2
窓の向こう側には、小林滝ちゃんの姿が見える。(滝ちゃんの席は窓際の私の一つ後ろの席だった)
滝ちゃんはそこからぼんやりと、(退屈な数学の授業をさぼりながら)窓の外に咲いている美しい満開の桜の木々の姿を見ていた。
その滝ちゃんの視界には、間違いなく桜の木の枝に腰掛けている私の姿も入っている。でも、滝ちゃんは私のことに全然気がついてくれない。(手を振っても振り返してくれない。それは普段では絶対にありえないことだった)
滝ちゃんには私のことが見えていないんだ。
以前からのいろいろないたずらで、わかってはいたことだったけど、やっぱり少し寂しかった。
滝ちゃん。
私はここにいるよ。
真っ白なお花の飾ってある、誰も座っていない滝ちゃんの前の席じゃない。
私はちゃんとここにいるよ。
そう思っても、(実際に声に出してみても、聞こえないのだけど)滝ちゃんは福のことを見てくれない。
滝ちゃんは銀縁の眼鏡の奥から、ただぼんやりと福の腰掛けていない、別の桜の木をさっきからずっと、ただ、眺め続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます