九、見学そして出会い

 シロとクロに泣き付いて寝てしまった日以降、和多々比はしっかりと意思や感情を表現するようになった。

 三人の会話は増え、いつしか家族同然かぞくどうぜんの関係性へと変わる。

 ペットでもない、姉妹しまいでもない、かといって親でもない、形容けいようし難い関係性であるがしっかりときずなで繋がれている事は確かだ。

 昼間は和多々比がバイトのために家を留守にしているが、シロとクロは必ず出迎えてくれる。

 そんな素晴らしいかけがえのない日常を全力で楽しんでいたある日の事。

「なんじゃ、もうばいとに行くのか? 前も言ったじゃろうが儂らが養っていけるぞ、ばいとなんぞせず、一緒に家でゴロゴロしようじゃ」

「大丈夫だよシロ、それに働かないとダメ人間になってしまうし」

「そう、あわ坊がそれを望むならいいのじゃが……」

 シロは不満そうな顔をしながら和多々比を送り出そす。

 和多々比を送り出してしばらく経った後、シロはハッと何かに気が付く。

「もしかしたら、あわ坊はぶらっく企業とやらにに洗脳されていて、馬車馬の如く働かされいるかもしれん。 クロ!」

 またもやシロが叫ぶとクロが何もない所から現る。

「ハッ、お姉さま」

 クロは急に私を呼び出してどうしたのか、と焦≪あせ≫った顔をしている。

「あわ坊を助けにいくぞ、準備をするのじゃ!」

「和多々比様を? なぜ?」

「あわ坊が助けを求めているのじゃ、早く!」

「なんですって!? 早くいかねば!」

 急いで猫耳と尻尾をするりと体に収めるようにかくして外に出る。

「クロ、あわ坊の匂いはもちろん覚えているな?」

「はい、忘れていません。それにとっても匂っていますよ」

 クロは鼻を鳴らしながら家を出て行き、シロはそれに着いていく。

 クロは何の迷いもなく足を進めて行き、20分程歩くととある場所にたどり着く。

 そこはコンビニで、看板には「タックマート」と書いてたった。

 入店音や人の目を気にする事なく、堂々と踏み荒らすように入るシロクロ。

「むっ、すみませんお姉さま。人間の匂いが多すぎてこれ以上の追跡は出来ません」

「そうか、まぁ良いそこらの店員に聞くかの。 おい、そこの者。って……や、山姥やまんばじゃ、山姥がなぜこんな所に」

 そのに立っていたのは、金髪黒瞳のヤマンバギャルだ。 今はコンビニの制服に身を包んでいるが、いざプライベートとなったら、派手なギャルらしい格好をするのだろうというのが溢れ出ている。

「ヤマンバギャルという人間の種族ですよ、お姉さま」

「そなのか、まぁ良い」

 すると、シロはギャルの前にずいっと近寄り人差し指を突き立てる。

「シロの名を以て命ず、牟田口むたぐちよ。和多々比の元へ案内するのじゃ」

 名札を読んだのかギャルの名字を良いながら命令をするシロ。

 本来なら、普通なら拒否するような状況だが、何かがおかしい。 突然、牟田口はボーッとしだしてフラフラとしながら裏手へと周っていく。

「お姉さま、まさか妖術ようじゅつを使ったのですか?」

「そうじゃ、これが一番手っ取り早いじゃかの」

 シロとクロは牟田口についてき、コンビニのバックヤードへと入る。

 裏手の事務所のような所に入ると、休憩している和多々比の姿が見えた瞬間シロは瞬間移動をしたかようなスピードで駆け寄り抱きつく。

「もう大丈夫じゃよ、あわ坊! 儂が助けに来たぞ!」

 涙を流しながら、力一杯ちからいっぱい和多々比を抱きしめるシロに和多々比は、一体何が起こったのだと混乱するばかりである。

「どうしたんだシロ? なあクロ、なんでこんな所に来ているんだ?」

 クロは説明をしようと口を開くが、何故ここに来たのか分からず言葉が出ない。

「それは……お姉さまが、和多々比様が危険にさらされているって……」

「そうじゃ、馬車馬の如く働かされているあわ坊を助けに来たのじゃ」

 エヘンと胸を張るシロに、クロは何かに気がついたようで垂直チョップをきめる。

「なんじゃぁ、なにをするんじゃクロ!」

「何をするのかはこっちのセリフですよ、お姉さま。 お姉さまの確証のない行動で今、和多々比様は迷惑しているんですよ」

 シロは和多々比に抱きつきながらクロと羯諦羯諦ぎゃーてーぎゃーてーと言い合う。

「ああ、もうシロもクロもどうしちゃったんだよ。牟田口さんどうにかして下さい」

 和多々比はこの状況に耐えられないのか、牟田口に助けを求めるが、ボーッとしたままで何の反応も帰ってこない。

「ああ、こやつまだ居たのか、もう下がってよいぞ」

「いや、少し待ってください」

 クロは牟田口の元へ近づきなにやらあちこちの匂いを嗅いだ後に。

「これは……面白い事になりますよお姉さま」

「なんじゃ、儂に聞かせてみよ」

 クロがシロに耳打ちすると、シロの表情が不機嫌な顔から笑みへと変わる。

「そうか、それは面白い事になりそうじゃな。 クロ、一旦家に帰るぞ」

「はい、お姉さま」

 そう言ったシロとクロは、風のように来て、風のように去っていった。

 取り残された、和多々比と牟田口の事を構わずに。

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