幽霊になってから、福はまるで空気のように体重が軽くなった。(すごく嬉しかった)

 ふわふわと桜の木の枝の上を歩きながら、福は滝ちゃんのいるすぐ目の前のところにまで移動をして、そこにちょこんと前かがみで座った。

 そして、まじかでじっと滝ちゃんのことを見つめた。


「小林さん、なに見てるの?」

 数学の日下部振子先生が笑いながら滝ちゃんに言った。

「……なんでもありません」

 と、顔を赤くしながら滝ちゃんは椅子の上で姿勢を正して、急いで数学の教科書を持って(上下が反対だったけど)振子先生にそういった。

 するとみんながどっと笑った。

 振り子先生も笑っている。

 まるでいつものように。

 ……私がいても、いなくても同じように。


 この明るい、優しい、暖かな春の桜の咲く世界の中で、笑っていないのは私一人だけだった。

 だから、福はこの場所からいなくなることにした。

 ここ(学び舎)は、幽霊になった私の居場所じゃないと、……泣きながら、一人福はそう思った。

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