第8話 第三回公判
「被告人は無罪とする。」
第三回公判で、決着はついた。弁護側は録音を手に入れ、事故当時の二人の会話を確認した。検察側はもう意義申し立てすることもなかった。
ナオも三回目の公判を迎えるころには、南の怪しすぎる行動のおかげで少し正気を取り戻し、話ができる程度には回復した。ナオが最終陳述で山野華に深々と頭を下げて謝り、それに答えて華が頭を下げ返すシーンには、傍聴席からすすり泣きが絶えなかった。
判決後、世間の見方は一変し、誹謗中傷の的は南に変わった。ナオがさくらに告白した時の音声が、映画の告白シーンと被り、公開直後から映画は大ヒットした。ナオのアイドルグループは新曲に悲恋のバラード曲を出し、これもバカ売れ。ナオは何とか仕事に復帰したが、時折見せる辛そうな顔が、応援したいファン心をくすぐり、さらに売上を伸ばした。
放心から覚めたナオの精神状態は、現実が見えているだけに逆に限界だった。売上急上昇は明らかに裁判効果だ。素直に喜べる訳がない。売れれば売れるほど、さくらの死を踏み台にしているようで、どうしようもなく辛かった。もう辞めたい、と思っても、今ほぼナオのおかげで売れているグループから抜ける事は、事務所が許さなかった。
死んでしまいたい、そう思った時、さくらの娘から初彼岸の案内が届いた。簡単に墓参りをする程度だが、渡したいものがあるから参加してくれ、との事だった。
自分がさくらを殺した、と思っていたナオは、まさか娘から墓参りを許してもらえるとは思っていなかった。二度と会いたくもないであろう相手に連絡してくれた事だけでも、ナオは感謝し少し救われた。
墓参り当日娘から渡されたものは、小説のプロットだった。タイトルは、「きゅん死に裁判」。ナオは三度見した。
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