第248話 王女の帰還

「話も終わった所でルーンフォレストへ向かうとするかのう」

「ルドルフ様も御一緒して頂けるのですか?」

「もちろんじゃ。このような美人と一緒にいれる機会を⋯⋯いやリズリット姫のピンチを見過ごせる訳がないじゃろ?」

「⋯⋯今何か別のことを言いかけましたよね?」


 私はジト目でルドルフ様を見る。


「さあ? 何のことじゃ? わしも年じゃから最近物忘れが酷くて⋯⋯」


 全くこの方は⋯⋯本当に女性のことしか考えていないのかしら。でも一緒に来てくださるのは嬉しい。私にとって万の味方を得た気分です。


「それでは私達が先導致します」


 兵士達が慌ただしく出発の準備を行う。


「お主らそんなに急がなくても大丈夫じゃぞ」

「えっ? ルドルフ様⋯⋯それはいったいどういうことでしょうか?」

「こういうことじゃ!」


 ルドルフ様が何かしら魔法を唱えると兵士達が次々とこの場から姿を消していく。


「これは⋯⋯転移魔法ですか」

「そうじゃ⋯⋯もうわざわざ馬車を使って王都ルファリアまで行く必要はなかろう」


 さすがは賢者ルドルフ様。これだけの人数を転移させることができるなんて頼もしくも感じ恐ろしくも感じる。転移魔法は1度行ったことがある場所に瞬時に移動できる魔法⋯⋯ルドルフ様ならルファリアの玉座にも行かれたことがあるはずです。味方だから良いもののもし敵だった場合、転移魔法によって一瞬で玉座に攻めこまれてしまう。そうなりますと万の兵を持とうがルドルフ様1人に対して敗北するということが考えられます。


 けれどルドルフ様が無意味にルファリアへ突入することなどありません。もしそのようなことになる場合はルーンフォレスト王国が取り返しのつかないことをしてしまった時⋯⋯ルドルフ様は今回のランフォースお兄様のクーデターをどう考えていらっしゃるのか。まずは現在のルーンフォレストが実際にどのようことになっているか情報集めないと⋯⋯もし国が間違った方へと向かっているのであればルドルフ様ではなく私の手で⋯⋯。


 当たってほしくない未来を願いながら私はルドルフ様の転移魔法を受けた。



「こ、ここは⋯⋯」


 ルドルフ様の転移魔法で移動した場所は大きな門が見え、私はどこか懐かしき記憶を思い出させる場所だった。


「ルファリアの東門⋯⋯でしょうか⋯⋯」

「そうじゃよくわかったのう」


 2年前、私はここを通りアルスバーン帝国に向かったことを今でも覚えている。


「そうですか⋯⋯帰ってきたのですね私は⋯⋯」


 久しぶりの王都に感動する気持ちがあるかと思いましたが、特にそのような感情は沸いてこなかった。おそらく今が平時ではないこと⋯⋯後、アルスバーン帝国の方達にはとても優しくして頂いたことが私にそのような気持ちを抱かせない。


「さあリズリット姫よ⋯⋯馬車に乗って凱旋じゃ」

「はい」


 護衛の誘導に従い、ゆっくりと馬が動きだし東門を潜るとそこには多くの人が見られた。


「リズリット姫様だ!」

「無事に帰って来られたぞ!」

「姫様の帰りをお待ちしておりました!」


 東門付近に詰めかけてきた人々から暖かい言葉が発せられる。


「戦争が始まる前に無事帰って来られて良かった」

「これで周辺諸国を叩くことができるぞ」


 もう民達は戦争が行われることを受け入れているのね。けれど私が見た所これから始まる戦争を前向き捉えている気がする。

 おそらく開戦の理由を情報規制しているのだろう。

 今回の戦争を開戦理由は、帝国の者がルーンフォレスト王国の貴族を殺害したことにより、アルスバーン帝国の西側の領土の譲渡を申し出てきたと言っていた。だけどその貴族はアルスバーン帝国の第1皇子を殺害しようとしていた暗殺者だった。実際に私も偶然その現場に居合わせたので間違いない。

 本来であれば逆にルーンフォレスト王国側が賠償しなければならないことをランフォースお兄様が逸早く偽の情報を流し、正義は我にありと声高に叫んだのであろう。証拠がなければ言わば早い者勝ち⋯⋯例え嘘でも信じる者達はたくさんいる。ましてやその国の王の発言となれば誰を信じるか明白です。


 私は複雑な思いを抱きなから民衆の声に答え、王城へと向かうのであった。



 玉座の間にて


 私は現王であるランフォースお兄様にアルスバーン帝国から帰還した報告をするため、玉座の間に向かった。

 ランフォースお兄様は既に玉座に座っており、射ぬくような鋭い目付きで私を見ている。

 昔は私に対して嫌悪感を示していましたが、露骨に敵意を見せることはありませんでした。自分がこの国のトップになったから隠す必要はないということですか。


「リズリット・フォン・ルーンフォレストただいま戻りました⋯⋯


 私はあなたを王として認めていない。そのため以前と同じ呼び方を言葉にする。そして私は膝を着き、ランフォースお兄様の言葉を待つ。


「今は私が王だ。公式の場では王と呼べ」

「⋯⋯」


 私はランフォースお兄様の問いに無言を貫く。


「まあ良い⋯⋯それにしてもよく帰ってこれたな」

「それはどのような意味でしょうか」

「アルスバーン帝国の奴らが、お前を無事に返すか疑問だったのでな⋯⋯許せ」


 白々しい。私を殺そうとしたのはあなたですよね。


「アルスバーン帝国の方々は私に良くして下さいました。むしろ私の命を狙う者は護衛の中にいましたが」

「おそらくドマはお前をシズリアへ迎えに行く時に殺され、成り代わられたのであろう。相手は魔族だったと聞く⋯⋯


 そのお言葉を待っていました。


 私の横に控えていたルドルフ様が立ち上がり発言をする。


「話の腰をおって悪いが、リズリット姫は2度命を狙われておる。これは3度目もあると考えるのが普通じゃ」

「ルドルフ⁉️ 護衛について貴様には関係ない! 王族を護る役目は親衛隊と決まっている!」


 ランフォースお兄様は私を護って下さったルドルフ様が疎ましいのか、露骨に声を荒げる。


「お主が先程言ったように普通の兵士ではリズリット姫は殺されるのがオチじゃ。じゃからわしが護衛に付いてやると言っておる」


 ルドルフ様の提案に玉座の間がざわつく。


「おお、それはよい」

「相手が魔族ならルドルフ殿が適任だ」


 概ね好意的な意見が返ってきているので、ここにいる貴族達全員がランフォースお兄様に毒されているわけではないことがわかる。


「まさかお主⋯⋯自分の妹が殺されてもよいと言うのか?」

「そのようなことは⋯⋯くっ! 好きにしろ!」


 そう言ってランフォースお兄様は玉座の間から出ていってしまう。


 ランフォースお兄様はボーカーフェイスが出来ないようね。自分を御することができず顔に出過ぎだ。あれでは王としてどうかと思います。

 本当はエリオットお兄様のことも聞いて見たかったけど、そのことはルドルフ様に止められていた。なぜなら今までエリオットお兄様のことを聞いた者達は全て謎の死を遂げているから。

 謎とは言ってもエリオットお兄様のことでデメリットがある人物は1人しかいないので犯人はわかっているのだけれど。


 とにかく私の願いが叶って良かった。王城の中で誰が敵かわからないため、ルドルフ様の護衛は必須でした。

 私の護衛は親衛隊にということは読めていましたので、ただの兵士では私を護ることが出来ないと誘導する必要があったため作戦成功です。

 これで安心して王城で過ごすことができます。


「これから24時間、入浴やトイレもずっとわしが側に付いておるから安心するがよい」


 いえ、やはりどんな時でも油断はしては行けませんね。


 こうしてリズリットは刺客からの襲撃をかわすことができ、無事にルファリアへと戻ることができたのであった。

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