福の神(旧)

雨世界

1 大切な日にも雨は降る。

 福の神


 登場人物


 小森福 幽霊少女 十五歳


 小林滝 福の一番の友達 眼鏡少女 十五歳


 桃太郎 福の家で飼っている子犬 柴犬 一歳


 小牧駆 福の片思いの少年 十五歳


 プロローグ


 イメージシンボル 心


 ……私のこと、忘れないでね。


 ある日、私は幽霊になった。


 ……私は孤独だ。それは、生きているから孤独なのだろうか? 

 じゃあ、もし死んでしまったら私は孤独ではなくなるのだろうか? ……ううん。そうじゃない。死はきっと、ただのなにもない、……無だ。

 ……死んだら、なにもなくなる。(私が私じゃなくなっちゃう)……それは本当に怖いことだ。だから私はこんなにも今、ぶるぶると本当に怖くて、震えているのかもしれない。


 ほら、見て。神様が笑っている。

 私に向かって、(あんなに一生懸命になって)手を振ってくれている。

 だから大丈夫。

 きっと、絶対大丈夫だよ。


 誰かのために生きるということ。

 ……誰かのために、笑うということ。


 本編


 大切な日にも雨は降る。 


 第一章


 学び舎


 私の大好きなもの。


 私の生まれた世界は、(幽霊になるまで、全然気がつかなかったけど)すごくたくさんの大きな愛で満ちていた。


 私の大好きなものってなんだろう? とそんなことを小森福は考えてみる。いろいろある。大好きな音楽とか、お気に入りの作家さんが書く小説とか、アクション映画とか、面白い漫画とか、あと綺麗な洋服とか真っ白な靴とかいろんな帽子とか、中学校の友達とか家族(お父さんとお母さん。生意気な妹。それから子犬の桃太郎のことだ)とか、えっと、あとそれから山から大地の上に吹く気持ちのいい風とか、夜空にきらきらと輝く明るい星とか、夜の真っ暗でとても静かな時間とか、あったかいお風呂とか、お母さんの救ってくれるとても美味しいご飯とか、なんだか考えてみると結構いっぱい好きなものがあるなと福は思った。(案外私は幸せ者だったのかもしれない)


 大きな桜の木の上に腰を下ろして、見慣れた自分の中学校の自分の通っていた三年一組の教室を白いカーテンの揺れている開けっ放しの窓越しに眺めながら、そんなことを幽霊になった福は(すっごく暇だから)一人、暖かな春風の中で考えていた。

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