八、癇癪そして感謝

「はぁ」

 クロがため息をつく。

「ふむぅ」

 シロもため息をつく。

 二人は心底悩ましい顔をしながら考え事をしていた。

「作戦戊もだじゃったか……これ以上打つも手はないのう」

「ええ、お姉さま。 あれ以来、和多々比様な何も変わっていない」

 和多々比が鼻血を出して倒れた一件以来、時が流れたが現状な何も変わっておらず、冷たいままだ。

 もちろんシロとクロは、アプローチを何度か繰り返したが、それでも態度は変わらない。

「ええい!どうすればいいのじゃ!クロ!」

「私も考えていますよ、だけど……和多々比様は心を閉ざし、私達を受け入れる気はまったくないのでしょう」

 うなりながら考えている二人は、段々と不機嫌な表情へなっていく。

 時は過ぎ、昼間から夕方へ、夕方から夜へと移り変わる。

 それでも案は思い浮かばす考えている所に、和多々比が帰って来る。

 それを見るなり、シロが立ち上がり和多々比へ近づく。

「遅いのじゃ! 話があるこっちへくるのじゃ!」

 シロは和多々比の手を和室へとひっぱり、無理やり正座させる。

「さて、儂らがなぜこんな事になっているかわかるな?」

 一方クロは、熟考という深海に入ったのか和多々比が帰ってきた事にも気づかす、手をあごに当てて考えている。

 和多々比は、普段とは違う急なシロの行動に疑問符を浮かべながらも黙りこくる。

「それじゃ! その態度じゃ! 何故じゃ! 何故あんな冷たい態度を取るんじゃ!」

 シロは足を踏み鳴らしながら和多々比へ怒りをぶつける。

 目に涙を浮かべながら怒るその様はまるで、子供の癇癪かんしゃくのようだ。

 それに驚いたのか、クロと和多々比はシロをギョッと見つめる。

「なぜじゃ……なぜじゃ……」

 怒りはやがて悲しみへと変わり、ついにシロが泣き出しはじめた。

 涙が移ったのか和多々比の瞳にも涙が溜まり、静かに泣き始める。

「また……また、行ってしまうんだ」

 ドン底に落ちてしまったかのように絶望した声で悲しみの声を上げる和多々比。 その泣き声にシロとクロは気が付き我を取り戻す。

 先に動いたのはクロの方だ。 クロは和多々比へ抱きつき頭を撫でる

「大丈夫ですよ、私達はどこにも行きませんよ」

 シロは徐々に落ち着きを取り戻し、すすりながらも出来るだけ優しい声で和多々比に言う。

「なんじゃ、どうしたのか? 儂らに話してみよ」

 和多々比はうなづきながら語る、自身の過去を。

 小学校から高校までのイジメ。愛していたペットとの別れ。両親との死別。

 まるで嵐が吹き続けるかのような、過酷な人生の一端をゆっくりと途中で止まりながら語る。

 それをシロとクロは、一言も逃さぬと集中して聞き、クロは頭を撫でる手を止めなかった。

「そうか、あわ坊にはそんな過去があったのか……その時儂らが居なくてすまぬのぅ」

「だから……もう、これ以上望まない方が良いって思ったけど、シロ達が来て……それが幸せで、でもまた消えてしまうって思って……」

「よしよし、大丈夫ですよ。私達は何だと思っているんですか、妖怪ですよ? それも九尾きゅうびの猫ですよ?」

 シロはクロと一緒に和多々比へ抱きつき、耳元で言う。

「そうじゃ、儂らな妖怪、大妖怪じゃ。 そう簡単には死なんし、あわ坊の所から去らん。だから安心するのじゃ」

 散々泣き赤くなった顔を上げ和多々比は確認するかのように言う。

「本当、居なくならない?」

「もちろんじゃ」 「もちろんです」

 結婚の誓いをいうかのようなトーンでシロとクロは返す。

 シロとクロが居なくならないと約束したのか、安心したのか和多々比はワッと再び泣き出し二人にすがり付く。

 時間を忘れるほど泣き続け気が付いた時には、和多々比は泣き疲れて眠った。

 それでもシロとクロは抱きつくのを止めず朝になるまで続いた。

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