六、湯の花そして奇襲

 翌朝、和多々比は起きるとシロとクロはおらず、枕はいつものになっていた。

 誰もいない事を確認すると、クシャッと顔を歪ませ、枕へつっぷす。

 シロの甘い匂いを嗅ぎ取と、ハッと気が付き顔を上げる。

「夢じゃ、なかった……」

 これもまた夢なのではないかと、自身の頬をつねると明確な痛みが生じ、ここは現実であると分かると頬には一滴の涙が流れる。

「シロ……クロ……」

 自身に残るしこりのような寂しさを紛らわすために、頬を両手でパンパンと叩き目覚めさせる。

 こうして立ち上がり、また朝の準備をはじめる……

 またもや和多々比が家に帰ったのは夜になった。

 外から見える自分の部屋の窓をチラリと見ると明かりは着いていない。

 何か残念がるような顔をしながら玄関の扉を開けると、やはり誰もおらず部屋は暗闇に閉ざされている。

「……ただいま」

 いつも通り荷物を置き、シャワーを浴びて汗を流そうと風呂場へと入る。

 ところが風呂場の扉を開けるとムッとした熱気が襲いかかってくる。

 まさか、と思い湯船のカバーを開けるとそこには、白いお湯がみたてられていた。

「入るぞ~」

 後ろから声がする、と振り返るとそこにはシロの姿が。

「なんじゃ、あわ坊居たのか。 まぁよい背中でも洗ってやる」

 そう白々しく言うシロの姿は襦袢姿じゅばんすがたで立っておりすらっとした美しい体型が丸見えとなっている。

 まるで風呂に誰もいないと思っていたようだが、一切気にせず風呂場の奥へ向かい、ボディソープをを手にとり、手を合わせ泡立てる。

「さあ、背中を見せるのじゃ」

 和多々比は無言で背中を見せ預ける。

 たっぷりの泡が着いた白い手が背中をすべっていく。その姿はアイススケートのようになめらかで、するりするりと体をなぞっていく。

「こんなガリガリな体になって、しっかりと食っているのか? 腹が減っては戦はできぬと言うじゃろ、しっかり食べないと何事も上手くやっていけぬぞ」

 そう和多々比の体を心配するシロに和多々比は、「小食なんだ」と答える。

 背中を洗い終わったシロは、湯船から湯を汲み取り泡を洗い流す。

「さあ、湯船へと入ろうか。 先に入ってよいぞ」

 シロが湯船へと入れ、と促されるが和多々比は立ち止まり湯船には入らない。

「なんじゃ、どうしたのか。 どこかに傷があって痛むのか? あっ、湯の事じゃな。あれは儂のようじゅ……湯の花を入れたのじゃ」

 それを聞いた和多々比は恐る恐る片足の先を湯船につける。

 何もおかしな反応がない事を確認するとゆっくりと全身をけていく。

「どうじゃ? いい湯じゃろう、何せ妖の世界から持ってきた物じゃかろう。 人間の世界にはない物でのりらくぜーしょん効果? があるそうじゃ」

 両手ですくい取り顔にかける。

「いい」

「そうか良いか、気に入ってくれたか!」

 和多々比にめられたシロはご満悦まんえつで、「もっとしたい事があるなら、いってもいいのじゃぞ」と言う。

 それを聞いた和多々比は、顔を真っ赤にし急に立ち上がり、そそくさ風呂場から脱衣所へと出ていく。

「なんじゃつまらん、妹よ作戦じゃ」

 そうシロは一人で呟く。

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