第10話 オレが『魔王』と呼ばれた経緯
「エレンがシェラフィーヤを? しかしあの場では……」
「ああ確かに、あのダーク・エルフはエルフであるシェラフィーヤを捕らえようとしていた。」
あの場面だけを見て、そう捉えていたなら、そう見えても仕方がない。
それによくこうした「ファンタジー物」の設定の
だから、その設定有りきで片付けてしまえば、今回の事は中々にして腑に落ちない事ばかりだ。
だが―――あいつは信じてた……ダーク・エルフのエレンを、自分の親友だと……。
そしてエレンは、“魔族”の掟に従い、幼女化したシェラフィーヤを虜にしようとした。
ただ……あのダーク・エルフには、それなりの考えもあって敢えてそうしているようにも思えた……。
「それ―――……で?」
「私とイザナギは、いまだにこの現状が把握しきれてはおらず、路頭に迷いそうになっている所を
「なるほどなぁ……イザナギの鎧を見て『出来るヤツ』と見込まれたか。」
「はい……そして保護をするその見返りに、協力をしてほしい―――と。」
「……あいつの国を取り戻すための―――か。」
「魔王の
「泣ける話しじゃねえか―――じゃ、あのダーク・エルフは、シェラフィーヤの理念には賛同の線でいいんだな。」
「見ていいと思いますが……これって中々ハイリスク・ローリターンですよ。 勿論魔族でしたら……ね。」
「だからこそ彼女の方も一芝居打つ必要があった……。 もしかすると親友共々「死なば
「だが、あいつはそうじゃなかった―――魔族じゃねえオレを見て“ピン”と来たんだろうさ。 あいつと最初に出会ったあの町で服の
「私にしてみれば、ついに『
「ノエル! 手前この野郎! 今の敢えて間違ったろうが! 「食指」だ「食指」! 言い直せやゴルア゛!」
「『
「やっかあしいわ! この『ネナベ』が!!」
「なにィ?! 今の聞き捨てならん! 取り下げろ!!」
「いい加減になさいな? 2人とも。」
……とまあこんな感じでお互いの情報のすり合わせは進んだ。
それとイザナミとイザナギが合流したことで、2人が関係性を持ったダーク・エルフの国の諸事情とやらも、だいぶ見えてきた。
あのダーク・エルフの魔王であるエレンにしてみれば、
しかし、ここにオレ達が一枚噛んできたところで目算が大きく狂ってきてしまった……というのがオレの見立てなのだが―――
「しかし……あのエレンてのは、もしオレ達がこの世界へと来なかったら、あいつを匿った上でどうするつもりだったんだろう……。」
「……単純に考えればですが、彼女を奉じてエルフの国へと攻め込み、彼女を裏切った者達を―――」
「“粛清”……か、結局血生臭い話し抜きでは収まらんようだな。」
「ですがその際、ダーク・エルフの国の被害も軽微なモノで収まるとは到底思えないですしね。 そうなると概ね、この世界に存在するという17もの魔王のうち、15もの動静の確認をしなくては。」
「ですね。 そして中でも、なるべくシェラフィーヤの理念に沿いそうな方を味方につける必要がある。」
「で、当てはあるのか?」
「色々選別はしていますよ。 「エンジェル」とか「ドライアド」辺りは、無条件でなってくれそうな見込みはありますけどね。」
「それでも13:4か……無理ゲーすぎんだろ、これ。」
「……であれば、強硬策しかございませんね。」
「あと未確認ですが、どうやら“あの人”もいるみたいですよ。」
「なに―――?! ……それは本当か。」
「ああ、その情報もお前ら2人と合流する前から持っている。 そういえばお前ら、コンソールはでるか?」
「ああ―――勿論だとも。」
「支障なく―――それが?」
「実は兄ちゃんのが、
「はあっ?! フッ……どうやら貴様も年貢の納め時がきたようだな?」
「なるほど……それも彼女を捨て置かずにいた理由の一つだと?」
「そんなんじゃねえよ……姉さま。 ただ、あいつを見てるとなあ、必死に体制に
オレは以前にも言った事があるように、得意としていたオンライン・ゲームの中では、得意顔をしていられた。
そしてその中でオレは、『人中の魔王』と言う二ツ名で知られるほどの、割と悪い方で有名なプレイヤーでもあった。
そしてこの『人中の魔王』という名の由来も、以前オレの妹であるノエルが説明してたように、「英雄になり損ね、魔の道に堕ちてしまった王」―――だからこその『魔王』とも呼ばれていた。
そう……『魔王』―――このゲームでは、それぞれの種族に割り当てられた『魔王』がいる。
エルフの魔王であるシェラフィーヤ、ダーク・エルフの魔王であるエレン……などだ。
そんな連中を差し置いて、いちプレイヤーであるオレが『魔王』―――
こいつのお陰でオレは相当割を食った。
あまり他人を褒めると言うのはオレの柄じゃないが、妹のノエルには感謝している。
そしてイザナミやイザナギにも……
……まあ、あと一人いる事はいるんだが―――あいつはこの際ノー・カンてことで。
つまり何が言いたいかと言うと、オレの周りには徹底的に人がいなかった……寄り付かなかった。
それもこれも、オレの「対人スキル」が強すぎて怖がられたからだ。
オレの対人スキル……って、「指弾」や「マーキング」しかないのになあ……。
だが、それの“応用”で、並み居る強豪を軒並み潰してきた―――その際、オレの
そう……オレが『魔王プレイ』をして名を馳せさせた理由こそ、世にいう『チート』よりも『チート』なこのスキルのお陰でもあったのだ。
それにしても……オレが『魔王』かあ―――……。
「……なあ姉さま、ちょっと思いついたことがあるんだが―――……。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「えっ……いま、なにを?」
「お前を元に戻してやる―――そう言ったんだよ、シェラフィーヤ。」
私は……朝起きてから事態がこんなにも大きく変わっていたことに、驚きを禁じ得なかった。
それに私が寝ている間に、アベルが率先して動いてくれていた事に感謝しなければいけないところだったのだが、なぜこの場所にエレンがいるのか―――その事はまだ不明のままだった……。
「ありがとう……でも、じゃあなぜえれんがここに?」
「ん? 証明してくれる人間が欲しかったからさ。」
「しょう……めい? なんの……?」
その時私は直感が働いた―――この、雰囲気……そしてこの、表情……。
まるであの時と同じだった―――私の家臣達が、嫌がる私を無理やり押さえつけ、魔王である私からなにもかもを奪い去った、あの時と……。
だから……怖かった…………
怖くて……俯いているしか外はなかった…………
「確か魔族……ってのは、無理矢理他人から奪うんだったよなあ? そしてそいつは、ある意味魔族の流儀だとも。」
「…………ええ。」
「だから奪ってやったのさ。 このオレに負けたヤツから、な。」
「…………え?」
「なあ、エレンさんよ、あんた負けを認めたよな?」
「……………………。」
「手前の都合悪くなりゃ
「……ああ、負けた…………。 口惜しい話だが、負けを認めてしまった!」
「そうか……なら話せ―――お前の目的を、全部だ。」
「私は……親友であるシェラフィーヤの国の家臣から、最近彼女が失脚し、幽閉投獄されていたところを脱獄され、この国に亡命しようとしているらしいから、見つけ次第捕らえて引き渡して欲しいとの要請を受けていた。
私は……よく昔から、彼女の理想……夢のような物語り―――夢物語を聞かされていた。
勝ちを拾えば総てのモノが手に入り、負けを拾えばなにもかもを失う―――それが
だがその中でたった一人、争いに
最初は私も、そいつの言っていることを小馬鹿にはしていたが、真剣に話をしているその姿に、次第に惹き込まれてしまってねぇ……。
そいつはね、そんな話をしてる時はいつも「キラキラ」しててさ……こんな私にとっちゃ
だがあいつらは……彼女を引き渡した後どうするつもりだったんだ! そんな事は知れている―――処刑だ、断頭台の露だ!! だから私は考えた、バカはバカなりにね。」
「そして見つけ出した答えが、シェラフィーヤ……いや、『イラストリアス』を奉じた上で、彼女の国を取り戻そうとした……。」
「ああ―――残念ながら、その策はどこぞの誰かさんが余計な真似をしたもんだから、ポシャッちまったけどねえ。」
それは……そんな話は私は初めて聞いた。
確かに私は、かつての自分である“
けれどもその半ばにして、彼女の権謀術数にはまり、
彼女は……エレンは私の事を心配していてくれたんだ―――
なのに私は―――エレンの事を信じ切れないで……
「そいつは悪かったなあ? だがこれも世の常とやらだ。 お前も、そのくらいの事は覚悟してたんだろう?」
「ああ―――覚悟はした、そして負けた。 さあお前は何を望む! この、負けて地に
「そんなことは知れておろう。
お前自身だよ。
いや、正確には……お前とあと少しの手勢が欲しい。
それでひとまずは手を打ってやろうじゃないか。」
その時私はふと気が付いた―――まだ短い期間でしかないのだが、彼のこの、少々芝居がかった口調は初めて聞く。
そうそれは―――まるで『魔王』の様に……。
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