流動性の高い到着。そこからの冒険。
俺っちも名前のない少女の方も、気づかないうちに自然と街に到着していた。
さきほどまで一面草原で世界を作るときに間違えて建造物をなしに設定してしまったみたいになんにもない平原だったというのに、我々は街に到着していた。本当に気づかないうちに。しかしそれは唐突なんかじゃない。いっさいの予告も予感も予言もなかったけれど、俺っちたちは突然街に着いたわけじゃない。
そう、俺っちが目覚めたときと同じだ。
極めて流動的に、まるで紙芝居のように風景が草原から街中に変わったのだ。
街からは地中海沿岸のような雰囲気が感じられる。背が低く、白色やバターのような色の建物が多い。
けど、街が全体的に少し形が歪んでいる。そう、まるで寝ぼけた頭で作ったみたいに。
街の空気も、朝の霧のような薄さを感じる。
「誰かいないの?」隣で名前のない少女が辺りを見渡して呟いた。
「探そう」と俺っちが言う。
少女は頷いて、歩き出した。
石畳の上を歩く。不規則な楕円をしたその形は、どこか心を乱れさせる。
道のいたるところに建てられている家々は、窓が歪んでいて、その奥は暗くなって見えない。
まるで映画のセットみたいだ、と俺っちは思う。
それと同時に、少女がいきなり言う。「遺跡みたい。私たち、探検をしているの」
つまり、俺っちと少女は、遺跡を探検する映画の撮影舞台にいるのだ。
それに気づいた瞬間、この世界と同調したように感じられた。
体中の隅々まで、この世界が、酸素のように行き渡っていく。
——進むんだ。
誰かが呟く声がする。
俺っちは前へ進む。
一度も来たことがない土地なのに、足は動揺をいっさい示さない。
噴水広場に出た。水は吹き上げられておらず、錆びついている。
俺っちは止まらずに噴水を横切る。
「ねえ、一体どうしちゃったの?」少女が尋ねた。
俺っちは彼女を無視して、そのまま細い通路を通る。
——いいね。次は右だ。
右に曲がると、紙粘土の像が立てられていた。誰かの像らしいけど、よく分からない。たぶん男だ。
俺っちはどんどんと大股で歩く。少女はどうにかついてきているようだ。
「どこに向かっているの」少女が後ろから叫んだ。
「そこにあるんだ」
「何が?」
「カギだ」
俺っちは無意識のうちに走り出していた。
——そこだ。その家だ。
スポンジのへたってしまったケーキみたいな家だ。
辺りを見渡してみると、随分遠くまで来たらしい。街の外れだ。
「カギはあるかしら?」少女はドアノブを見てにっこりと笑う。けど、息を切らしているのは明白だ。
「あるさ」そう言って俺っちは扉から少し離れる。
身体中の力を振り絞って、体全体を捻って、ドアノブを裸足で蹴り飛ばした。
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