第9話 密  談

恐らく私の国やエレンの国―――はたまたはこの世界のどの国家の軍隊にも召し抱えられたなら、一線級の将軍として活躍出来てしまうほどの武芸の達人……。

けれどそんな彼に付き添う印象でしかなかった彼女……『静御前』なる人物が、アベルに促されてようやくその重い腰を上げようとしていた。


「どうやら手の者が、またあなた様に負かされたようですね―――『人中の魔王』。」

「それであんたはどうするんだ? 敵意がないなら、そろそろを解いてくれないか。」


今アベルは彼女に対して“何か”を解除してくれるよう要請をした?

そう言えば―――私が最初に2人を見た時、“何か”を感じた……

この解除の要請が、その“何か”だとしたら―――……

すると―――? その要請に応じるように、感じていた“何か”は感じなくなった。


「ちょっ、ちょっと待っていただきたい! 「イザナミ」殿! それでは約束が違うではないか!」

「約束……? ああ、確かにあなた方には一宿一飯の御恩はありますれば、すでにその礼は返したはず。  違いますか? 『クレシェンテ』。」


この女の人、なぜエレンの二ツ名を? いや、今感心するのはそこじゃない……なぜなら感じるようになってしまったからだ、それも先ほどのとは比べ物にならないくらいの……。


「おーいおい―――全く頼むぜえ? 折角≪神域≫を解除させてやったのに、また発動させんなよ、ダーク・エルフのお姉さん。 それでなくとも今は気が立ってんだ―――そこをこのオレがなんとかなだめてやったというのにさあ……。   ああ、一つ言っとくけどさあ、こいつ……そこでいまだおネンネしてるヤツよかよっぽど強えぇぜ。  何しろこのお人ときたら―――」


「『人中の魔王』。」

「へへ―――悪ぃ、ちょいと口が過ぎちまったみたいだな。」


アベルが尻込みをしている―――?

そんな……あんな、一見して護って貰うようなイメージでしかない人が、アベルと同等おなじかそれ以上の実力者だなんて!?


しかし『静御前』である「イザナミ」は、アベルと合流するのが目的であったかのように、アベルとの対決を避けたのです。


「多少なりとて手間をかけさせてしまったようですね、団長様。」

「いや、そっちこそ冷静な判断で留まってくれていて、非常に助かったぜ、副団長殿。  あの対決厨バカだけだったら、強敵求めてあっちゃらこっちゃら転々とするだろうからなあ。」


「アベル―――あなたが対決厨それを言いますか……特大ブーメランですよ。」

「たいけつ、ちゅう? とくだい、ぶうめらん??」


「対決厨と言うのはですね、自分の仮想敵を作って“対決”ばかりをするプレイヤーの事です。  これが仮想敵にされた相手にしてみれば迷惑この上ない話で、何もしていなくとも急に喧嘩を吹っ掛けられるようなものでして……どこぞかの三下チンピラですよねえ?」(ニヤニヤ)

「おーい、ノエル―――手前ぇいい加減にしとけよ……」


「そして特大ブーメランと言うのは、他人を批判した言葉がそのまま自分に……ではなくて、言った以上の“おつり利息”がついて、言った本人に突き刺さる―――まあどこぞかの「ツンデレ」さんは、自分の機嫌次第で周りに噛みついていた前科喧嘩を吹っ掛けていたことがあることですしねえ~~」(ニシシシシ)

「よし決めた、ノエル……今からお前にお仕置きじゃあ~!」


仲が良いのだか、悪いのだか……この兄妹はよく分からない。

それに「ツンデレ」……って、もしかしてアベルの事?

でも確か……先代お父様の蔵書の中にあった文献によると、『素っ気無い対応をしながらも、その実には大切に思っている』……だったような?

あの幼い頃に見た時には意味が分からなかったんだけど……「ツンデレそれ」ってこういう事だったの??

意外だったなあ―――……


と、そんな由無し事他愛のない事で感心している最中さなかであっても、事態と言うものは動いているわけであり……



「申し訳次第もない、姉さま……」

「いいのよ―――イザナギ。」


「しかし、姉さまの読み通り、この地にじっとして居れば、いずれ彼方かなたの方から歩み寄ってくると……そう言われたのですからな。」

「全くだぜ―――おぇはすぐどっかへ行っちまうからなあ、強敵ともを求めて。」


「そなたはそなたで懲りんヤツだな。  さきほどもノエルから痛烈に言われただろうに。」

「うるっせえなあ、『覇王ウオー・ロード』……小芝居なんざ打たなくていいぜぇ……おら、来いよぉ―――本気でブチのめしてやるぜぇ……。」


「ほら、こういうところですよ―――。」

「ああ、なるほど。」


外野そこうるせえぇ~! お前らまとめてけちょんけちょんに……」

「『人中の魔王』―――……」


一方で暴走をする者がいれば、そのまた一方で抑止する者もいる……暴走するアベルをよく抑止せいしてくれるイザナミさんがいてくれてどうにか釣り合いが取れているのだろう。

それに……おそらくこの時私は確信していたのだろう―――この人達は”その一党PT仲間”なのだと。

そう仮定をすれば、「イザナミ」さんと「イザナギ」さんが、この地……エレンの国で「アベル」と「ノエル」ちゃんを待ち受けていたことも納得できる。

納得はできる……の、だが―――……


その日、久々に会った仲間達は、いまだダーク・エルフの国から出ず、留まったままだった。

それにこの日、色んなことがあり過ぎて疲れていた私は、早い内から深い眠りへと墜ち―――……

ただ、私が寝ている間、この4人の内で話し合われたことなど、到底知る由もなかったわけであり……


「おはよー……」

「ああ、お早うございます。  昨夜はよく眠れたようですね。」


「うん……」



寝覚めて起きた時、最初に朝の挨拶を交わしたのは、アベルの妹さんであるノエルだった。

その彼女がもうすでに気忙しくきぜわしく、何かの準備に余念がない……

ただそれは、ノエルばかりではなかった。


エレンの国の宿屋に5人一緒の部屋で泊っている―――その部屋の片隅には、昨日あまりいいところ活躍を見せられなかったイザナギさんが、愛用の剣を手入れしている……それにしてもその刀身が漆のような黒をしているだなんて、あまり見かけたことがない。


それはそれとして……なのだが…………



「あ……れ? あべるに、いざなみさんは?」

「ああ、あの2人なら出掛けていますています。  これからのために、ね。」


「これから?」

「ええ、そうです。」

「戻ってこられたぞ。」



アベルとイザナミさんが、揃って出かけているという。

一体何の要件で?

すると間もなくして、2人はある人物を伴って、私たちが泊っている宿屋に戻ってきた……



「えれん―――?」


「おっ、起きてたか……よーし、それじゃ始めるぞ。」

「(えっ……)いったい、なにをはじめるの?」

の事ですよ―――シェラフィーヤ様。」



もう取り繕えない……取り繕ったりはしない―――

その場にいた誰もが、私が”シェラフィーヤ”であることを認知していた。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「”あいつ”は寝たようだな。」

「ええまあ……今回の事で疲れはあったのでしょうが、私の調合した“忍の秘薬”で深い眠りへと墜ちています。  余程の事でもない限り目覚めたりはしませんでしょう。  ですがこれで“密談”が行えるというもの―――」


「“忍の秘薬”―――って、お前変なの仕込んだんじゃないだろなあ?!」

「仕込むわけないでしょうが?! 全くあなたはどれだけ“ツンデレ”なんですか。」


「ツンデレ言うな! 大体、オレがシェラフィーヤ様信奉者なのは、広く知れ渡っているだろうがあ?!!」

「そのそなたが間違わぬ程に、あの幼女エルフがそうなのだと?」


「ええ、最初は信じ切れないあまり、信奉の対象者に酷い事をのたまわっていましたがね。」

「だって信じれるかよぉ~~あのスペッシャリティ・ダイナマイツ・ボディのシェラフィーヤ様が、あんなちんちくりんになっちまってるんだぜえ~~? オレは明日から何を信じて生きていきゃいいかと……」(サメザメ)


「そこで悄気しょげる理由が今一いまいち判らんのだが……」

「はッ! 判るわけねえよなあ? だってお前“偽男”なんだもんよ。」


「貴様―――……」

「イザナギ……今はそんな時ではないでしょう?」



オレ達4人が、あの幼女エルフが寝静まったのを見計らって密談をしていたのは、まさにの事を話し合うためだった。


それに、今となっては現実は現実として見つめ合わなくてはならない―――

そう……今オレ達が一緒にいるのは、エルフの魔王―――シェラフィーヤなのだと言う事を。


その事を前提に踏まえた上での、これから……

そう、シェラフィーヤの身の振り方をどうするか―――



「幼女と成り、権力・権能が失われた者を匿う必要はない―――その選択は無いわけだな。」

「ああ……まあ、公式設定のキー・ビジュアルを見て惚れ込んだんだ。  そこのところの文句は誰にも言わせねえ。」

「まあ~彼女のグッズが出ると買い漁る時点で、ほとんど病的と言っても過言ではないくらいですからねえ……。」


「茶々を入れんな―――それにしてもだ、いまだ不明なのは、なぜシェラフィーヤ様が、幼女化したかああなったか―――なんだが……。」

「そこのところは既に調べてあります。  どうやら彼女は自分の国で無理な政策を押し通そうとして、家臣達の叛乱に遭い、一時期幽閉投獄されていたようです。」


「叛乱……」

「―――つまり、幼女化はその時の名残か?」

「だとて、判らぬのは「無理な政策」の件なんだが……」


「それに関しては心当たりならある。  お前たちが来るまでの間、あいつはあいつの親友である、あのエレンに協力を仰ごうとしていた。  恐らくは、エレンの後ろ盾を得て、再びエルフの魔王の座に返り咲こうとしていたのかもしれない。」

「けれど、その信じていた友人からも裏切られ―――ですか。  なんだか切ないですねえ。」


「では―――……」

「ああ、“姉さま”あんたの思ってる通りだ。  ダーク・エルフの魔王が、あいつがあいつの国で失脚し、捕らわれた牢獄から逃れたのを知ることができていたのは、“彼の国エルフの国”からの要請が来たからなんだろう。  そこであいつの親友は考えた……どうすれば、あいつに協力をしてやれるか……を、な。」


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