第253話 プレゼントのアドバイスをもらう時は気をつけるように前編

 夜の闇が近づいてきた頃、俺達は宿屋を後にし砂漠の街トルムの中央通りへと向かっていた。


「でもこの街に到着した時は露店とかありませんでしたよね?」


 不意に疑問に思ったのかティアが思っていることを口にする。


 確かに宿屋を探していた時に中央通りを通ったが、整備された綺麗な道としか印象がない。


「けど宿屋の女将さんは嘘なんて言わないよ。きっと目的の場所に着いたらババンとお店がいっぱい並んでるよ」


 人を疑うことをしないリアナは前向きな意見を言葉にし、皆のテンションを上げる。


 まあ女将さんが嘘をつくメリットはないから俺も信じてるけど、地元贔屓でマシマシに話を持っていて、店舗数が少なかったらどうしようくらいのことは考えている。


 そして中央通りへと続く角を曲がるとそこには⋯⋯リアナの言うとおり多くの露店が立ち並んでいた。


「す、すげえ! これは早めにトルムの街に来て良かったな。とてもじゃないが馬車が通るスペースはないぜ」


 グレイの言葉通り中央通りに所狭しと店、店、店が並んでいてもしこの時間に街に到着していたならば、宿屋まで行けなかっただろう。


「ねえねえリアナさん、ルーナさん⋯⋯早く行こう」


 ティアが眼を輝かせながら2人の手を取り、露店へと駆け出していく。


 やれやれだぜ。自分が一国の姫だということを忘れてしまっているな。護衛する方の身にもなってほしいものだ。


「まあ女の買い物は男にはわからない世界だってじじいが言ってたぜ。そしてそれを嫌な顔せず見守ることが男の甲斐性だとも」


 グレイも俺と同じ事を考えていたのかルドルフさんの教えを口にする。


「俺達がしっかり見てればいいか」

「そうだな」


 そう言ってグレイはティア達の前へ、俺は後ろへと移動する。



「何かいい匂いがするね」


 幾つかの雑貨の露店を見た後、リアナがクンクンと鼻を鳴らすと俺にもその甘辛い匂いがわかった。


「これはジューシーバードをタレに浸けて焼いたやつだな」


 グレイは食べたことがあるのか、露店で焼いている鳥の肉を見て解説する。


「腿の肉で油が乗っていて旨いぜ」

「へえ⋯⋯そうなんだ。でしたら食べてみましょうよ」


 好奇心旺盛なティアの意見に反対する者はいない。そして言い出したティアがジューシーバードの肉を購入しようと店主に話しかける。


「おじさん、お肉を5つ下さい」

「はいよ! 全部で銅貨5枚と言いたい所だが、嬢ちゃんは可愛いから4枚にまけとくよ」


 出た! 可愛い娘が得をするやつが!


「ええ⋯⋯そんなことないですよぉ⋯⋯でもそう言って頂いて嬉しいです」


 ティアは店主にニコニコと笑顔で応対する。

 とても嬉しそうだ。

 もしかしたら最近両国の姫と比べられたり、胸の小さいことを弄られたりしてたから純粋に褒めてくれるのが嬉しいのかもしれない。


 まあ実際ティアの容姿はトップクラスだから、今は可愛い言われているが後数年経てば美人と言われることは間違いないだろう。リアナとルーナもだけど。

 とりあえず俺はこのバザーで何か買うときは安くなる可能性があるので女性陣に買って貰おうと決意した。


 そしてティアの手から紙で包まれたジューシーバードが渡される。


「頂きま~す」


 ティアの掛け声で皆肉を口にいれる。


 むっ! 旨い!

 肉に噛みつくとジュワッと肉汁が出てきて、しかもその肉汁と肉がタレによく合う。


「おいし~い⋯⋯私この味好きです。今度お城の料理人に言って作ってもらう」


 どうやらティアも気に入ったようで、小さな口を一生懸命動かして食べている。


「確かに美味しいですね」

「だね」


 ルーナとリアナも気に入ったようで、解説したグレイが満足そうな表情を浮かべている。


「あっ! あそこにあるのアクセサリー屋さんじゃない? 行ってみよ」


 ジューシーバードを食べ終わったティアは、次の露店に向かって進んでいく。


「「「うわぁ」」」


 女性陣が嬉しそうに露店で売っているアクセサリーを眺めている。


「お嬢ちゃん達可愛いから買ってくれるなら安くするよ」


 露店の店主が3人に対して決まり文句のセリフを言う。


「本当ですか⁉️ ありがとうございます」


 女の子はホント得でいいなと思いつつ俺も商品を見る。

 この店には指輪、ネックレス、ブレスレット、ピアスと豊富に品揃えがあるが、値段はだいたい銀貨一枚くらいなので、宝石はイミテーションだということがわかる。


 あっ! そうだ!

 ここでエルミアちゃんのお土産を買っていこうかな。値段も高くないし、綺麗だし、きっと喜んでくれるだろう。

 俺は少し真剣に露店にあるアクセサリーを見ることした。



 ヒイロが真剣にアクセサリーを見始めた頃、女性陣は指輪の話題で盛り上がっていた。


「ねえティアちゃんルーナちゃん⋯⋯もし好きな人にアクセサリーをプレゼントされるならどれがいい?」

「私はやっぱり指輪ですね」

「う~ん⋯⋯指輪もいいですけどネックレスもいいですよね」


 そう言ってルーナは自分の首筋をさわる。


「指輪は何となくわかるけどルーナちゃんは何でネックレスがいいの?」

「それはもちろん⋯⋯御主人様の所有物の証って感じがするからですよ」

「「えっ?」」


 ルーナの想像を越えた答えに思わず2人は声を上げる。


「ふふ⋯⋯冗談ですよ冗談」

「そ、そうだよね」

「冗談⋯⋯ですよね」


 ルーナの言葉を聞いてリアナとティアは、本当に冗談だったのかと後ろでこそこそと話し始める。


「本当にルーナちゃんは状態だったのかな、かな」

「私は今までルーナさんの冗談を聞いたことがありません。やっぱりさっきの言葉は本気だったのでは?」


 2人はルーナが心底ヒイロの奴隷になりたいのではと疑い始める。


「2人ともどうしたのですか? 内緒話をされて?」

「べ、別に内緒話なんかしてないよ」

「あ、あっちの指輪もいいなって話をしていただけです」


 異様な雰囲気を出していたルーナに対して、リアナとティアは誤魔化して別の話題を切り出すことにした。


「そうですね⋯⋯指輪は将来好きな人に薬指にはめてほしいですね⋯⋯チラッ」

「うんうん。女の子の憧れだよね⋯⋯チラッ」

「プレゼントしてほしいですね⋯⋯チラッ」


 3人とも言葉を発しながらヒイロに視線を送ったが、残念ながら今はエルミアのプレゼント選びに必死だった。


「「「はあ⋯⋯」」」


 そしてこの時3人のため息がシンクロする。


「もう少し私のことを見てくれてもいいのに」

「ヒイロちゃんの⋯⋯バカ」

「奴隷に対する愛情が足りないです」


 それぞれが小声で不満を呟き、自分が見たいアクセサリーの所へと向かうのであった。



「さて、どんなやつがいいかな」


 ヒイロは女性陣の考えなど全く知らず、呑気にエルミアへのプレゼントを考えていた。そしてこの時、ヒイロのことを影から監視する目が1つあったことに誰も気づくことはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る