三、朝そして自己紹介

 勝手かってについて来た猫が人間の女性になった日の翌日、和多々比は高々だかだかなスマホのアラームの音で目が覚める。

「なんじゃあ、この音は!?」

 シロが上にある猫の耳を塞ぎなが叫ぶ。

「ジェリコのラッパ、終末のラッパしゅですよ、お姉さま」

 クロはまるで最初から分かっていたかのように、冷静な顔をしながら間違った知識を並べる。

 スマホの画面をスライドしアラームを止め、2人の様子を和多々比が見ると、何か嬉しいような悲しいような表情を浮かべる。

「おっ、起きたなあわ坊。 おはようじゃ」

 満面の笑みで挨拶するシロ。

「おはようございます、和多々比様」

 静かに微笑みながら挨拶するクロ。

 この光景に和多々比は何事もなかったかのように布団から起き上がる。

「なんじゃ、まだ寝ても良いのに。 ん? もしかして儂と一緒に寝たいのか、あわ坊?」

「人間には仕事という物があるのでよお姉さま。 和多々比様はこれから朝の準備をしなければなりません」

 布団をポンポンと叩きながら二度寝を要求するシロ。 そそくさと和多々比の世話を焼こうとするクロ。

「なんじゃ、つまらんのぅ」

 二度寝要求をしても和多々比が従わないのを確認すると、シロは大きく伸びをして和多々比の元へ駆け寄る。

 すると、和多々比へ抱きつき、バックハグの体制へと入った。

 ビックリし目を開き赤面しているクロを尻目しりめに、シロは和多々比の耳元へささやく。

「なぁ、和多々比よ儂と一緒にぬくぬくせんか? ふかふかのお布団に入って儂と一緒に寝る、これ以上の快楽はあるまいて」

 シロの甘い薫香くんこうと女性の柔らかな体、そしてゆっくりと子供をあやすかのように和多々比の頭を撫でる手。

 男なすぐに布団へと戻り、一緒にぬくぬくするような状況でも和多々比は違った。

 バックハグからの拘束を解いて、そのまま顔と洗うために洗面台がある部屋へと入る。

「もう、朝から何ハレンチな事をしているんですかお姉さま」

 クロがシロを叱る。

「何、儂がただしたい事をしただけじゃよ。 それに儂らには、あわ坊にせん事があるんじゃなかろう?」

 それを聞いたクロは途端とたん黙りはじめた。

「儂らにはあわ坊を……」

 と真面目な表情をして語るシロは、洗面所から和多々比が出たのを見ると会話を止め、表情が笑顔に戻り、かまってかまってと近寄る。

 まったく、お姉さまコロコロと表情が変わりますね。 とシロは微笑ほほえましく思い、シロに着いてく。

「さて、和多々比様に説明したい事があります。 ちょっと時間をいただけませんか?」

「説明、何のことじゃ?」

 何のことかととんと分からないシロに、クロが耳打ちしシロがうなずき和多々比の方へ顔を向ける。

「私達が何故猫の姿になって貴方についてきたのか、そして何故このような人間に近い姿になれるのかです」

「そうじゃな、まず分かっておるかと思うが、儂はただの猫でも人間でもない、妖怪じゃ」

「はい、そして私達はある目的の達成のために貴方を選びました。 それを選んだ方法は匂いです」

「儂ら猫の妖怪はのぅ、匂いで相手の事が分かるのじゃ」

「そして匂いを元に|相応≪ふさわ≫しい人を探し続け、和多々比様に出会いました」

「あわ坊はのう、マタタビのようにうっとりする匂いがするのじゃ」

 それを聞いた和多々比は内心、何か気づいたようだがそれを表情に出さず押し殺す。

「なぜ、なぜ妖怪が人間の世界に来た」

 和多々比はつぶやき質問し、シロはパチンと指を鳴らし答える。

「良い質問じゃ、それなのう……気まぐれじゃ」

 和多々比の眉が、ピクッと少し上がる。

「単純に人間世界がどんな物か、どんな所があるか、そんな|些細≪ささい≫な事で私たちは来たのです」

「普通に人間世界に来てものう、儂らには宿はない。 そこで相応しい人を見つけ、そこに居つこうと思ったのじゃ」

 なるほど、猫という気まぐれな性格からか独善的に、人間世界へ来たようだ。

「そうか、勝手にしろ。 前も言っただろ自由に出入りしていいと」

 和多々比はそう言い切って立ち上がり、玄関へと向かい外に出る。 パタンと扉が閉じる音を残し和多々比は家から出た。

「のう、妹よ」

「はい、お姉さま」

「何かあわ坊、冷たくないか?」

「そうですよね、まぁあんな状態ですもの」

「しかたないのう、儂が一肌脱ぐしかない」

「私もお手伝いします」

 家に残されたシロとクロはひそひそと話し合う。

「うむ、任せたぞ妹よ」

「はい、任せますよお姉さま」

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