてるゲー……ってお前、幼女なってるクセに割と流暢に喋れんな?」


「(……)あっ、ホントだ―――」

「はい? 自分でも気付かなかったんですか?」


「うん……だって、「幼女化の呪い」なんて初めて受けたんだもの……。」

「(……)それより、もういいかしら?」



オレ達の一党では数少ない男性プレイヤーであるイザナギが、今朝の出来事に関しての質問をしたところ、ノエルのヤツが余計な事を口走って一時期場に変な空気が流れた。

後々思い返すとイザナギのヤツには悪い事をしたと思っている。

あいつにはなんだかんだと言っても、結局のところ頼りにしてるヤツだからな。


それはそうと、今のやり取りを見ても平生へいぜいとしていた、皆から“姉さま”と呼ばれているイザナミは―――



くだんの事も我らが一党の力を結集し、依頼主であるシェラフィーヤ様の願い、須らくすべからく成就したことはまこと慶ばしき事よろこばしきこと。  またこれを以てもって、魔王シェラフィーヤ様と団長様との間で交わされた契約は成されたものとみなしてよろしいでしょう。」



その彼女の、淡々とした物言いは、私にとっては“絶望”にしか聞こえなかった―――

昨夜の事はを回避するために為そうとしたにほかならない。

ほかならない……はずだったのだが―――


私はその本来の願いを唱える事も出来ずに、朝を迎えてしまったのだ―――……



「……で、姉さまは結局のところ何が言いたいんだ。」

「依頼の方は無事完遂出来ましたが―――報酬の方は?」


「報酬……ですか―――」

「そう、報酬です。  団長様との間で交わされた“契約”―――あれが“依頼”だとするのなら、適当にして適切な成功報酬は支払われるべきです。」

「ふむ……それは当然だな―――」


「ですが……団長様は得るべき報酬を、依頼主であるシェラフィーヤ様に返上なさいました。」



あっ……言われてみればそうだった―――

私はアベルに「“かつての私魔王の座位”を取り戻して欲しい」とお願いし、その代償見返りとして、「私の総てなにもかもをあげる」と言ったのだ。

だが、アベルは……本来自分のモノとなるべきだったエルフの国を、私に返して元に戻してくれた……。


そして―――昨晩には……



「だーから、それがどうしたってんだ? オレには元々そんな気はサラサラなかったんだぜ?」

「―――なければ、同等の価値の物を請求する権利はあろうかと。」

「『同等の価値』……。」


「(……フフン)何か思いついてる事でもあんのか?」

「ええ―――幸い、昨夜は月が綺麗でしたので……。」


興味を惹きそうな事面白そうなら聞いてやる―――」


「この世界の征服―――」



この時、私は心底彼女の事が恐ろしく見えた。

初見の時はあんなにも嫋やかたおやかそうに見え、護って貰う印象でしか感じなかった彼女が―――

この『悪党』の中では一番イカれているのだと……。



「『この世界の征服』―――って、簡単そうに言うけれど……」

「あら、あなた様は興味ございませんか? 私は妙案だと思ったのですが。」


「妙案も何も……あなた達は何も知らないからそんな事が言えるのよ! 私はこの国……エルフの国の魔王だけど、他にも沢山の国があって、その分だけの魔王がいるのよ? だから……それを全部―――」


「“17”……でしたっけ、魔王がいる国の数―――」

「(え?)どうしてそんな事を―――」


「あまり見損なわないで貰いたいですね。  私の事はもうご存知のはずでしょう? 魔王シェラフィーヤ……。  私の本分は忍―――忍とは“活きた”情報を取り扱えるのです。  それに、この世界にそれだけの国と、同じ数だけの魔王がいる―――だなんて、もう古い古い。」

「それに世界征服と言うのなら、そなたが掲げている理念―――それを広く世に浸透させる良い機会……そうは思いませんかな。」



その時―――私はようやくその“真意”に気付いた……

そして同時に後悔した―――


彼女は……イザナミさんは、単なる言葉遊びで「世界征服」を申し立てたわけじゃなかったのだ。

私が昨夜、アベルに対し言い損ねた事を―――また別のかたちで結び直してくれようとしてたのだ……。



「ふむ……中々に興味深そうな面白そうな話しじゃないか―――姉さま。」

「お褒めに預かり―――光栄ですわ、団長様。」


「あ……あの―――それじゃ私は?」

「ん~? お前も一緒に来なけりゃ話にならんじゃないか?」


「えっ……でも、私がアベル達と一緒に国から出ちゃったら―――」

「留守番なんかエレンに任せりゃいいじゃないか。 それにあいつはオレに負けたんだ、だからオレの思い通りにこき使ってやるぜ。」(フフフフフフ)



やはりどう行き着いたところで、私の兄は善人にはなり切れないようです。

今もまた、わざと憎まれ口を叩いて、自分を悪人の様に仕立てていますが。

私にはちゃんと判っていますよ―――

そして兄ちゃんのが判った連中のみが、この一党『悪党』を形成してるんです。

だからこそ……私は兄ちゃんから離れないんです―――

それは、血の繋がった兄妹だから―――なのかもしれませんが……ね。



「それはそれとして―――なのだが。  世界征服の為の第一歩はどこにするのだ?」

「ああそれはもう決まっています。」

「ほう―――どこだ。」


「それはずばり、「オーガの国」です。」


「は? え?? オ……オーガ?? ……って、?」

「はいそうですが、何かまずい事でもありました? シェラフィーヤ様。」


「いや大有りでしょう?? 大体オーガって言えば、17もある国の常に上位にある“強兵”の国よ? それこそ、私の国……エルフの国や、エレンの国であるダーク・エルフの国が連合したって、敵いっこかないっこないくらい強いところなのよ?」


「ふむ。  それは中々に面白そうだな―――よし、私一人に任せておけ!」

「あ~~あそこで一人でに頭ン中湧いちゃってる頭の中にお花畑が咲いているのは放っといて、だな―――ノエル、お前がその国を推奨する理由は?」


「えっ? “あの人”いるからですが―――」


…………。

……………………。

………………………………。


「ぬぅあにぃい~~! そりゃえっらいこっちゃ!! いかん―――いかんぞぉ?! そこだけはけっしていかんぞおお~~!!」


「ア……アベル、どうしちゃったの? な、なんだか私が不安になってくるくらいに取り乱しているわよ?」


「……いや、というより―――まぢなのか?」


「いや、まぢもまぢもんですって。  私がちょちょい―――と斥候でかけてきて、ちゃんとこの眼で確認取りましたから。」


「アカン、アカン……アカンぞぉお~~! 祟り……た~た~り~じやああ~~!!」


「アベル―――お願い、お願いよお! しっかりしてぇ! しっかりしてってばあ!」


「……で、今のこの状況あの二人の事をあの者に見せると言うのか?」

「まあ~~後々でバレるよりかは、幾分か軽傷ですみましょう?」

「う~ん、一抹の不安は残るけれど、『段蔵』ちゃんの言う様にした方がいいのかもね?」

「姉さま……半分面白がってます?」



どうやら……世界征服の第一歩は、私ですら腰が引けるくらいの“強兵”……強い軍団を抱える「オーガの国」らしいのだが、ある情報を伝えると、私が今一番の信服を寄せているアベルでさえも半狂乱となってしまえる存在がいるのだと言う。


しかし……オーガの国には、文字通りオーガしかいないはずなのだけれど……。


けれど私は一つ失念していたのだ、後々になって冷静に思い返してみれば、割とこれとよく似たような事例ことが極々最近にあったのである。


そう―――あれは確か…………


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