十三、マタタビそして酒盛り

 和多々比がガンに侵されていることを告白した日から数日後、いつもの如くバイトから帰っきた和多々比。

 玄関をあける前、何か違う匂いがするな? と思い開けてみるとダイニングキッチンでシロとクロが酒盛りをしていた。

「あ、おかえりなしゃいませ、だんなさま~」

「おかえりなのじゃ、お主」

 コタツの上には一升瓶が何本か、そして酔いつぶれているクロの姿が。

 クロはコタツからするりと抜け出し、千鳥足で近づきながら抱きつく。

「えへへ~、だんなしゃまの匂いです」

 そう服に顔を埋めるクロにシロは、お猪口を持ちながら「なにやってんじゃ」という顔をしている。

「なに、呑んでいるのか?」

 クロは匂いをスハスハしており、シロはゆっくりと呑んでいる。今までとは違う異質な光景に、和多々比は混乱するばかりである。

「ほら、こっちにくるのじゃ。お酌をしてあげるのじゃ」

 そうシロが手招きをしてくるので、仕方なしにクロを引きずりながらコタツへと入る。

「ほれ、一杯呑んでみろ」

 そうシロがいいながら徳利を取りお猪口に注いでいく。

 ちらり、とシロの顔を伺ってみるとほんのりと赤くなっている。一方、クロの方を見ると真っ赤になっていて完全に酔っている。

「ほらほら、だんにゃさま~、ひとのよでは手に入らない。またたびしゅでしゅよ~」

「またたびしゅ?」

「そうじゃ、木天蓼酒またたびしゅじゃ。文字通りマタタビを使ったお酒での、儂ら猫の妖がとっても好む酒なのじゃ」

 もちろん、アルコールも入っているから人間でも酔えるぞ。とシロは付け足した。

 注がれたお猪口を見つめ、匂いを嗅いでみる。すると、甘い独特な匂いがしてきて飲みたくなってくる。

「さあ、ぐいっと行ってみてくだしゃい」

 クロに勧められていよいよ断れなくなってきた。和多々比は覚悟を決めて、お酒を一気飲みする。

 口の中に香るのは、甘い日本酒に似た味。すると、急に酔いが回ってくる。

「あ……ああ、いいさけだ」

 天地がひっくり変えるかのような感覚に襲われ、体の空気が抜けるかのような感じになる。

「ふむ……ってどうたんじゃ?」

 シロが心配してる声が聞こえるが良く見えない。そうまるで、視界がぼやけているような……。

「あれれ~? だんなしゃま、ねこちゃんがいましゅよ~」

 そいいい、クロに頭を撫でられる。ああ、心地よいずっと撫でられていたいものだ。そう和多々比は思う、一方。

「どっ……どうたのじゃ、お主! そんな……猫の姿になって!」

 えっ、と思いサーッと酔いが引いていく。恐る恐る自身の手を見てみると……猫の手になっていた。

「にゃ……にゃにーッ!?」

 あ、言葉は普通に出るんだ。とどこか達観した思考の元、オロオロをしだす。

「まさか、木天蓼酒にそんな効果があるなんて……」

 シロの声がそうつぶやく声が良く聞こえ、いよいよ本当に猫になってしまったんだ。と思う。

「あ、だんなしゃまお久しぶりで~しゅ。また、ねこの姿になって転生したんでしゅか~? って、ええぇッ!?」

 クロがようやく目覚めて状況を理解したようだ。

「そんにゃ、僕が猫になるにゃんて」

「そんな、人化の妖術は使えるんか?」

「良く見てください、たたの猫ですよ。化け猫でもない猫が妖術を使える分けないじゃないですか」

 と、クロが冷静にツッコム。三者三様に慌てているなか、和多々比が思いつく。

「なあ、もしそれが薬のような物なら、寝るなり時間が経てば治るのでは?」

 そうとなればいざ実行、シロに抱っこして布団まで持っていってもらい寝てみる。

 そして、明日の朝。目覚めた和多々比が再び恐る恐ると目を開いてみると、人間の姿に戻っているのを確認できた。

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