第247話 ルドルフは油断ならない
魔族ドマがルドルフ様の魔法に倒された時、私はあることに気がついた。
「ルドルフ様」
少し語気を強めてルドルフ様をジロリと睨む。
「どうしたのじゃリズリット姫?」
私のお尻の部分に置いてあるルドルフ様の左手の甲を思いっきりつねる。
「あうちっ!」
「なぜそこにあなた様の手があるのですか?」
「す、すまんのう⋯⋯相手が強敵だったもんじゃから左手の位置がずれていたことに気づかんかった」
「本当ですか? 私の目には圧勝のように見えましたけど」
「た、達人同士の試合というものは一瞬で決着がつくことがあるのじゃ」
私は動揺しているルドルフ様に怪しむような目付きで視線を送る。
ルドルフ様がエッチなのは世界共通の認識です。2年前は私が幼かったこともあり、そのようなことをされたことはありませんでしたが、今は体つきも大人っぽくなってきましたので、ルドルフ様の守備範囲に入ったということなのでしょうか。
何だか光栄なのか光栄ではないのか⋯⋯。
それより今は疑問に思っていたことをルドルフ様に聞いてみる。
「ルドルフ様が⋯⋯仮面の騎士なのですか?」
圧倒的な魔法、それにタイミングよく襲われた私を助けてくれたことで、ルドルフ様が仮面の騎士だという可能性が私の中で高くなった。
「そうじゃ」
「やっぱり⁉️」
「と言いたい所じゃが残念ながら違う。クールで見た目がカッコいい所は似ているがな」
魔法がすごい所は似ていますが、それ以外は⋯⋯。
「ルドルフ様は仮面の騎士の方とお知り合いなのですか?」
「そうじゃな。あ奴はリズリット姫が襲撃される可能性があるから護ってほしいとわしに依頼してきおった」
仮面の騎士は私のことを心配して⋯⋯ありがとうございます。
「ルドルフ様⋯⋯依頼があったとはいえ、護って頂きありがとうございました」
「なんのなんの⋯⋯わしとリズリット姫の仲ではないか」
「ありがとうございます⋯⋯ですがそう言って然り気無くお尻を触ろうとしないで下さいね」
ルドルフ様の左手が気配を消して私のお尻に近づいているのはお見通しです。
「おっと⋯⋯こりゃすまんのうついクセで」
ルドルフ様と一緒にいる場合は、片時も油断できませんね。
「それで仮面の騎士の方にもお礼を申し上げたいのですが⋯⋯」
「それはちと厳しいぞ」
「なぜでしょうか?」
「奴は偉い人物と会うのが好きじゃないからのう」
なるほど。あれだけのお力を持っているため、権力者に利用されるのを嫌っているということですか。
「それでも直接お会いして命を救って頂いたことを伝えたいです。ルドルフ様は仮面の騎士がどなたかも御存知ですよね?」
「ほう⋯⋯何故そう思う」
私が仮面の騎士について質問するとルドルフ様の視線が鋭くなる。
「初めに仮面の騎士についてお聞きした時、見た目がカッコいい所は似ているとおっしゃっていましたから。実際に仮面を取った姿を見ていらっしゃらないと出てこない言葉です」
「ほっほっほ⋯⋯よく観察しておるのう。確かにわしは誰が仮面の騎士か知っておる。しかし正体を教えることはできん」
「そう⋯⋯ですね。私はルーンフォレストの姫ですから」
先程のルドルフ様のお話しを聞く限り、権力の象徴である王族の私には会いたくないでしょう。
「じゃがもし機会があれば会えるようセッティングしてしんぜよう。自分を助けた人物に直接お礼を言いたいのは至極同然のことじゃからのう」
「はい! ありがとうございますルドルフ様」
仮面の騎士に会える⋯⋯その時のことを考えると自分がとても高揚していることがわかった。
何故でしょうか? こんなに胸が高鳴るのは久しぶりです。
リズリットは自分の中にある気持ちに少し狼狽えていたが、ルドルフの声によって現実に戻ってくる。
「その前にまずはあ奴らを何とかせんと」
ルドルフ様の視線の先には倒れた兵士達がおり、私達はゆっくりと地上へと下りる。
「あれはルドルフ様が?」
「いやわしではない」
「では何故兵士達は倒れているのでしょうか?」
護衛隊長のドマは魔族だった。あそこにいる兵士達も魔族なのかしら。
「おそらくドマが死ぬことによって洗脳が解けたのじゃろう」
「洗脳⋯⋯ですか⋯⋯では彼らは魔族ではないと?」
「そうじゃ⋯⋯わしの鑑定魔法と秘密兵器で見てもあ奴らは人間と答えが出ておる」
そう言ってルドルフ様は高級そうな装飾が着いている眼鏡をかけ始めた。
「その眼鏡は⋯⋯」
「簡単に言ってしまうと魔族が化けているのを見破る眼鏡じゃ」
「そのようなものが⋯⋯」
魔導具? この眼鏡があれば私でも魔族かどうか判断することが出きるのでしょうか?
しかしその前にやらなければならないことがあります。
「ルドルフ様⋯⋯そろそろ私を下ろして頂けると助かります」
ドマを倒した後もずっとルドルフ様にお姫様抱っこをされている状態でした。地上に下りたら解放して下さると思っていましたが、変わらなかったため、私からルドルフ様に伝える。
「おお! これは気づかなかった! けして抱き心地が良かったからわざと下ろさなかったわけではないぞ」
「本当ですか?」
まさかこの短い間に三回もセクハラをしてくるとは思いもしませんでした。さすがは噂通りですね。
「そ、そんなことより兵士達が意識を取り戻したぞい!」
確かにルドルフ様の仰る通り、倒れていた兵士達の体が動き始めていた。
「うう⋯⋯」
「ここは?」
「我らはいったい何を⋯⋯」
倒れた兵士達が時間を示し会わせたかのように、頭を抑えながらゆっくりと立ち上がってくる。
タイミングが良すぎるため、私はルドルフ様が魔法で起こしたのではないかと疑ってしまう。
「我らは姫の警護でシズリアへ向かっていたはずでは⁉️」
どうも兵士達には混乱が見られているようです。洗脳されていた時の記憶はないかもしれない。
「はっ! リズリット姫様⁉️」
「それと賢者ルドルフ様まで!」
兵士は私やルドルフ様のことを存じていたようで、慌てて膝を着いて頭を下げる。
「恥ずかしながら姫がそばにいられることに気づきませんでした⋯⋯それにここはいったい⋯⋯」
「あなた達は――」
私はシズリアからここに来るまでの経緯を兵士達に話した。
「申し訳ございません! 魔族に操られ、そして姫を手にかけようとするとは! かくなるうえは死んでお詫びするしか方法が⋯⋯」
兵士達は皆腰に刺した剣を取り出し、自らの首に当てる。
「おやめなさい!」
「ひ、ひめ⋯⋯」
私は兵士達の自害する行為を止めるため、威圧を込めて言葉を発する。
「今死んでどうするのですか!」
「ですが我らは王族である姫に向かって剣を⋯⋯」
普通なら家族親戚共々死罪でもおかしくない事案であるけど。
「あなた達は私の何でしょうか?」
「ご、護衛でございます」
「ではその護衛が死んでしまったら私はこれから誰に護って頂ければよろしいのですか?」
「そ、それは⋯⋯」
「ここから王都までの道のり、そしてルーンフォレストに到着してから私は誰に護って頂ければいいのかしら?」
リズリットの言葉に兵士達は、はっ⁉️ と目が覚める。
自分達が死んでリズリット姫を護るものがいなくなり、そしてもし姫が死んでしまったらそれこそ不義にあたる。
「あなた達の命は私が預かります! もし死にたいのであれば私を護って死になさい」
「承知致しました」
こうしてリズリットの言葉により、兵士達は何とか自害をすることを諦めるのであった。
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