第11話 「悪党」―――まかり通る

事態は急転直下―――風雲急を告げる様相をていしていた。

私達がエレンの国の宿屋にて話し合った時より数時間後、私の国はダーク・エルフの魔王エレンの訪問を受けていた。

その内容も至極簡単で、以前要請をしていた件―――つまり、逃亡をした私を捕縛し、引き渡すためだと……そういう事だった。


だからその場には当然、逃亡した果てに囚われてしまったあわれなる幼女魔王と。

私の国の家臣の要請に応じ、私を囚えたダーク・エルフの魔王とその手勢……―――



「これはエレン様、ご足労頂き感謝いたしておる次第でございます。」

「これで一応の義理は果たせたな。」


「はい、それではこの度の謝礼を―――」

「それよりもだ……貴君達はこれからどうするのだ? 貴君達が奉じていた魔王シェラフィーヤは、もう貴君達の魔王として頂くことは出来んぞ。」


「その件につきましては、今詰めの協議に入っている次第でございます。」



この私の身柄を引き渡す儀礼は着々と進みつつある。

そして魔王としての座位くらいを剥奪された私への処遇と、もうエルフの国の魔王ではなくなった私の“後釜”についての話し合いが、着々と進められているようだった……。



         ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「“私”と―――“私の手勢”が欲しいだと? お前は一体何を言っているのだ!?」

「文句は言わせんぞ―――敗残者。

お前の事はお前自身が言っていたではないか。

「負けた」……だと。

そして勝ちを拾えば総てのモノが手に入ると! だから請求したのよ、「お前」と「お前の手勢」をな。」



アベルは魔族ではない―――なのに、何だろう……この『魔王』らしい立ち居振る舞い、余程私よりも『魔王』している……。


その事に息を呑むばかりだったのだが―――……



「全くですが、堂に入ってどうにいっていますよね。  『魔王プレイ』。」

「まおう……ぷれい?」


「そもそもの話しだが、この世界での『魔王』なる役割は、17もの魔の氏族に割り当てられたものでしかない。  だが、我ら一党「悪党」なる集団の長は、そうした世界の設定ではない……我らプレイヤーの間から為さしめられた『魔王』なのだ。」

「ただ、その諸動作が“ぽいロール・プレイ”ものでしてね。  ネタとしては有り得ていたんですが、こうした世界観だと“しっくり”と来るのは自明の理―――てワケです。」


「安心しなさいな、『イラストリアス』。  何も我らが団長様は、あなた様を悪いようには致しませんよ。」

「……なぜ、わたしの、ふたつな……を?」

「公式のHPには出ていた情報ですから―――」


こうしきの……ほぉむぺぇじ?? 何それ―――理解不能なんですけど??

しかし私がそんなことを知らないでいる一方でも、彼らは私の事を恐ろしいまでに知り得ていた……

これはこれで不可解な事象ことだったのだが、まだ衝撃の告白は続いていく―――



「お前らなあ……外野でわちゃわちゃと言ってるんじゃねえ! それよりもだ……話を元に戻すぞ。  お前達も感じているように、オレ達は魔族じゃない―――だが、その強さは折り紙付きだ……。  そこのところを薄々感づいていたから、オレ達に協力を求めた―――違うか。」

「ああ……間違いない。  あの“赫備え”の重厚な鎧を着こみ、その剣の飾りに鈴をつけていたとしても鳴りもしない―――そこを見込んでの話しだったのだが……。」


「それは……わたしのほうでも。  なんだかあべるから、わたしにちかいふんいきをかんじたから……。」

「ほう―――ではお前達2人は、このオレを魔王として認知したわけだな。」



今となっては、そうするしかない―――そう言うしか……ない……。

“彼”こそは魔王なのだ―――何処いずこからより來たりし、未知なる魔王ものなのだ……。


そしてそれは始まった―――……



「では問おう……魔王シェラフィーヤよ、お前は一体このオレに何を望む……。」


「わたしは…………かつての“わたし”をとりもどしたい―――」


「よかろう……ならば取引だ―――これは魂ある者の純然たる“契約”だ! ならば寄越せ……総てをオレに譲渡せよ!!」


「わかった……あべるがそうしたいなら、わたしのぜんぶをあげる―――だから、わたしの“かつて”をとりもどして!!」



そして“契約”は成った―――

“魔王”は“魔王”にそ私は彼に魂を売の総てを譲渡したのだ。り渡したのだ。

そう……これこそは「悪魔の契約」―――

この世界にも一応、「デーモンの魔王」は存在している。

“真実”か“噂”か定かではないが、時としてデーモン族は契約者との契約の際、その願いを叶える代わりに、莫大で法外な報酬モノを要求する事があると聞いたことがある。

だからこの契約はその類―――

けれど、私は後悔はしていない……



          ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それよりも……ですな、エレン様。  今回あなた様に付き従っているのは、あなた様の手勢以外にも……」

「ああ―――失礼、実はこちらに控えるのは……」


「よいよい―――好きに計らえ。  それにしても……ふむ、ここがこれからのオレの根拠ねじろとなる場所か。  よいよい―――実に好いぞ?」

「なっ―――何者だ! お前は……この無礼者が!」


「う~ん? 知らんのか、オレを事を―――だが、まあよい……今のオレはすこぶる機嫌が好い! 特別に宣下してくれよう。  オレこそは魔王―――『人中の魔王』! この世界ではない魔王ではあるが、『イラストリアス』の召喚の儀に応じ、契約を結びし者よ!」

「ん・な―――『イラストリアス』……シェラフィーヤ様と? そんな事が……」


「それは―――ほんとうです。  このわたしの、いちかばちかのかけ、でしたが……ここにこうして、わたしとかのまおうとがいることこそが、そのしょうめいになるはず。」

「ぬうっ……っっくく―――何という恥知らずなッ! あなた様は魔族の掟を犯したどころか、この世界?? 以外の者の協力を求めるなぞと!」


「おい、貴様―――誰に向かってその様な口を利いている。  このオレの契約の主に害を為そうものなら、捻り潰してくれるぞ!」

「くうっ……お、おのれ―――城内の警備兵は何をしておる! 賊だ……賊……早くこの不届き者をひっ捕らえよ!」


「なぁにをやっている―――今更そんな者共を呼びつけても、来るわけがなかろう……。」

「なにっ―――?!」


「遅すぎたのよ……なにもかも―――このオレが率いる『悪党』の一味が、もうすでに玉座の間以外の戦力を無力化しておるわ!!」



私はその事は既に知っている―――彼の一党……『悪党』の構成員である、『加藤段蔵』が既に動いていたことを。

そう……もうすでに遅すぎたのだ―――……

今のこの時点での城内にいる警備兵は、彼女の≪影縫≫によって、一時的に行動不能にされている。


そして―――満を持し……



「うごっ―――?! な……なんだ? ……っ!」



今―――あの時感じた”何か”より一層苛烈なモノが、突如玉座の間を覆おうとしていた。


そして……彼の隣には―――眼帯を外した『静御前』がいた……


後で聞いた話になるのだが、この時『静御前』が用いたモノこそ、あの時用いていた≪神域≫よりも上位の性能を持つとされる≪神眼≫……



「フ・フ・フ……この程度で動くことはままなりませんか? で、あるとするなら、我らが一党の団長様と対等の立場とは言えませんね。」



あんな綺麗な顔をしていて、なんとエゲつない権能チカラを持っているのだろう。

まるで見えない力で上から押さえつけられているような感覚に、私の家臣達が身動ぎみじろぎすらできないでいる。


そうしている間にもまた―――……



「これが玉座とやらか……まるでオレが腰を据えるためにある様なものだなあ?  はっはっはっは―――……。

聞けい! 凡愚共よ! このエルフの国は今より我が物とする。

オレの物はオレの物だ―――そしてオレの物は、総て契約の主である『イラストリアス』の物だ!!」



魔王に相応しき者が、その玉座たるモノに腰を据える。

それは至極当然の事と言えた。

だがそれ以前に、私は彼の宣下に言葉を失った……

そうだ……そうなのだ、彼は元々そのつもりだったのだ。


あんなに憎まれ口を叩きながらも―――あんなつれなくも素っ気無い素振りをしつつも、私の事を見捨てないでくれていた。


そして今では、まだ幼女化の呪いは解けないながらも、私は“かつての私魔王の座位”を取り戻していた。


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