海が綺麗であるかどうか、それは大した問題ではない。
「海はとんでもなく汚い。あんたはそれをきれいだと思うかもしれない。だけどいいか? 海は自然だ。つまりそこは、生き物の居場所だ。家だ。そこでは、まいにちまいにち何万という魚たちが群れ、交尾し、糞尿を撒き散らしている。もしかしたら俺っちたちが知らないだけで、愛情や嫉妬もあるかもしれない。もちろんそれは海だけで起きてることじゃない。地球まるごとで言っても何一つ
「汚い」私はその言葉を口に出して頭の中にひびかせる。
「そうだ。もっと簡単にいうと、この海だって魚がいる。つまり魚は排泄をする。だからどんなに綺麗事を言っても綺麗じゃないんだ」
「ハイセツ?」
「うんちとおしっこだ」とユリは言う。
「あなたがきれいと思うものはなに?」私はそうたずねてみた。
ユリは首を三回回して、二回肩を回す。それから一回深呼吸してから白い歯を見せて笑う、「今のところ、ないな」
それから、私たちはボートをすすませて、適当なところでボートから降りて崖を登った。
そこには、何も無かった。ただ、永遠と真新しい草原がずっとつづいていた。
たまに風が吹く。そのたび、草原は気持ちよさそうに揺れる。まるで草原というひとつの生き物が、かみの毛をかわかしているみたいに、巨大な一体感がそこにはあった。
「きれい」私は思わずつぶやく。
「ったく、一体ここはどこなんだよ」ユリも、吐き捨てるようにひとりごとで言った。
「ねえそういえば、あの子たちはどうなったの?」私はあの部屋の中にいた子供たちを思い浮かべる。死んだように動かないあの子供たちを。そして私はいつの間にか足を止めていることに気づいた。
「分からない。でもさ」ユリは私の前を歩いている。私も歩き出した。
「何?」
「もしかしたら、俺っち達の方がおかしいのかもな。本来なら、俺っち達もあそこで眠っていたのかもしれないぜ」そう言って、ユリはまた上を見つめた。
「本来なら」
「ああ。それが何かの拍子で目を覚ましちまった。まるでコールドスリープで遠い惑星に行こうとしたけど、途中で機械の故障で起きてしまったみたいにな」私にはユリが何を言っているのかよく分からなかった。ワクセイというのは、どこにあるのだろう。
「どうしたらいいのかな」
「それは分からない。だから今こうしてアテもなく歩いている。違うか?」
私は首を横に振る。
「きっと、全部分かるはずさ。そうしたら、あんたは自分の名前を思い出せる」風が髪をゆらした。
私たちは、どこへ行くのだろう。
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