第252話 砂漠の街トルム
馬車はボルチ村を出発してから、旅は順調に進んでいた。
道中魔物が何回か襲ってきたが、グレイの投げナイフで退治され、俺達の出番は皆無だった。
ここまでの旅路はシズリアで両国の姫が外套を着た者達に襲われたり、ミリアリス姫が魔物に襲撃を受けたり、ボルチ村では盗賊の退治とトラブルがたくさんあったからこれ以上は何も起こらないでほしい。もしかしたらこの中に、面倒ごとを引き寄せる人がいるのではないかとそろそろ疑いたくなってくる。
そして俺達は一泊野宿をした後、翌日の昼前には砂漠の街トルムの近くにある丘へと到着していた。
「凄いですね⋯⋯街とオアシスの向こう側は砂漠が一面に拡がっています」
ルーナは辺り一面に見える砂漠を見て驚きの声を上げている。
「でも街の建物が埋まっている所が見えますね」
ティアの言う通り、街の奥側にある建物は、一部上の方の階層しか見えないものがいくか見られた。
「以前の砂漠の街トルムは、街とオアシスしかなかったんだ。けど砂漠の侵食が進んで来て今では街とオアシスの所まで砂漠が迫ってきた。ひょっとしたら何年か立つと今俺達がいる所も砂漠になっているかもな」
「さっすがヒイロちゃん! 物知りだね」
「バールシュバインへと向かうまでの道のりだから予習していただけだ」
護衛役が道に迷ったりしたら最悪だからな。
「まさかとは思うけどこれからこの砂漠を真っ直ぐ進む⋯⋯なんてことはないよね?」
女性陣はその時のことを想像したのだろうか。額に汗を浮かべている。
「そうそう。だからみんなもっと薄着にならないとな。なんだったら水着でもいいと思うぞ」
グレイが嬉しそうに適当なことを言う。
「私、水着なんて持ってきてないよう」
「私もです⋯⋯ですが私は王族なので肌を晒すようなことをするとお父様に怒られてしまいます」
ティアはグレイと俺のエロい視線を感じたのか、胸を隠す仕草をする。
「ルーナさんは水着を持っているのですか?」
「いえ、私も持ってきていませんよ」
ルーナの水着姿か⋯⋯この場にいる全員があふれんばかりのワガママボディを想像するとティアは自分の胸に視線を向けてガッカリしていた。
「ティアちゃん⋯⋯世の中は平等じゃないってことだ」
グレイが哀れみの目をしてティアの肩に手を置く。
まあ俺の仲間内だと胸が断トツ大きいのはルーナとレナで、小さいのはティアとラナさんだからな。ティアは胸が小さいことを相当気にしてそうだ。だけどティアはまだ13歳だから年相応だと思うがラナさんは⋯⋯おっとこれ以上考えるのはやめておこう。
「グレイさん⋯⋯誰しもが思っても口に出さなかったことをよくもずけずけと⋯⋯クロ! やってしまいなさい!」
「キュウッ!」
ティアの命令を受けてクロはグレイに向かって火の玉を口から吐き出し攻撃する。
しかしステータスが高いグレイは器用にかわしていく。
「へっへ! そんな攻撃じゃあ俺を黒焦げにすることはできないぜ」
「キュウッキュウッ!」
クロは躍起になって連続で炎の玉をグレイに向かって放つ。
もう何をやってるんだか。とりあえずクロはこっちに攻撃してくるなよ。
「後グレイ嘘をついたらだめだぞ」
「「「うそっ?」」」
「砂漠を突っ切ることはしないよ。バールシュバインに行くためにはトルムを東に向かうから暑さにやられることはないよ」
「あっ! てめえヒイロ」
グレイから非難の声が上がるが俺は聞こえない振りをする。
ついでにもう1つのことも正すか。
「後砂漠で水着になったら直射日光で肌が焼けるような痛みになるから服装は基本長袖だぞ」
「そうなんだ」
「私達に嘘を言ったのですね。危うく騙される所でした」
俺の言葉を聞いてリアナとルーナの目がつり上がる。
「ルーナちゃん⋯⋯これはグレイくんにお仕置きが必要だね」
「そうですね⋯⋯私達もクロさんのお手伝いをしましょう」
「えっ⁉️ ちょっと待って2人とも⁉️」
リアナとルーナは素早く動きクロに追われているグレイの退路を塞ぐ。
「くっ!」
グレイは2人の様子を見て左に逃げようとするが時既に遅し、クロは一瞬自分から目を離した相手に向かって炎の玉を放つと見事に命中した。
「ぎゃあっっっ!」
大声を上げ燃えながらのたうち回るグレイ。
「これに懲りて私の胸について余計なことを言わないで下さいね」
「キュウキュウ」
焼け焦げているグレイに対して勝ち誇るティアとクロ。
しかし1人と1匹の言葉は火を消すことに躍起になっているグレイには届いていなかった。
自業自得とはいえ酷い。俺も変なことを言わないように気をつけよう。
燃え盛るグレイがかわいそうになったのか、リアナが
そして少し値が張る宿屋をとり、その一室で俺達は今後のことについて話し合う。
「少し早いけど今日はこの街で一泊して、明日の早朝に出発しよう。そうすれば夕方までにはバールシュバインに到着できる」
「そうですね。出来れば野宿は避けたいですから」
昨日は野宿だったが、王族のティアは慣れていないのか虫が苦手らしく何か出るたびに震えていた。まあ安全面からいっても街に泊まる方がいいし野宿はしないに越したことはない。
「そうかなあ⋯⋯私はキャンプ見たいで楽しかったけど」
だがリアナは逆の意見のようだ。気のしれた仲間と過ごすのが楽しくて仕方ないという表情をしていた。
ルーンフォレストでは勇者として色々行動に制限をつけられていたらしいから、今は自由を満喫できて嬉しいらしい。
「今日はこれからどうしましょうか?」
「はいは~い! せっかく新しい街に来たから地元の娘と仲良くなって⋯⋯いえ、なんでもありません」
ルーナの問いに逸早く反応したグレイだったが、女性陣の睨みに負けて自分の案を取り下げる。
「これはお仕置きが足りなかったかな、かな」
「もう1度クロさんに⋯⋯」
「キュウッキュウッ!」
もし自分の意見を最後まで口にしていたらグレイはまたクロに焼かれていただろう。
「それなら私はバザーに行ってみたいです」
「バザー⋯⋯ですか?」
ティアの意見に皆首を傾げる。
「そう。夕方頃から大通りでやってるって宿屋の女将さんが行ってたの。掘り出し物があるかもしれないよ」
ティアは王族だからバザーとかに行く機会がないから興味津々だ。こんな自由な時間は滅多にないからなるべくなら叶えてやりたい。
「俺はいいと思うけどみんなはどう?」
「私も行ってみたい!」
「ヒイロくんが行かれるのでしたら私も」
「やっぱり出会いを求めるなら外に行かなくちゃな!」
若干1名見当違いの答えを出している者がいたが、俺達は夕暮れの中、砂漠の街トルムで行われているバザーに向かうことにした。
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